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ゲームの勇者と入れ替わりました  作者: エア


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第5話『イズに似た女の子/メモ通りにはいかない!』

カイトサイド


 学校というところにも、少しずつ慣れてきた。

 授業中は恭介がこそこそと助けてくれるし、他の生徒たちも良明のことを心配してくれている。

 この世界の人間は、概ね穏やかで親切だ。

(良明は良い環境にいるのだな)

 そんなことを思いながら廊下を歩いていると、前から声をかけられた。

「岬君、おはよう」

 振り返ると、清楚な顔立ちの女生徒が立っていた。

 前の席の——イズに似た顔の女の子だ。

「あ……おはよう」

「今日は顔色いいね。この前心配してたから、良かった」

 彼女は柔らかく微笑んだ。

 その笑い方が、イズのそれと重なって、僕は一瞬言葉を失った。

(……似ている。本当に、イズによく似ている)

「あの、どうかした?」

「い、いや。なんでもない」

 僕は慌てて視線を逸らした。

(落ち着け。この者はイズではない。良明のクラスメイトだ)

「ねえ、岬君。今日の数学の宿題、解けた? 私、三番が分からなくて」

(数学……あの記号が並ぶ学問か)

「……申し訳ないが、俺も三番は分からなかった」

「そっか。じゃあ一緒に考えようか、昼休みに」

(一緒に、か。しかし数学は全く分からない。困ったな)

「あ、ああ。そうしよう」

 答えてから、僕は内心で頭を抱えた。

(どうする。この世界の数学など、全く分からないぞ)

 昼休み、彼女——宮川美紀子と二人で教室の隅に座った。

「岬君って、いつもと雰囲気違うよね、最近」

 ノートを広げながら、美紀子がふと言った。

「……そうか?」

「うん。なんか、落ち着いてるっていうか。前はもっとぼーっとしてたのに」

(良明はぼーっとしていたのか。まあ、陰キャだと本人も言っていたな)

「少し、色々と考えることがあって」

「そっか。まあ、今の方が話しかけやすいかも」

 美紀子が少し赤くなりながら、ノートに目を落とした。

(話しかけやすい、か)

 僕はそっと彼女の横顔を見た。

(イズも、こんな風に微笑む。穏やかで、優しくて)

「あの、岬君? 三番、見てくれる?」

「あ、ああ」

 僕はノートを覗き込んだ。

 数字と記号が並んでいる。

(全く分からない。しかし……)

 旅の中で、魔法陣の計算をしたことがある。

 数と式を扱うという意味では、根本は同じかもしれない。

 僕はじっと問題を見つめた。

「……もしかして、この記号は、量を表しているのか?」

「え? そうだよ、xが未知数で——」

 美紀子が丁寧に説明してくれた。

 説明を聞くうちに、僕の中で何かが繋がった。

(なるほど。魔法陣の変数と同じ考え方だ)

「……こうすれば解けるのではないか」

 僕がノートに式を書くと、美紀子が目を丸くした。

「え、合ってる! どうして急に解けたの?」

「旅……じゃなくて、少し前に似たような問題を見たことがあって」

「へえ……岬君って、実は数学得意なんだね」

(得意ではないが、考え方は似ていた、ということだ)

「そんなことはない」

「謙遜しなくていいのに」

 美紀子がくすりと笑った。

 その笑顔が、またイズに重なる。

(困ったな。どうにも、重ねてしまう)

 昼休みが終わり、美紀子が席に戻りながら振り返った。

「岬君、ありがとう。また分からないところあったら聞いてもいい?」

「……ああ。構わない」

 美紀子が嬉しそうに頷いて、前の席に座った。

 恭介が隣からこそこそと囁いた。

「お前、宮川さんと仲良くなってるじゃん。すごいな」

「そうか?」

「そうだよ! あの子、クラスの中でも話しかけにくいって言われてるのに」

(そうなのか。イズに似ているから、つい自然に話せたのかもしれないが……)

「良明のクラスメイトだからな」

「いや、お前が良明だろ」

 恭介がずっこけるような顔をした。

(しまった。つい本音が出た)

「……そうだな。ははは」

 乾いた笑いで誤魔化しながら、僕は窓の外に目を向けた。

 青い空が、どこまでも広がっていた。

(良明、お前のメモは本当に助かった。次も残しておいてくれると助かる)

 僕は静かに、そう思った。


***

 帰宅後、僕は机に向かい、紙にペンを走らせた。

『良明へ。メモを読んだ。助かった。お前の仲間は本当に良いヤツらだ。心配しなくていい。 カイト』

 折りたたんで、机の上に置いた。

 良明が次に来た時、きっと目に入るだろう。

 そして、僕は箱の前に座り、矢印の付いたボタンを押した。


良明サイド


 目が覚めると、木の板を組んだ天井だった。

(……来た。またゲームの世界だ)

 体を起こすと、宿屋の一室だった。

 窓の外から朝の光と、街のざわめきが聞こえてくる。

 まず机の上を確認した。

 自分が残したメモは——ない。

(カイトは、俺が残したメモを読んでいるかな?)

 そう考えていると、扉が勢いよく開いた。

「カイト! 起きてたのか! 早く朝飯食って出発するぞ!」

 レオだ。今日も元気だな……。

「あ、ああ。分かった」

「なんか今日はすんなり起きたな。珍しい」

(カイトって朝が弱いのか。意外だ)

 食堂に下りると、マリアとイズがすでに席についていた。

「おはよう、カイト。今日は顔色いいわね」

 マリアが珍しく穏やかな顔で言った。

「今日の依頼、確認した? ゴブリンの群れが近くの村を荒らしてるって話よ」

「ゴブリン……」

(来た。メモに書いた通りだ)

 俺は内心でガッツポーズした。

 良明のメモにはこう書いてあった。『ゴブリン系は光魔法が有効だが、スライムとは違って物理攻撃も効く』と。

(今度は準備万端だ)

 朝食を済ませて、村の外れにある森へ向かった。

 森に入るとすぐ、茂みがガサガサと揺れた。

 飛び出してきたのは、緑色の小柄な生き物だった。

 尖った耳、黄色い目、手には粗末な棍棒。

(ゴブリンだ。ゲームと同じ見た目だ……ただし)

 臭い。ものすごく臭い。

(ゲームに臭いはなかったって、もう学習したはずなのに、毎回きつい)

「カイト、数が多いぞ!」

 レオが叫んだ。

 茂みから次々とゴブリンが現れる。ざっと十体以上。

(ゲームだと多くて五体だったのに……!)

「落ち着け! メモ……じゃなくて、作戦通りに行くぞ! イズ、光魔法を頼む! レオは近接で各個撃破! マリアは群れの後方を炎で封じてくれ!」

「今日は最初から指示が的確ね」

 マリアが感心したように眉を上げた。

「いいから早く!」

 イズが手をかざすと、眩い光がゴブリンの群れを照らした。

 光を浴びたゴブリンが怯んで動きを止める。

(よし、メモ通りだ! 光魔法が有効!)

 その隙にレオが駆け込んで、槍で次々と仕留めていく。

 マリアの炎が後方を塞ぎ、逃げ場を失ったゴブリンがパニックになった。

(完璧だ! 今度こそ想定内だ!)

 そう思った瞬間——。

「ギャアアアア!」

 ゴブリンの一体が、突然仲間の肩に乗った。

 そしてそこから、こちらに向かって飛んできた。

(飛んでくる!? そんな動き、メモに書いてなかったぞ!!)

「うわっ!」

 俺はとっさに剣で弾いたが、体勢を崩して地面に膝をついた。

「カイト!」

 イズが駆け寄ってくる。

「大丈夫!」

 俺は立ち上がりながら、内心で叫んだ。

(ゲームと現実は違う! メモはあくまで参考で、現場では何が起きるか分からない!)

 それでも、基本的な弱点情報は正確だった。

 イズの光魔法とレオの近接攻撃を組み合わせて、どうにか群れを制圧した。

「はあ……やった」

 俺は膝に手をついて息をついた。

「カイト、今日は最初から動きが違ったわね。何かあったの?」

 マリアが不思議そうに聞いてくる。

「……ちょっと、作戦を考えてきた」

「ふーん。記憶が戻ってきてるのかしら」

(そういうことにしといてくれ)

 レオが俺の背中をばんと叩いた。

「さすがカイト! やっぱりお前がいると心強いぞ!」

(心強い、か。ゲームオタクの俺が言われるとは思わなかったな)

 照れくさい気持ちを抑えながら、俺は次の依頼書に目を落とした。

(カイト、お前のメモは助かった。次も頼むぞ)

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