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ゲームの勇者と入れ替わりました  作者: エア


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4/7

第4話『また入れ替わった!?/ネクタイって、どうやって結ぶんだ?』

良明サイド


 目が覚めると、見慣れた天井だった。

 スマホのアラームが鳴っている。午前七時。

(……俺の部屋だ。本当に戻ってきた)

 昨夜、元の世界に戻った時はあまりの安堵で呆然としていたが、一晩寝てようやく実感が湧いてきた。

 起き上がって、まず自分の手を見た。

 細くて、剣だこなんてどこにもない、見慣れた手だ。

(よかった……)

 洗面台で顔を洗うと、鏡に映ったのは黒髪黒目の平凡な顔。眼鏡をかけ直すと、いつもの自分だった。

(カイトの顔じゃない。俺だ)

 ほっとしたような、少し寂しいような、妙な気持ちだった。

「良明! ごはんよ!」

 母の声。

 リビングに下りると、いつも通りの朝食が並んでいた。トーストと目玉焼きと味噌汁。

「なんか顔色良くなったわね。昨日まで変だったから心配してたけど」

「……そうかな」

「そうよ。お母さんのことも忘れたみたいな顔するし、言葉遣いは急に丁寧になるし、どうしちゃったのかと思って」

(それはカイトだよ。俺じゃなくて)

 俺は苦笑いしながら、トーストをかじった。

 学校へ向かうと、校門の前で恭介が待っていた。

「おー、良明! 今日はちゃんと良明っぽいな」

「どういう意味だよ」

「いやだってさ、この前めちゃくちゃ変だったじゃん。お母さんのこと忘れたとか言い出すし、言葉遣いはやたら丁寧だし、俺のこと見て『お前、誰?』みたいな顔するし」

(それ全部カイトの反応だ……)

「ちょっと体調悪かっただけ」

「ふーん。まあ元気になったならいいけど。あ、そうだ。ディスティニークエスト、スライム倒せたわ。火属性で攻めたら一発だった」

「……あー、そうか。良かったな」

(それ教えたのカイトなんだけどな。ゲーム画面見てどうにか答えたのか)

 なんだか妙な気持ちになりながら、俺は恭介と並んで教室へ向かった。

 授業中も頭はゲームの世界のことでいっぱいだった。

(カイトは今頃あの世界で何してるんだろう。レオ達と上手くやれてるか? マリアに怒鳴られてないか?)

「岬! 聞いてるか?」

 先生の声に、俺は慌てて顔を上げた。

「す、すみません!」

 クラス中から笑いが起きた。

「やっぱりまだ変だぞ」と恭介がこそこそ囁く。

「うるさい」

 俺は小声で返しながら、気持ちを切り替えようとした。

(落ち着け。今は現実世界にいるんだ)

 しかし放課後になっても、カイトのことが頭から離れなかった。

 家に帰るなり、俺はパソコンを開いてディスティニークエストを起動した。

(もし次に入れ替わった時、カイトに何か伝えられないかな?)

 そう思いながらメモ帳を取り出し、ペンを走らせた。

『カイトへ。俺は岬良明。お前と入れ替わったゲームオタクだ。次のエリアの敵の弱点と攻略法を書いておく——』

 書きながら、俺は苦笑した。

(まさか勇者にゲーム攻略メモを渡す日が来るとは思わなかったけどな)

 メモを机の見えやすい場所に置いて、俺はゲームの画面に向き直った。

 コントローラーを握って、ゲームを再開する。

 しばらくプレイしていると——。

 画面が、突如ぱあっと光り輝いた。

(え? また!?)

 俺は思わず腕で目を覆った。光はどんどん強くなる。

(またか! またこのパターンか!!)

 そして頭の中がボーッとし始めて——。

 意識が、遠くなった。


カイトサイド


 気がつくと、また見慣れない白い天井だった。

(……また、この世界か)

 僕は静かに体を起こした。

 窓の外は朝の光が差し込んでいる。どうやら良明と再び入れ替わったらしい。

(良明は今、僕の体にいるのか。ならばまた、あの世界でレオ達と共にいることになる)

 机の上に、何か紙が置かれているのが目に入った。

 手に取ると、几帳面な文字で文章が書かれている。

『カイトへ。俺は岬良明。お前と入れ替わったゲームオタクだ。』

(!)

 僕は思わず立ち上がった。

 続きを読む。

『次のエリアの敵の弱点と攻略法を書いておく。ゴブリン系は光魔法が有効だが、スライムとは違って、物理攻撃が効く。ウィザード系は近接攻撃で魔法を封じろ。ボスのトロールは足が遅いから、イズの光魔法を当て続けるだけで倒せる。あと、レオは感情的になりやすいから、落ち着かせながら戦え。マリアは口は悪いが実力は本物だから信頼していい。イズは優しいから無理をさせるな。三人ともいいヤツだ。頼りにしていい。   良明より』

 僕はしばらく、その紙を見つめた。

(良明……)

 画面の向こうで見ていただけのはずの人間が、自分のために、仲間のために、こんなものを残していた。

(お前は、思ったより……)

 僕は小さく笑った。

(ありがとう、良明)

 紙を大切に折りたたんで、胸のポケットに入れた。

 その時、部屋の外から声がした。

「良明! 今日は学校あるわよ! 早く起きなさい!」

(学校か。行かなければならないな)

 僕は立ち上がり、制服らしき衣類に手を伸ばした。

 白いシャツと紺色の上着とズボン、そして細長くひらひらした布。

(これは……首に巻くのか?)

 細長い布を手に取り、しばらく格闘した。

 結び方が全く分からない。

 五分後。

(……諦めよう)

 僕は細長い布を机の上に置き、とりあえずシャツと上着とズボンを着て廊下に出た。

「ちょっと、ネクタイは?」

 良明の母親が目を丸くした。ネクタイとは、もしかしてあの細長い布切れのことか?

「あ、えっと……結び方が、その」

「はあ? 何言ってるの。毎日やってるでしょ」

 母親がため息をつきながら、手際よくネクタイを結んでくれた。

(なるほど。こうやって結ぶのか)

 僕は、その手つきをじっと観察した。

(よし)

 僕は小さく頷いて、部屋を出た。

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