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ゲームの勇者と入れ替わりました  作者: エア


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3/5

第3話『スライムがゲームと全然違う!/この魔法の箱、どうやって使うんだ?』

良明サイド


 冒険者ギルドで受けた最初の依頼は、街外れの森に出没するスライム退治だった。

 依頼書には「初心者向け・危険度低」と書かれていた。

(よし。スライムなら、ゲームでも序盤の雑魚敵だ。楽勝のはず)

 俺は内心でガッツポーズしていた。

 ゲームの序盤、カイト達がスライムを倒す場面は何度もプレイした。弱点は火。動きは遅い。HPも低い。

 問題ない。

 ……そのはずだった。

「……でかい」

 森の中の開けた場所に現れたスライムを見て、俺は思わず呟いた。

 ゲームの画面で見ていたスライムは、せいぜい犬くらいのサイズだった。

 だが、目の前のスライムは、でかい。

 俺の身長をゆうに超えている。全身が泥のような緑色で、ぬちゃぬちゃと不気味に蠢いている。

 しかも、臭い。

(ゲームに臭いはなかったぞ……!)

「カイト、行くぞ!」

 レオが槍を構えて突撃した。

 マリアが呪文を唱え始める。

 イズが後方で回復魔法の準備をしている。

(あ、やばい。俺も動かないと)

 俺は腰の剣を抜いた。

 ずっしりと重い。

(そうか、ゲームだと剣の重さなんて関係なかったけど、本物の剣って重いんだ……)

 レオの槍がスライムに刺さった。

 ぐちゃ、という音がして、スライムの体に穴が開く。

 しかし。

「効いてない!?」

 穴はすぐに塞がった。スライムはびくともしない。

「当たり前でしょ! 物理攻撃はほとんど効かないわ!」

 マリアが呪文を唱えながら叫んだ。

(そうだ、スライムは魔法攻撃が有効なんだった! ゲームの知識通りだ)

「マリア、炎魔法を使え! 弱点だ!」

「分かってるわよ!」

 マリアの手から、燃え盛る炎が放たれた。

 スライムに直撃すると、ぎゅうううっと体が収縮して、一回り小さくなった。

(よし、効いてる! ゲームと同じだ!)

「もう一発だ! イズ、俺とレオのMPを……」

 言いかけて止まった。

「MP……魔力の回復を頼む!」

「はい、カイトさん!」

 イズが回復魔法をかけてくれる。

(あぶない。MPって言いそうになった)

 マリアが続けて炎を放つ。

 スライムがまた小さくなる。

(このまま押し切れる!)

 そう思った瞬間だった。

 スライムが突然、ぶわっと体を膨張させた。

「な、何だ!?」

「カイト、離れて!」

 マリアの声と同時に、スライムが液体を勢いよく噴射してきた。

 俺はとっさに横に跳んで避けたが、地面に当たった液体が、じゅうっという音を立てて土を溶かした。

(酸!? ゲームにそんな技なかったぞ!!)

「ちょ、ちょっと待って! ゲームと全然違う……!」

 思わず叫んだ。

「ゲーム?」

 レオが不思議そうな顔をした。

「い、いや、なんでもない! 作戦を変える! マリアは遠距離から炎を打ち続けてくれ! 俺とレオは囮になってスライムの注意を引く! イズは後方で回復に専念!」

「……急に指示が的確になったわね」

 マリアが半信半疑の顔で頷いた。

(ゲームで何度もパターン攻略したからな。こういう時だけは役に立つ)

 作戦通りに動くと、スライムの動きが崩れ始めた。

 マリアの火球が何度も命中し、スライムはみるみる小さくなっていく。

 そして。

 ぱんっ。

 小気味いい音を立てて、スライムが弾けた。

「やった!」

 レオが拳を握る。

「まあ、最終的にはうまくいったわね」

 マリアがぼそっと言った。

(よかった……。ゲームと違う部分もあったけど、基本的な弱点は同じだった)

 俺が安堵していると、イズが申し訳なさそうに口を開いた。

「あの……カイトさん。依頼書によると、このあたりにはボスのスライムもいるそうで……」

「え?」

 俺が振り返ると、木々の奥から、ぬうっと巨大な影が現れた。

 さっきのスライムの、ゆうに三倍はある大きさ。

 しかも、二本の腕が生えている。

(人型!? ボスが人型スライムって、ゲームに出てきたか!?)

 俺の頭の中で、ゲームの記憶を必死にひっくり返した。

(……出てこない。完全に想定外だ)

「カイト、知ってるか? あれは何だ?」

 レオが真剣な顔で聞いてくる。

(俺が聞きたい)

「……とりあえず、同じ作戦で行こう。マリア、頼む」

「任せなさい!」

 第二ラウンドが始まった。


 結果だけ言うと、どうにか倒せた。

 人型スライムは腕を使って物理攻撃もしてきたが、レオが体を張って防いでくれた。

 マリアが火球を放ち続け、イズが回復魔法を絶やさず、俺は……正直なところ、足を引っ張らないようにするので精一杯だった。

「カイト、最後の一撃、よく決めたな!」

 レオが俺の肩を叩いた。

(最後の一撃は、ほとんど偶然だったんだけどな……)

「ま、まあな」

 俺は苦笑いで誤魔化した。

 宿屋に戻って夕食を済ませ、ベッドに横になると、どっと疲れが出た。

(体を動かしたの、体育以来だぞ……。カイトの体、体力はあるはずなのに、使い方が分かってないせいで全然動けてない)

 天井を見つめながら、俺はため息をついた。

(早く元の世界に戻りたい。でも、どうやって……)

 そう考えているうちに、まぶたが重くなってきた。

 そして気がつくと——。

「……あれ?」

 見慣れた天井だった。

 デスクライトが消えかかっている。

 パソコンの画面が、スリープモードで薄暗く光っている。

(俺の部屋だ!)

 俺は飛び起きた。

 自分の手を見る。節くれだった剣だこのない、見慣れた自分の手だ。

(戻った……! 元に戻ってる!)

 安堵と、それから不思議な気持ちが同時に込み上げてきた。


カイトサイド


 あの動く絵の操作は、少しずつ分かってきた。

 綺麗に整列された小さなボタン——良明の母親が「キーボード」と呼んでいたもの——を押すと、画面の中の矢印が同じ方向に動く。そしてEnterと書かれたボタンを押すと、何かが選択される仕組みらしい。

(なるほど。つまり、これは道具だ。剣や弓と同じように、使い方を覚えれば良いんだ)

 僕はそう割り切ることにした。

 だが、操作の仕方は未だに分からないことだらけだ。

(これらのボタンを押せば進むはずなのに……何故か違う画面になってしまうんだよな)

 画面には、見覚えのある光景が映し出されていた。

 森の中。緑色の大きな塊。そして、僕と瓜二つの顔をした少年が、剣を構えている。

(良明が……戦っている)

 僕は身を乗り出した。

 画面の中の良明は、どこかぎこちない動きをしている。剣の構え方も、足の踏み出し方も、明らかに素人だ。

(危なっかしい。あの構えでは、体重が乗らない)

 思わずそう感じた。

 しかしそれでも、良明は仲間に的確な指示を出していた。マリアに魔法を使わせ、レオを囮に使い、イズに回復を任せる。

(……賢い戦い方だ。体は動かせないが、頭は使える)

 僕は少し見直した。

 人型のスライムが現れた場面では、良明が一瞬固まったのが分かった。

 画面越しでも、その動揺は伝わってくる。

(想定外の敵が出たか。どうする、良明)

 僕は固唾を飲んで見守った。

 良明は迷いながらも、同じ作戦を選んだ。

 結果、どうにか勝利した。

(よかった)

 僕は静かに息を吐いた。

 そんな時、また部屋の外から声がした。

 玄関の方から、明るい声が聞こえてきた。

「良明いるー? 恭介だけど!」

(恭介……?)

 良明の母親が「小林君が来たわよ」と廊下越しに声をかけてくる。

 僕は少し考えた。

 コバヤシ? 一体何者なんだ?

(だが、断るのも不自然だし、もしかしたらこの世界のこととかも何か知っているかもしれない。会ってみよう)

「……どうぞ」

 扉を開けると、丸顔で人懐っこそうな笑顔の少年が立っていた。

「よ! なんか元気なさそうって聞いたから来てみたんだけど……って、部屋めっちゃ散らかってるな、相変わらず」

 少年——恭介は、部屋をざっと見渡しながら、当然のように椅子に腰かけた。

(この者は、遠慮というものを知らないのか)

「あ、あの……勝手に座っても良いのか?」

「は? 何言ってんの。いつもそうじゃん」

 恭介が不思議そうな顔をした。

(そうか。良明とはそういう間柄なのか。親しい仲間、ということだな)

「ところでさ、ディスティニークエスト、どこまで進んだ? 俺もう詰まってんだけど」

 恭介がパソコンの画面を覗き込んだ。

(ディスティニークエスト……あの動く絵の名前か)

「えっと……」

 僕は画面に目をやった。

 そこには、森の中でスライムと戦う場面が映し出されている。

「あ、スライム退治のとこじゃん。そこはもう攻略したよ。弱点は火属性ね」

「そ、そうか」

「お前が言うなって感じだけど」

 恭介が苦笑した。

(この者は、あの動く絵の内容を詳しく知っているのか。良明と同じように、この絵を操作して遊んでいるのだな)

「なあ、良明。本当に大丈夫か? 昨日から様子おかしいって聞いたけど」

 恭介が、今度は真剣な顔で聞いてきた。

「……大丈夫だ。少し考え事をしていた」

「考え事って、お前が? 珍しいじゃん」

(珍しい、か。良明はあまり考え事をしない人物なのか)

「あとさ、なんか言葉遣い変じゃない? 丁寧すぎるというか……」

「そ、そうか?」

「うん。なんか別人みたいで、ちょっと怖い」

 恭介がじっと僕の顔を見つめた。

 僕は内心で焦りながら、どう返せばいいか考えた。

(別人、か。まさにその通りなのだが、正直に言うわけにはいかない)

「……少し、疲れているだけだ。心配をかけてすまない」

「だからその言葉遣い! お前が俺に謝るって、なんか気持ち悪いって言うか……」

 恭介は首を傾げながらも、それ以上は追及しなかった。

「まあいいや。なんかあったら言えよ。俺達、友達だろ」

 そう言って立ち上がり、恭介は帰っていった。

 扉が閉まる音がして、カイトは静かに息を吐いた。

(良明の友人は、気の良いヤツだな)

 しばらくして、机の上のスマホが光った。

 画面を見ると、恭介からのメッセージが届いていた。

『良明、大丈夫? なんか今日すごく変だったけど。元気そうで良かった。また明日な』

(また明日、か)

 僕は画面を閉じて、ベッドに横になった。

 天井を見つめながら、静かに目を閉じる。

(良明は今頃、元の世界に戻れたのだろうか)

 異世界の夜は、思ったより静かだった。

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