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ゲームの勇者と入れ替わりました  作者: エア


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第12話『竜の谷へ/忍び寄る影』

良明サイド


 竜の谷の入口に立った瞬間、俺は思わず後ずさりした。

 断崖絶壁が左右に聳え立ち、その間を縫うように細い道が続いている。

 谷底からは、熱気と硫黄の臭いが漂ってくる。

 空を見上げると、巨大な翼を持つ影がゆっくりと旋回していた。

(でかい……。ゲームで見てた時の三倍はある)

「カイト、本当にここを越えるのか?」

 レオが珍しく険しい顔をしていた。

「越える。目的がある」

「目的って……」

「レイズという賢者に会いに行く。そのためには、この谷を越えなければならない」

 マリアが腕を組んだ。

「レイズ様に? なんで急に」

「色々と聞きたいことがある。この世界の異変について」

 マリアが目を細めた。

「……また、記憶が戻ってきたの?」

「そういうことにしといてくれ」

(本当のことは言えないけどな)

 四人で谷の入口に踏み込んだ。

 道は狭く、両側は切り立った岩壁だ。

 足元には小石が散らばっていて、踏み出すたびにじゃりじゃりと音が鳴る。

(ゲームだとBGMが流れて雰囲気出てたけど、リアルだと無音が逆に怖い)

 しばらく進むと、岩陰から何かが飛び出してきた。

 小型のドラゴンだ。

 翼はなく、四足歩行。体長は二メートルほど。

(リザードマン系か。ゲームだと序盤の竜の谷に出てくるやつだ。弱点は……確か氷属性)

「マリア、氷魔法は使えるか?」

「……使えるけど、得意じゃないわ。炎の方が得意なんだもの」

「頼む。このエリアでは炎より氷の方が効く」

「分かった。やってみる」

 マリアが呪文を唱えた。

 青白い冷気が放たれ、リザードマンに命中した。

 リザードマンが動きを止めた。

「効いてる!」

「レオ、今だ!」

 レオが槍で仕留める。

 あっけないほど素直に倒れた。

「……今日は最初から読めてるわね」

 マリアが感心したように言った。

「攻略……いや、事前に調べた」

(また言いそうになった)

 さらに奥へ進んでいくと、谷が開けた場所に出た。

 そこに、老冒険者が立っていた。

(また会った! なんでこんな場所に)

「ほう。思ったより早く来たな」

 老冒険者が静かに言った。

「あなたは……なぜここに?」

「待っておった。お前さんが来ると思ってな」

 老冒険者がゆっくりと歩み寄った。

「レイズ様に会う前に、伝えておきたいことがある」

 俺は仲間に目配せした。

 三人は少し離れて待機してくれた。

「何ですか?」

「二つある」

 老冒険者が指を立てた。

「一つ目。レイズ様はお前さんの正体を、既に知っている。だから、隠す必要はない」

(レイズはもう知ってるのか)

「二つ目」

 老冒険者の表情が、わずかに曇った。

「現実世界に現れた者のことだが……ワシも少し調べた。どうやらそやつは、ゲームの外から来た存在らしい」

(ゲームの外!)

「ゲームの外、とは?」

「この世界とお前さんの世界の間には、本来越えられない壁がある。しかし今、その壁が崩れ始めている。その隙を突いて、どちらの世界にも属さない者が入り込んでいる可能性がある」

(どちらの世界にも属さない者……)

 俺の頭の中で、良明のメモの言葉が蘇った。

『ゲームには登場しない。攻略サイトにも一切情報がなかった』

(そうか。ゲームにも現実にも登場しない存在だから、攻略サイトに載っていなかったんだ)

「その者の目的は何ですか?」

「恐らく……両方の世界の混乱を利用して、己の力を蓄えることだろう。詳しいことはレイズ様が知っているはずだ」

 老冒険者が静かに立ち上がった。

「この谷のボスは、奥の岩場にいる。炎属性のドラゴンだ。氷魔法で弱体化させてから、総攻撃をかけろ」

(教えてくれるのか)

「ありがとうございます。あなたの名前を、聞いてもいいですか?」

 老冒険者が少し笑った。

「ガルドでいい。ただの老いぼれ冒険者だ」

 そう言って、老冒険者——ガルドは岩陰に消えていった。

(ガルド。ようやく名前が分かった)

 俺は仲間のところに戻った。

「何だったんだ、あの人は?」

 レオが首を傾げた。

「知り合いだ。有益な情報をもらった」

「ふーん」

 マリアが疑わしそうな顔をしたが、それ以上は聞かなかった。

 奥の岩場に進むと、老冒険者の言った通りだった。

 巨大な影が、岩の上に鎮座していた。

 赤黒い鱗。二本の角。炎を纏った翼。

(でかい……! ゲームの画面で見てたのより絶対でかい!)

「カイト……あれを倒すのか?」

 イズが青ざめた顔で呟いた。

「倒す。弱点は氷だ。マリア、頼む」

「……分かった。やってやるわ」

 マリアが深く息を吸った。

 戦闘が始まった。

 ドラゴンの咆哮が谷に響き渡った。

 炎のブレスが放たれ、俺たちは散り散りに跳んで避けた。

(熱い! ゲームだとこんなに熱くなかったぞ!)

「マリア、今だ!」

 マリアの氷魔法がドラゴンに直撃した。

 炎を纏った翼が凍りつき、動きが鈍る。

「レオ、足を狙え! イズは回復に専念!」

 レオが地面を蹴って駆け出した。

 槍がドラゴンの前足に深く刺さる。

 ドラゴンが咆哮した。

 俺は横から剣を振り上げて、首の付け根に斬りかかった。

(カイトの体は、やっぱり剣の扱いが上手い。俺が操作してるのに、体が勝手に動く感覚がある)

 マリアが追撃の氷魔法を放つ。

 ドラゴンの動きがさらに鈍り——。

 どうっと倒れた。

 谷に静寂が戻った。

「……やった」

 レオが膝をついた。

「倒した……本当に倒した!」

「カイト、怪我は?」

 イズが駆け寄る。

「大丈夫。ありがとう、イズ」

(よし。これで竜の谷を越えた。レイズに会える)

 俺は谷の出口を見つめながら、静かに思った。

(カイト、もう少しで賢者に会える。待ってくれ)

***

カイトサイド


 藤銀次が学校に来て、三日が経った。

 カイトはその間、ずっと藤銀次の行動を観察していた。

 藤銀次は授業中だけでなく、休み時間にも生徒に積極的に話しかけていた。

 特に——。

(隼人と、美紀子に、やたらと近づいている)

 今日の昼休みも、藤銀次は隼人に話しかけていた。

「森君、最近どう? なんか悩んでることあったら、話してね」

「あ、は、はい……」

 隼人が困ったような顔で答えている。

(隼人は断れない性格だ。つけ込まれる)

 カイトは素知らぬ顔で近づいた。

「隼人」

 隼人がカイトを見て、ほっとした顔になった。

「あ、岬さん!」

「昼飯、一緒に食べるんじゃなかったか?」

(そんな約束はしていないが)

「え、あ……そうでした! すみません、藤先生、また今度話しましょう」

「うん、いつでもどうぞ」

 藤銀次が微笑んだ。

 その視線がカイトに向いた。

 一瞬だけ——笑顔の奥に、何かが光った気がした。

(試されている)

 カイトは平静を装って、隼人と並んで歩き出した。

 廊下を曲がった瞬間、隼人が小声で言った。

「岬さん、ありがとうございます。なんか、あの先生……苦手で」

「苦手、か。なぜ?」

「なんか……質問が、ちょっと怖いんです。『本当は何が嫌いなの?』とか『誰かに腹立ててることない?』とか……なんか、嫌なことを引き出そうとしてる感じがして」

(隼人は感じ取っている。鋭い)

「その感覚は正しい。あの先生には、なるべく近づくな」

 隼人が目を丸くした。

「え……なんで岬さんがそれを?」

「……勘だ」

「また勘……」

 隼人が苦笑した。

「岬さんって、なんか不思議ですよね。普通の人なのに、普通じゃない感じがして」

(普通じゃないのは確かだが)

「そうか?」

「はい。でも、なんか……そういうところ、かっこいいと思います」

 カイトは少し面食らった。

(かっこいい、か。良明が聞いたら笑うだろうな)

 放課後、美紀子が廊下で藤銀次に呼び止められていた。

「宮川さん、少しいいかな?」

「あ、はい……」

「最近、何か悩んでることない? なんか、表情が曇ってる時があるから、心配で」

 美紀子が少し戸惑った顔をした。

「そう……ですか? 別に、そんなことは——」

「無理しなくていいよ。先生に話すのが嫌なら、放課後でも——」

「美紀子」

 カイトが静かに割り込んだ。

 美紀子とカイトが目を合わせた。

「今日、数学の件で聞きたいことがあったんじゃないか?」

「あ……そう、そうだった!」

 美紀子がカイトの意図を察して、素早く答えた。

「すみません、藤先生。また今度お願いします」

「……うん、いつでもどうぞ」

 藤銀次が微笑んだまま見送った。

 廊下を歩きながら、美紀子が小声で言った。

「ありがとう、岬君。なんか……あの先生、少し怖くて」

「怖い、か」

「うん。優しいんだけど……なんか、目が笑ってないというか」

(美紀子も気づいている)

「気をつけた方がいい。あの先生には、あまり近づくな」

「……岬君は、なんであの先生のことが分かるの?」

 カイトは少し考えた。

「旅……じゃなくて、色々と経験してきたから」

 美紀子がじっとカイトを見た。

「岬君って、最近すごく変わったよね」

「そうか?」

「うん。前の岬君より……ずっと頼りになる感じがする」

 カイトは静かに前を向いた。

(頼りになる、か。俺は良明の代わりにここにいるだけだが……)

 その夜、カイトはメモ帳に向かった。

『良明へ。

 藤銀次が、隼人と美紀子に近づいている。

 二人とも薄々感じているようだが、断れずにいる。

 今日は俺が割り込んで引き離したが、毎回できるとは限らない。

 それと——隼人から、藤銀次が「嫌なことを引き出そうとしている」という話を聞いた。

 カオスが負の感情を餌にするなら、藤銀次はその感情を集めているはずだ。

 周囲の人間が蝕まれる前に、何とかしなければならない。

 お前はそっちで何か分かったか?

 カイト』

 折りたたんで机の上に置いた。

 窓の外では、夜風が木々を揺らしていた。

 しかしその風の中に、ほんの少しだけ——冷たい、異質な気配が混じっていた。

(……近づいてきている)

 カイトは窓を閉めた。

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