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ゲームの勇者と入れ替わりました  作者: エア


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11/14

第11話『笑顔の裏側/賢者への道』

前回の投稿を忘れてすみませんでした!以後、マイペースに頑張るので、気長に待ってください。

カイトサイド


 朝のホームルームが始まる前、担任の先生が教室に入ってきた。

「皆さん、今日から二週間、教育実習生の方が来ています。自己紹介をしてもらいましょう」

 先生の隣に、見覚えのある人物が立っていた。

 昨日、廊下の端で見かけた——黒いスーツの若い男性だ。

(やはり、この学校に来たのか)

 男性が笑顔で口を開いた。

「はじめまして。藤銀次といいます。二週間、よろしくお願いします」

 クラスから拍手が起きた。

「かっこいい」

「優しそう」

 女子生徒がこそこそと囁き合っている。

(そうか。この世界では、好印象に映るのか)

 カイトは藤銀次をじっと観察した。

 笑顔は自然だ。声も穏やかで、聞き取りやすい。

 しかし——。

(目が、笑っていない)

 旅の中で、カイトは多くの者と対峙してきた。

 表面上は穏やかでも、内側に別の意図を持つ者の目を、カイトは知っている。

(この者は……危険だ)

「では、今日の一時間目は藤先生に担当していただきます」

 担任が言った。

 藤銀次が黒板に向かい、チョークで文字を書いた。

『人の心』

「今日は、少し変わったことを聞いてみます」

 藤銀次が振り返り、クラスを見渡した。

「皆さんは、自分の本当の気持ちを、正直に言えていますか?」

 沈黙が落ちた。

「例えば……誰かに助けてほしいのに、言えない。誰かが嫌いなのに、言えない。誰かのことが好きなのに、言えない」

 藤銀次の視線が、ゆっくりと教室を巡った。

「そういう、言えない気持ちって……誰にでもありますよね?」

(何をしている)

 カイトは内心で緊張した。

(この者は……生徒の心の隙間を探っているのか?)

「カイト、どう思う?」

 隣の恭介が小声で囁いた。

(カイト? ああ、俺のことか)

「……さあ」

 カイトは短く答えた。

 藤銀次の視線が、カイトのところで一瞬止まった。

(気づかれたか?)

 しかし藤銀次はすぐに視線を外して、授業を続けた。

「言えない気持ちって、どんどん大きくなるんですよ。そして、溢れた時に……人は、誰かを傷つけたり、自分を傷つけたりする」

 美紀子が神妙な顔で聞いている。

 隼人は少し俯いていた。

(この者は、生徒の負の感情を引き出そうとしている)

 カイトは設定の言葉を思い出した。

(カオスは……人の欲望や負の感情を餌にする)

 ならば、カオスに仕える者が負の感情を集めようとするのは——。

(まずい。この者の目的は、生徒たちの負の感情だ)

 授業が終わり、藤銀次が教室を出ようとした時だった。

「藤先生」

 カイトは立ち上がった。

 藤銀次が振り返った。

「はい、何ですか? えーと……岬君?」

「少し、話せますか?」

 藤銀次が微笑んだ。

「もちろん。廊下で話しましょうか」

 廊下に出ると、二人きりになった。

「何か悩んでることでも?」

 藤銀次が穏やかな声で言った。

 カイトは静かに相手の目を見た。

(この距離なら、分かる)

 やはり、目が笑っていない。

 それどころか——。

(この気配。魔の気配だ)

 旅の中で何度も感じた、ざわりとした感覚。

 モンスターとも、普通の人間とも違う、異質な何か。

「……先生は、どこから来たんですか?」

 カイトは静かに聞いた。

 藤銀次が、一瞬だけ目を細めた。

「え? どこから、とは?」

「この学校に来た経緯を、という意味です」

「ああ」

 藤銀次がにこりと笑った。

「大学の紹介で来ました。ごく普通の経緯ですよ」

(普通、か)

「そうですか」

「岬君は、鋭いね」

 藤銀次が、静かに言った。

「他の生徒と、少し違う目をしている」

(この者は……俺を試しているのか)

「そうですか?」

「うん。まあ、何かあればいつでも相談してね」

 藤銀次が笑顔で去っていった。

 カイトはその背中を見送りながら、拳を握った。

(間違いない。あの者は、ただの教育実習生ではない)

 放課後、カイトは急いでメモ帳に書いた。

『良明へ。

 学校に来た教育実習生——藤銀次という男が、例の不審な人物だった。

 授業で生徒の負の感情を引き出そうとしていた。

 魔の気配がした。間違いない。

 ゲームに、この者は登場するか?

 急いで教えてくれ。

 カイト』

***

良明サイド


 宿屋を出て街を歩いていると、見覚えのある後ろ姿が目に入った。

 白髪交じりの老冒険者だ。

「あの……!」

 俺は思わず声をかけた。

 老冒険者が振り返った。

「ほう。また会ったな、若いの」

「少し、話を聞かせてもらえますか?」

 老冒険者は少し考えてから、路地の端にある石造りのベンチに腰かけた。

「座れ」

 俺も隣に座った。

「あなたは……レイズという賢者を知っているんですよね?」

 老冒険者がゆっくり頷いた。

「知っている。古い友人だ」

「俺は……その人に会いたいんです。この世界の異変について、話を聞きたい」

 老冒険者がじっと俺の顔を見た。

(見透かされてる気がする……)

「お前さん、カイトではないな」

 俺は固まった。

「……え?」

「目が違う。カイトはもっと、真っ直ぐな目をしている。お前さんの目は……何かを必死に考えている目だ。旅人ではなく、異邦人の目だ」

(バレてる……!)

 俺は咄嗟に否定しようとした。

 しかし——老冒険者の目が、あまりに穏やかで、真剣だったので、俺は口をつぐんだ。

(この人には……正直に言った方がいいかもしれない)

「……驚かないでください」

「驚かんよ。長く生きると、大抵のことには驚かなくなる」

 俺は深く息を吐いた。

「俺は、カイトじゃないです。岬良明という、別の世界から来た人間です。カイトと入れ替わって、この世界にいる」

 老冒険者はしばらく黙っていた。

「……そうか」

 それだけ言って、老冒険者は空を見上げた。

「実は、薄々感じておった。カイトの目ではない、と」

「信じてくれるんですか?」

「信じる理由がある」

 老冒険者がこちらを見た。

「ワシはレイズ様から、こういう事が起きうると聞いていた。二つの世界の壁が崩れ始めると、魂の入れ替わりが起きる、と」

(やっぱり、レイズは知ってるんだ)

「レイズという人は、どこにいるんですか?」

「東の山の賢者の塔におる。ただし……」

 老冒険者が眉をひそめた。

「今のお前さんの実力では、途中のエリアを突破するのは難しい。もう少し、力をつけてから向かった方がいい」

「どのくらい力をつければ?」

「そうだな……」

 老冒険者が顎に手を当てた。

「竜の谷を越えられる程度には、な」

(竜の谷!?)

 俺の頭の中でゲームの記憶がフラッシュバックした。

(竜の谷は中盤の難関エリアだ。ボスはドラゴン系。ゲームでも苦労したのに、リアルで挑むのか……)

「分かりました。ありがとうございます」

「それと——」

 老冒険者が立ち上がりながら、静かに言った。

「カイトによろしく伝えてくれ。お前さんが本当にカイトと話せる手段があるなら、な」

(この人、どこまで分かってるんだ……)

「……伝えます」

 老冒険者が去っていった後、俺は宿屋に戻った。

 机の上にカイトからのメモが置いてあった。

『良明へ。

 学校に来た教育実習生——藤銀次という男が、例の不審な人物だった。

 授業で生徒の負の感情を引き出そうとしていた。

 魔の気配がした。間違いない。

 ゲームに、この者は登場するか?

 急いで教えてくれ。

 カイト』

 俺は息を飲んだ。

(藤銀次……)

 俺は記憶を必死にひっくり返した。

(ゲームにそんなキャラいたか? 教育実習生、ましてや日本人名のキャラクターなんて、絶対出てこなかったはずだ)

 念のためスマホで攻略サイトを開いて検索した。

 ——該当なし。

(やっぱりいない。じゃあ一体、こいつは何者なんだ? ゲームに登場しないのに、カイトが魔の気配を感じた……)

 嫌な予感が、じわじわと膨らんだ。

(分からない。でも、カイトの直感は信頼できる。とにかく危険だ)

 俺は震える手でメモ帳を掴んだ。

『カイトへ。

 藤銀次という人物を調べたが、ゲームには登場しない。

 攻略サイトにも一切情報がなかった。

 つまり、こいつはゲームの想定外の存在だ。

 正体はまだ分からない。でも、お前が感じた魔の気配は信じる。

 絶対に単独で近づくな。周りの人間も守ってくれ。

 俺はこっちでレイズへの道を探る。お互い気をつけよう。

 良明』

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