2.桑の葉と弱ったモス達
「帰宅前のひとっ風呂のためにも、今日も一日頑張りますかね〜」
作物の成長を写真に収めつつ、水撒きも済ませた。
その足でダンジョンの第二階層を目指す。
「ひとっ風呂って、さっき持ってきてたあれにゃ?」
「そうそう。ボタン押すと大きくなるからそこにお湯溜めて浸かるの」
「水浴びと違うにゃ?」
「似たような感じだけど、お風呂はあったかいんだ。興味あるなら、にゃん太郎もお風呂を体験してみる? 私用のだと大きいけど、木桶なら深さも調整しやすいし」
「興味あるにゃ!」
「じゃああとで一緒にお風呂しよ〜」
にゃん太郎は「ひとっぷろ〜」と上機嫌で桑がなる場所へ案内してくれる。
「ここにゃ!」
「桑の実発見! 採取採取〜っと」
生っている実の半分ほどを残してせっせと収穫する。
実が崩れないように優しく布で包んで、葉っぱも採取する。
こちらはお茶増産用だ。綺麗な葉っぱをピックアップして摘み取った。
「ここはこのくらいかな〜」
「次案内してもらっていい?」
「任せるにゃ!」
二箇所目、三箇所目と回っていると、ふと違和感を覚えた。
「ここも高い位置の葉っぱだけ取られてる……」
ロゼの身長は小学校低学年から中学年ほど。
取りすぎに注意しつつも、そもそもある程度高い位置になっている物は採取できない。
だから昨日は、不自然に採取されてポカリと空いた場所に気づかなかったのだろう。上の方にぽっかりと開いた空白をじっと観察する。
「私達の他にも誰か桑の葉集めてるのかな〜。でもそれにしては実にはノータッチなんだよね」
神様曰く、桑の葉をわざわざ採取する者はなかなかいないと言う話だ。
一箇所だけなら気にすることもないのだが、複数箇所で同じ状態が確認出来たことに少し身構えてしまう。
もしもこれが人による採取であればいい。
あまり注目されない素材らしいので、今後も譲り合って採取していきたい。
問題は人以外だった時。
「桑の葉を食糧にする大型の魔物とか、飛ぶタイプの魔物がいないといいけど……」
今後の採取に危険が伴うのであれば、桑は神域での育成に力を入れたほうがいいかもしれない。昨日植えたのも少し育ってたし……。
だが神域で育てるにはデータが足りない。できればしばらくダンジョン内で採取していきたい。
どうしたものか。
悩んでいると、足元から消えそうな声が届いた。
「大きくないし、飛ばにゃい。それにもう、ほとんど動かないにゃ」
「もしかしてにゃん太郎は、上の方の桑の葉を取ったのが誰か知ってるの?」
「知らないにゃ。でも、もう一箇所おんなじのがある場所なら知ってるにゃ」
どこか含みのある言い方だ。
ひとまずトコトコと歩き出したにゃん太郎の後に続く。
細い道に入って右に曲がったり左に曲がったり。
先ほどとは違い、迷路のような道を進んだ先に目的地はあった。
「ここは……モンスターの巣?」
RPGに登場する『モンスターハウス』ではなく、鳥の巣を見つけた時の感覚に近い。
小さな部屋の奥では桑が育っており、その手前には大きめの水たまりに、白い玉、そしてもふもふとした何かがいた。
白い玉の形状と魔物の見た目から察するに、おそらくもふもふした何かは『モス』という魔物だ。
ゲームでは名前がチラッと出てくる程度で、見た目は明かされていなかった。
なにせヒロインが教会から授けられる、先代聖女のベールの説明に『女王個体のモスから取れた最上級の絹』と添えられている程度だったのだから。
見た目にガッツリ虫感が残ってて、途中でボツになったんだと思っていた。もふもふした蝶をふっくらさせたみたいな見た目だ。意外と可愛い。
だが蝶とは違い、ずっと地面に這った状態だ。
それぞれの個体の前にはご丁寧にも何枚もの葉っぱが置かれているが、口をつける素振りすらない。
私とにゃん太郎が足を踏み入れたことにも気づいているようだが、モゾモゾと動くだけ。
攻撃性がないにしろ、魔物としてどうなのか。退治してくれと言っているようなものだ。
モスと繭玉にぶつからないように、足元に気をつけながら奥に向かう。
私がせっせと桑の実を集めている間に、にゃん太郎はモスの様子を伺っている。
そして私の足元にトトトとやってきた。
心なしか尻尾が垂れ下がって元気がないように見える。
「前に来た時より弱ってるにゃ……。ロゼ、なんとかできないかにゃ?」
どうやらにゃん太郎はモス達のことを以前から知っているようだ。何とか力を貸してあげたいのだろう。
にゃん太郎の望みとあれば、私も手を貸してあげたい。
だが蚕と蛾のご飯事情なんて、桑の葉を食べる以外の知識はない。口元に置いて食べなかった場合の対処方法なんて教科書には載ってなかったし、特別興味もなかった。
「でも桑の葉はそれぞれの目の前に置かれてるし、水も近くに水たまりがある。ダンジョン内に生息してるなら、温度や湿度の可能性は考えづらいし……。葉じゃなくて実を食べるとか?」
手近な桑の葉を一枚摘み取り、桑の実を挟んで潰す。
試しにそれを近くのモスの口元に運ぶ。だが反応がない。
空腹ではないのか、実も葉もそのまま食べる習慣がないのか。
実を食べさせるためにしゃがんでみたが、パッとみた感じだとモス達に外傷はなかった。
この場所が他の冒険者に荒らされた痕跡もない。
うーむと考えながら、もう少しご飯について考えてみる。
「固形がダメなら液体とか、少しとろみつけてみるのはどうかな? 神域に戻れば桑の葉茶のお茶っ葉残ってるし、それでお茶を淹れて、お茶とドロドロめのゼリーをあげてみるとか?」
虫といえばカブトムシ。
カブトムシといえば昆虫ゼリー。
我ながらなんとも安直な発想だが、今現在で取れる手段はこのくらい。どれも神域に戻ればすぐに揃うのも決め手であった。
「いい案にゃ! 吾輩も手伝うにゃ!」
「じゃあ一旦神域に戻って準備しよう」
「少し待ってるにゃ。きっとロゼが美味しいの作ってくれるにゃ」
にゃん太郎は去り際、モスの一体一体に励ましの言葉をかける。
私自身、モスに思い入れはない。
だがニャン太郎の姿を見ていると、どうにかしたいと思えてくるから不思議である。
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