1.食神神域の朝
「おはようございます! ねぇ、外の野菜めっちゃ育ってるんですけど!? 明日には収穫できますかね!?」
小屋のドアを開けて早々目にしたばかりの感動を伝える。
なんと先日植えたばかりのトマトがそこそこ大きめの実を付けていたのである!
ランダム豆の方にも小さなサヤが確認できた。一緒に植えた小麦と芋はまだなので、種類に差はあるのだろう。
それでもこんな短期間で育つとは……。
さすがは食神様のお膝元。
だが驚くべきはそれだけではない。
昨日植えたダンジョン産の植物もまた急激な成長を遂げている。
ただし変化があったのは畑の外に植えたものだけ。
畑に植えたものは芽一つも生えておらず、かといって吸収もされていない。昨日植えた時のままだ。
何かルールがあるのだろうか。
作物かそれ以外とか。ガチャから排出されたかどうかで変わるとか。
ひとまずスクスクと育っている方の桑に「実が取れますように」と手を合わせておいた。
「我が輩もビックリしたにゃ」
「ああ、よく育っている。初めてにしては上々の滑り出しだ」
「神様テンション低くないですか? せっかく神域産の野菜がもうすぐ食べられるかもなのに……」
両手で抱えていた桶を床に下ろしながら文句を吐く。
むうっと頬を膨らませると、にゃん太郎が訳を教えてくれた。
「ロゼが遅いから、何かあったんじゃないかって心配してたにゃ」
「え、そうなんですか?」
「別に。買い物してからきただけなんだろう? 風呂は買えたのか?」
神様は恥ずかしそうにプイッと顔を背ける。
「あ、はい。昨日いいのが買えたので、よさそうだったら神様も是非。遅くなったのは、私が桶を風呂代わりにするのだと思った御者さんに事情説明してたからです」
「ああ……」
「ああってなんですか! ああって! さすがに桶を風呂代わりにはしませんよ」
まったく。人をなんだと思っているのか。
じっとりした視線を神様に向ける。
とはいえ、神様も御者さんも私を心配してのことだということは理解している。ただのポーズだ。
若い娘が誰がいるかも分からぬ場所で風呂に入ろうとしていると知れば、普通の大人ならギョッとする。私だって事情を知らぬ大人側なら全力で止める。
なのでちゃんと神域内にある浴室での入浴であること。
浴槽代わりにするのは桶ではなく魔法道具であること。
神域内に他の信者がいないこと。もし他の信者が来たとしても、浴室に到達する前に止めてもらえる環境にあること。
そしてバスタオルを身体に巻いて入ることを伝えた。
浴槽の使い方を実演していたら、すこし時間がかかってしまったという訳だ。
「話したら、お風呂用にって御者さんがバスタオルを買ってきてくれまして。5枚あるので、今度神様の巻きタオルも作りますね」
桶の中に入れたバスタオルを見せる。
どれも触り心地がよく、部屋に置かれたタオル同様にお高めのものだとわかる。
前世の私なら、こんな贈答用みたいなタオルで巻きタオルを自作しようとは思わなかっただろう。
そのくらい良いものだが、今回は御者さんの不安を払拭する意味でも遠慮なく使わせてもらうつもりだ。
胸元にゴム紐を入れつつ、太めの肩紐を入れれば完璧だ。
子供がプールの時に頭からずっぽり被るタオルと、大人のお風呂上がりタオルワンピースのいいとこ取りをするイメージだ。これなら着替えもしやすい。
「よく分からんが、あまり心配をかけるでないぞ」
「いやぁ、私も桶持ってたら勘違いされるとは思ってなくて……。これをお風呂場に置いてきたらご飯作りますね〜」
「昨日と同じゼリーで頼むぞ」
「桑の実ゼリーですね。お茶っ葉の方もいい感じに乾いてるので、お茶も飲んでみましょうか」
「うむ」
「我が輩も飲んでみたいにゃ!」
「了解!」
返事をしてから、駆け足でお風呂場へ。
桶と浴槽代わりの魔法道具は床に置き、タオルは近くの棚に入れさせてもらうことにした。ついでに家から持ってきた着替えも入れて、2人が待つリビングに戻る。
「ごっはぁ〜ん、ごっはぁ〜ん〜」
テキパキと昨日とほぼ同じメニューを作って机に並べる。
そこに淹れてから、水魔法で冷やした桑茶も添えて。
最後に家から持ってきた私の朝食を出したら、食神神域の朝の食卓の完成である。
「まずは桑茶から。あ、いい感じかも」
「香りがいい。喉越しも……うむ。いいものを見つけてきたな」
神様には好感触。
一方でにゃん太郎は渋い表情だ。眉間には細かい皺が刻まれてる。
「……にぎゃい」
人間よりも味覚が優れた猫のにゃん太郎は、苦みを強く感じ取った様子。
チロチロと窺うように舐めては顔の中心に皺を寄せる。無理して飲んでいることがよく分かる。
「苦手だったら無理して飲まなくて大丈夫だよ」
「ここにある分は飲むにゃ」
ピチャピチャと音を立てて、自分の皿に入ったお茶を消費していく。偉い猫である。
初めてだからと、少なめに入れて正解だった。
「そっか。ならお水も別のお皿に出しておくね」
「にゃ……」
元気のない返事をしたにゃん太郎は、途中で水を挟みつつも、見事にお茶を飲み干してみせた。なんとも素晴らしい猫である。
「魚のスープはおかわりもあるよ」
「もらうにゃ!」
魚と聞いたにゃん太郎の耳がヒクヒクと動く。
一瞬で復活したようだ。可愛い。魚を中心にたっぷり盛り付けていく。
すると神様も続くように空のカップを軽くスライドさせた。
「我はお茶のおかわりをもらおう。……ゼリーも追加があれば最高なのだが」
チラリと私の顔色を窺う神様。
まるで本物の子供みたいだ。
「ゼリーは現在品切れとなっておりまぁ〜す。素材入荷までしばらくお待ちくださいませ」
すこしふざけてみせると、神様がヒョイっと指を振った。
直後、桑の実採取&桑の実ゼリーの生産クエストアナウンスが入ったことは言うまでもないだろう。
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