34.撮影用の魔法道具
「これなんて序の口さ。一番いいのだと、あのくらいするよ」
バッグを撫でる私を鼻で笑う老女。
彼女が指差した先にあったのは、金貨95枚と書かれた値札が付いた魔法道具だった。高い。めっちゃ高い。
だが注目すべきはそこではない。
今日一日使いまくったカメラとよく似ているのだ。全く同じではないにしろ、性能を考えるとまぁそこそこはするわけで……。
「少し慣れてきた冒険者だとそこの、金貨40枚あたりのを使ってるね。この辺から専用の用紙を使えば撮影したものを残せるようになるから」
親切な説明により、手持ちのカメラが最低でも金貨40枚はすることが確定する。
ちなみに初心者が買うなら銀貨8枚から金貨2枚くらいが妥当だそう。私も相場を知らなかったが、公爵も知らなすぎるのではないか。
子供になんつうものを渡してるんだ。
映像保管用の水晶ですら、1個金貨2枚もする。貴族怖い。金銭感覚の違いに頭が痛くなる。
散々使った後で文句を言う筋合いもないのだが。
帰ったらお礼と分割返済の話をしよう。
いくら貴族とはいえ、ここまで高価なアイテムを理由もなく持っていたとは考えづらい。何か目的があって購入したのだろう。さすがにタダではもらえない。
帰ってからのことを考えていると、老女は困ったように笑う。どうも高価なアイテムを前に、金銭的な意味で葛藤をしていると勘違いしたらしい。
「この辺りは余裕が出てきたら買うにしても、ソロで潜ってるんなら最低でもそのくらいの魔法道具ぐらいは持っておかないとね」
「え」
「大型の魔獣を連れてるってとこかい? そこのダンジョンなら早々揉めるようなことはないだろうけど、自衛は必要だからね」
老女は一人でウンウンと頷きながら話を続ける。
確かに私はソロみたいなものだが、大型の魔獣は連れていない。にゃん太郎はごくごく一般的なサイズの猫だ。魔獣基準なら小型に分類されるのではないか。
なぜそんな勘違いがされるのか。不思議で首を傾げる。
けれど続く言葉で疑問が解消された。
「魔獣の爪や魔法でも簡単に破けないものとなるとちょっと値は張るけどね、水浴びさせるのに良いのがあるよ」
私がお風呂用に頼んだ耐水耐熱容器を、魔獣の水浴び用だと解釈したのだろう。とはいえ丈夫な物が手に入るのはありがたい。
録画用魔法道具もややオーバースペックな気はするが、よほどのことがない限りは音声でどうにかする予定だ。これも持っておいて損はないと、録音用のアイテムと一緒に手元に確保しておく。
そのまま奥に進み、別の棚の前へと移動する。
魔獣の水浴び用として売られていた魔法道具は全部で5種類。
その中でも老女が取り出したのは、両手で持てるくらいの大きさの物。上から二番目の大きさらしい。それを近くにあった低めの台の上に置いた。
「ここのボタンに魔力を流すと膨らんでいくんだ。折りたたむ時も同じ。濡れたまま収納するとカビが生えるからね。水を抜いた後、完全に乾かしてから閉じるんだよ」
「しばらく開きっぱなしにしても大丈夫ですか?」
触って確認すると、結構しっかりしている。
お風呂の浴槽ほどの厚みはないが、固さは十分だ。大型の魔獣でも使える想定の紹介ならば、よほど変な使い方をしなければ壊れる心配もない。
「大丈夫だけど、置きっぱなしにするなら風通しのいいところに置くか、こまめに乾かさないと下にカビが生えるからね。よく勘違いするのがいるけど、浄化魔法をかけてもカビは生える。ちゃんと乾かすんだよ」
カビカビと連呼する老女。
以前クレームが入ったことがあるのか、私がズボラそうに見えるのか。その両方かもしれない。
使った後は乾燥させて仕舞っておくか、小屋の外で干すのがよさそうだ。
「分かりました。それで、お値段の方は……」
とはいえ、一番重要なのがやはりお値段だ。
いくら便利でも予算を超えるようでは見送るしかない。すでに先ほどの映像用魔法道具で予算オーバーしているのだ。
夢のお風呂付きライフのためとはいえ、シビアに判断しなければ……。
「金貨7枚、と言いたいところだけど、売れ残りだからね。金貨5枚でいいよ」
「え、本当ですか!? 買います買います」
「……アンタ、こんな高いのホイホイ買って大丈夫なのかい? 見たところ、貴族じゃないんだろうけど、そんなんじゃダマされるよ」
まさか即決するとは思わなかったのだろう。呆れた視線を向けられる。
だが私だってアッサリぼったくりに引っかかるような馬鹿じゃない。高い買い物であることも重々承知している。
「まぁ必要経費かなと。この辺りで売ってるアイテムは良心的な価格みたいですし、さっきの使い切りアイテムを見ていても、法外に高い額って訳でもないですよね。この容器も温泉スライムの皮と比較してかなり丈夫そうなので、初期投資としてはお高めですけど、ランニングコストを考えると妥当かなぁと」
「分かってて買ってるんならいいさ」
私の答えに老女はフンッと鼻を鳴らす。
先ほど長めに撮影できる魔法道具を選んでくれたのもそうだが、一人で来店した子供を心配してくれているだけなのだ。
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