33.魔法道具屋さんへ行こう
三人で小屋の外に出て、畑と神域の地面を掘る。
採取してきた植物を一定間隔で埋めて、象さんじょうろで水やりをする。
水を掬うついでに水場を確認すると、先ほど入れた石が三つとも消えていた。ヌシが隠れている場所に持ち帰って、ひっそりと楽しんでいるのだろう。
最後に畑以外に埋めた場所を囲むように旗を四本立てたら終了。
トントンと腰を叩きながら立ち上がる。
「みんな、立派に育つんだよ~」
このうちどのくらいの植物が育ってくれるのかは完全に未知数だ。
せめて桑だけでも育ってくれればいいのだが……。
手を洗ってから神域を後にする。
買い取り所でお金をゲットしてから向かう先は、魔法道具屋。
昨日御者に教えてもらった通りの道を進むと、小さな店を見つけた。
『魔法道具あります』
看板にはそう書かれただけ。店名すらない。
入り口はかなり狭く、ドリンクのテイクアウト専門店くらい。自分で見つけた場所なら入るのに躊躇してしまいそうだ。
それでも御者が怪しい店を勧めることはないだろうと。
冒険者達がダンジョン付近の店は安全だと言っていた言葉も信じつつ、ドアを開く。
「お邪魔しまぁ~す」
おずおずと中を窺うように入店する。
目の前に広がっていたのは書店のような空間だった。大量の本が左右に並んでいる。入り口で見たよりも広いのは、魔法の効果だろうか。ダンジョンの第二階層と雰囲気が似ている。
周りをキョロキョロと確認しながら先に進んでいく。
「お嬢ちゃん、目的の物は?」
頭上から飛んできたのは、素っ気ない質問だ。
見上げると眼鏡を首から提げた老女が脚立の上に座っていた。この店の店員なのだろう。
歩いていても周りは本ばかりで、どこを探すべきか分からなかったのでありがたい。ここぞとばかりに探しものを並べていく。
「録音機能がある使い切りの魔法道具を。映像撮影ができる魔法道具も一緒に見ておきたいです。それから持ち運びできる大きめの耐水耐熱容器も欲しくて。私が入っても余裕があるくらいのものを探しています」
「金はちゃんとあるんだろうね」
「ある程度は。でもあんまりお高いのは無理なので、そこそこの性能があってお手頃価格のものだとありがたいです。予算から大きく外れるようであれば、お金を貯めて出直します」
「注文が多い子だね」
「見た目では分からない物もありますし、欲しい物が決まってるなら店員さんに聞いた方が早いですから」
「ま、アタシとしても買うつもりもない商品にベタベタ触られても嫌だしね」
老女はそう告げると、首から提げていた眼鏡をかけた。
そして腰から杖を取り出し、空中に模様を描き出した。書き上がった模様をスッと本棚にスライドさせる。そのまま本棚の中に模様が消えていった。かと思えばそこから本棚が割れていく。
割れた部分は新たな壁ができており、完全に別々の本棚となっている。棚にも本にも傷一つなく、塗装も剥げていない。ふおおおと声を上げて感動してしまう。
「すごい。好きに形を変えられる本棚なんて、まさに本好きの夢……。これがあればギリギリまで本棚に囲まれた生活も夢じゃないかも」
それでも触りたい衝動をグッと抑え、脚立から降りてきた老女に尋ねる。
「これって戻せるんですか!?」
「放っておけばそのうち戻るけど、それは売り物じゃない。アンタが欲しいのがこの奥さ。ほら、早く行くよ」
クイッと顎で奥を指される。
折角案内をしてもらうのに、これ以上待たせるわけにはいかない。本棚観察は諦め、彼女に続く。
「音声や映像の記録を取る魔法道具はこの辺りだね」
「わぁ~いっぱいありますね」
「大陸で一般流通している物は一通り揃えているからね。使い切りはアンタの左側の棚にあるやつさ」
「ありがとうございます。一口に使い切りって言っても、最大稼働時間でお値段が全然違うんですね」
短いものだと1分の録音からある。
そこから5分、10分、15分、30分、1時間、2時間と続いている。最大10日まで。
録音時間もすごいが、お値段もそれなり。
10日分のものなんて、使い切りなのに金貨10枚と強気な値段である。
「ひとまず10分のを3本でいっか」
私が手に取ったのは銀貨5枚ほどのもの。
ダンジョンで聞いた額よりもほんの少しだけ安い。
「何に使うんだい?」
「トラブル時の録音です」
「ああ、だから映像撮影用の魔法道具も探しているのか。潜っているのはすぐそこのダンジョンかい?」
「はい。今のところ浅い階層にいるので、トラブルっぽいのは見かけたことないんですが、持っておいた方が安心かなと思いまして。映像はもしものために、って感じです」
「なら映像撮影用のは長めのがいいね。ほら、1時間用」
「うっ、高い」
ポンッと渡された魔法道具に付けられた値札には金貨3枚と書かれている。
にゃん太郎の大活躍のおかげで、買えない額ではない。だが予算を遙かに超えている。つい財布が入ったバッグを撫でてしまう。
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