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32.神域温泉への道は遠い

 皿洗いを済ませたら、ほどよく冷めた葉っぱに手を伸ばす。それらを半分くらいの大きさにちぎってから、ザルに広げて並べていく。


 今回は魔法に頼らず、乾燥させる予定。葉っぱなのですぐ乾くだろう。

 目指すは手で潰せるくらいのパリパリ感。あとは美味しくなりますようにと願うだけだ。


 夜食と間違えないよう、シンク横に置いておく。

 そしてバッグからメジャーを取り出す。


「ちょっとお風呂場のサイズを測ってきますね」


 本日の目的、お風呂の採寸である。

 るんたった~と風呂場に向かう私の背中に神様は声をかける。


「ああ、そうだ。ロゼ達が出かけている間に、温泉の開拓に必要なリストを作っておいたぞ。ガチャの隣に設置してある」

「マジですか!? 神すぎる!」

「これでも神だからな」

「先にそっちを見てきます!」


 進行方向を少し変更し、ガチャの間に走る。


 そしてガチャの隣に立て看板を発見する。先日はなかったものだ。大きめの文字が並んでいる。飛びついて内容を確認しーー絶望した。


「神レベル5って遠すぎません!?」


 大前提として、温泉の開拓は神レベル5になった際に解放される。

 その上で大量のロープと杭が必須。最低でも50本。多い、多すぎる。加えて木材や石材などの資材も必要となる。


「というか竹ってどこにあるの!? ゲームにそんなの……あったわ。いつの間にか手に入ってるせいで、一体どこで手に入るか分からない資材ランキング2位にいたわ」


 ちなみに堂々の第一位はい草である。


 西洋ファンタジー世界なのに、一部の神域では日本家屋の離れみたいな部屋が作れるのである。確か土神と風神の神域。


 ただし恋愛要素の攻略には一切関係なく、冒険パートにも無関係。


 あくまでも神域開拓のバリエーションの一つでしかなかったため、そんな資材もあったなぁと記憶の片隅に追いやられていたのである。


「お風呂イベントは神域外で発生するから、わざわざ神域内に作る必要なかったし」


 お風呂イベントは各ルートに必ず存在する。それも攻略者ごとにイベントが発生するポイントが異なる。


 第二王子なら王宮のお風呂で、騎士の名門家の令息なら公衆浴場、宰相家の令息なら旅先の温泉で。


 いずれもある程度攻略を進め、恋愛フラグを立てなければ立ち入れない場所である。


 故にお風呂イベントは、各キャラの攻略進行度を確認するための指標の一つとも言われていた。


 攻略キャラによっては、お風呂イベントを見なければ以降のイベントがロックされ、個別エンディングが迎えられないなんてことも。


 ゲームをプレイしていた時は、お風呂イベント気合い入ってるな~程度の認識だった。だが風呂に入る習慣のないこの世界で、風呂に入るという行為そのものが特殊だったのだろう。


 開拓に必要なレベルが高いのもそのせいと考えれば、選択肢にあるだけ有り難いものだ。


「温泉への道は遠いなぁ」


 肩を落とし、とぼとぼとお風呂場に向かう。

 私がお風呂場と認識しているこの場はおそらく、手洗いが必要な洗濯をする場所なのだろう。


 全く使われていないため、新築かと思うほど綺麗である。

 ちゃんと排水溝もあるので、浴室としての使用も問題なさそうだ。当面はこちらで満喫させてもらおう。


 入り口のサイズと浴室のサイズを測る。

 公爵屋敷にあるお風呂場よりは狭いが、前世のお風呂場と同じくらい。ビニールプールだって余裕で設置できそうだ。


 最悪、大きめの衣装ケースでも可。

 台車を用意すれば私一人でも運び込めるはずだ。見た目よりも搬入の楽さを重視で探す予定。ひとまず測ったサイズをメモ用紙に記しておく。


「採寸終わりました~。あとはこれ植えたら帰りますね」


 植えるのは、先程神様がロックオンしていた桑の実を含めた植物数種類。

 畑用と神域用でそれぞれ二つずつ確保してある。それらをまとめてオークの布に載せる。


「植えた物にも水をやるのを忘れるでないぞ」

「了解です! ええっと目印はこれでいっか」

「何に使うにゃ?」

「植えた場所が分からなくならないように、近くに旗を立てておこうと思って」


 顔の怖い猿達を倒した際にドロップした棒の先端にオークの布を結びつけたものを四本作った。


 畑に植える分は問題ないと思うが、それ以外の場所に植えた場合は神域に吸収される可能性がある。


 近くに目印の旗を挿しておけば場所を見失わないのはもちろん、旗自体がなくなっていれば吸収されたことが一目で分かるという寸法だ。


 一カ所だと不安なので、四つ角に設置することにした。


「我が輩も植えるの見るにゃ」

「我も見に行こう」

「今日は畑作りみたいにガッツリ掘ったりしないので、面白くないと思いますよ?」

「ロゼを見てるの楽しいにゃ」

「我のゼリーになるのだ。植えるところを見守らずにどうする」

「あ、はい」


 神様のゼリーへの想いが強い。


 そのうち【神域内で食用スライムを養殖しよう!】なんてクエストが出てきたらどうしよう。


 そのためにテイムスキルを身につけろと言われたら嫌すぎるのだが……。


「どうした? まだ何かあるのか?」

 神様は首を傾げる。じっと見過ぎたようだ。


「なんでもないです」


 適当に返事して思考を切り替える。

 もしもこの先、スライムの養殖を命じられた時は全力で天草を探そう。神様なら寒天も気に入ってくれるはずだ。


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