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30.桑

「終わったぞ」

「もう一回見たいにゃ」

「えっと最初から再生するボタンは……」


 動画保存用の水晶をぽちぽちと弄ってみる。


 しゅるるるると音が鳴り、映像が巻き戻っていく。ビデオの巻き戻し機能と同じだ。

 最初のところまで戻ったら、再生ボタンを押す。


「始まったにゃ」


 魔法道具とはいえ、操作が分かりやすくて助かる。


「じゃあ私は夜ご飯作るから、にゃん太郎はそれ見ててね」


 ご機嫌なにゃん太郎に声をかける。にゃん太郎は振り向くことなく、代わりに「にゃ!」と元気よく返事をしてくれた。


「あ、それから神様。見てほしいものがあって」

「新しい植物でも見つけたか?」


 バッグをガサゴソと漁り、取り出したのは採取してきた植物。

 前世で見かけた物があったため、これらは多めに採取してきたのだ。


「これなんですけど……桑の葉と桑の実であってます? 写真では見たことあるんですけど、実物は見るの初めてで」


 私が見つけたのは桑。

 小学校と中学校の教科書で必ずと言っていいほど載っていた製糸工場の横には、『蚕』『桑』というワードも並んでいた。


 といっても糸を作り出す蚕と、その餌である桑の資料が載っているかは教科書によりけり。


 蚕を実際に育てた、糸玉を茹でてみたなんて話も耳にするが、うちの学校は桑の写真が載った資料を配られただけだった。


 その際に桑の実の写真や桑の葉の活用法がいくつか添えられていた。

 桑の葉は正直他の葉と見分けが付かなかったが、実の方はマルベリーとも呼ばれることもあって、木苺とちょっと似ている。


 正直、桑の実ではなかったとしても、ベリー系の何かだろうと。

 ひとまず葉と一緒に持ち帰ってみたというわけだ。


「これが何か知っていて持ち帰ってくるとは……。やはりロゼの行動は想像できぬ」

「桑であってたんですね~。食べられそうでよかった。桑の葉はお茶やサラダにできるらしくて、実はジャムやソースにすると美味しいらしいですよ。美味しかったら、これも神域で育てられるか検証に追加しようと思って、枝ごと持ってきたんですよね」


 神様の反応が微妙なのはきっと、美味しい食べ方があることを知らないのだろう。

 毎食のように食べているフルーツゼリーだって初めはそうだった。


 桑の活用方法として有名なのは桑の葉茶で、古くから存在する健康茶として知られている。


 食後の血糖値上昇を抑える効果や便秘解消効果があるのだとか。テレビでそんなことを言っていた記憶が頭の片隅にうっすら残っている。


 と言っても私が話しているのは全て資料でザッと見ただけの情報。

 美味しいかどうかは実際食べてみないと分からない。ダンジョン内のと前世のものが同じとも限らない。


 それでも美味しく食べられる可能性があるなら持ち帰る価値はある。

 私が持たせてもらった紅茶を飲んでいる横で、神様には水を出すというのも味気ない。ジュースも選択肢の1つではあるが、お茶が欲しかったのだ。


 ド定番のお茶である麦茶や緑茶の材料が手に入らない状況で、桑の葉に出会えたのは幸運と言っていい。


 比較的入手しやすい場所と高さにわさわさと生えていたのも嬉しいポイントだ。


 バッグの中に散乱した桑の葉を纏めながら、お茶以外には何を作ろうか思案する。


「わざわざ神域で育てずとも、桑の葉を好んで採取する者はもうほとんどおらぬ。……昔は取り合いになっていたものだがな」

「ブームになるほど人気になったなら、ダンジョンの外で桑の葉をメインに育てる農家さんとかいてもおかしくないですもんね」

「そういう意味ではないが……。まぁ育てたいなら好きにすればいい」

「もしかして神様は桑が嫌いなんですか? 私は葉っぱも実も食べたことないので、興味もあって取ってきたんですけど、無理に食べなくても大丈夫ですよ」

「いいや。それを入れたゼリーは食べたことがない。食べねば美味いかどうか判断できぬ」

「じゃあ夕飯は桑の実ゼリーにしましょうか。砂糖がないので、ちょっと酸っぱいかもですが」

「構わぬ」


 神様は「ところで」とバッグの中を覗き込む。お目当ての物は何か考えるまでもない。


「スライムの核ならたくさん確保してきたので安心してください」


 ほら、と取り出せば、納得したように頷いた。

 そして他に採取してきた植物をテキパキと『食べれる』『食べれない』に分けてくれる。


「今回ほとんど食べれるんですね。食べれないのは写真撮って記録しておこうっと!」


 カメラを手にパシャパシャと撮影して、忘れないうちに現像する。

 説明書のない魔法道具を使いこなせるか少し心配はあったが、わずか1日でだいぶ使い方も理解してきた。


 神様はそんな私をじいっと観察する。

 にゃん太郎ほど分かりやすく喜びはしないが、神様も写真が気に入ったのかもしれない。彼にカメラを向け、シャッターを切る。


「っ!?」

 いきなり撮影されるとは思っていなかったのだろう。神様の目は丸く見開かれていた。サプライズが成功した気分だ。


「驚いた顔ゲット!」

 ニヤリと笑って、現像した写真を神様に見せつける。


「我を撮っても面白くもないだろうに」

「誰かと一緒に撮るのも案外悪くないですよ」


 なんてことない、けれども幸せな時間だ。神様は短く「そうか」と溢し、にゃん太郎の隣に戻った。


「今回は食べれるのも多いし、桑の葉は全部お茶にしちゃおうかな」


 作り方はテレビで見たのを参考にするとして、どのくらいの量ができるのかが分からない。


 さすがに一回分だけだと悲しいので、明日の朝昼晩の3回分くらいはできてほしいところだ。


 桑の葉は軽く洗ってから、蒸し器にセット。

 その横でにゃん太郎が獲ってくれた魚を捌いていく。


 今回は生と茹での2パターンを作ってみようと思う。


 私は生魚が好きではないのだが、2人がどれを気にいるかは分からない。好みを知る意味でも、食事のバリエーションを増やす意味でも、何パターンか作ってみたい。


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