28.釣りは魚とのバトル
「にゃっ、にゃっ」
「おお~すごい。また大きいのだ」
「我が輩にかかればこんなもんにゃ」
次々に魚を確保していくにゃん太郎。
私は少し離れた位置からにゃん太郎の撮影をしていた。写真の次は動画である。
神域に戻ったら綺麗に取れているか確認しよう。
「ロゼ~。あの石、コケいっぱいついてるにゃ」
にゃん太郎はもふもふの手で大きめの石を指す。
陸部分からもあまり離れていない。深さも問題なさそうだ。
「ほんとだ。じゃあヌシ用に持って帰るの、あの石にしよっか。あとで掬うね」
「にゃっ!」
その後もにゃん太郎の活躍をバッチリ撮影をし、終わってからカメラをしまう。
代わりに手を伸ばしたのは空のバケツ。
先ほど教えてもらった石を掬うようにざぶんと投入して引き上げる。
バケツの中には狙った石の他にも、小ぶりのものが2つ入っていた。
微妙にコケの色が違う。
紅葉みたいに赤や黄色に変わっていれば、流石の私でも違いが分かるのだが、緑の色味が違う程度だ。
バケツを覗き込みながら、むむむと唸る。
けれど唸ったところでどこからかアナウンスが流れてくることはない。
「まぁ全部持って帰ればいっか!」
見分けがついたところで、結局はヌシの好み次第。
今後も共生していくのであれば、後々好みを知っていけばいい。水だけ戻して、石はバケツの中に残しておく。
そしたらようやく釣り竿の出番だ。
にゃん太郎に任せきりというのは申し訳ない。カバンに括り付けていた竿に手を伸ばし、せいやと投げる。
ぽちゃんと音を立て、糸が着水する。
ゆらゆらと流れるのを眺めていると、グッと力がかった。早速ヒットしたようだ。
ダンジョン内の魚は餌に飢えているのか、冒険者との釣りバトルが好きなのか。日本ではありえないくらい、釣り針にかかるのが早い。
そんなことを考えているうちに、糸がグイグイと引っ張られていく。
「強い……。第一階層から一気にレベルアップしすぎでは!?」
文句を溢しつつ、竿を立てる。
「頑張れにゃ〜」
のほほんとした声援が飛んでくる。にゃん太郎はすでに魚獲りを終えたようだ。お座りをしながらじいっとこちらを見ている。
「ファイトを〜い〜れ〜ろおっとぉ!」
前世で見た熱血ドラマのセリフで気合いを入れる。
大きなカブを学園の生徒全員で引き上げるシーンは胸熱だった。学園の生徒になった気持ちでその場に踏ん張る。
格闘を続けていると、魚がピョンっと飛び上がった。
「でかっ」
先日釣り上げた魚よりも2回りほど大きい。元気にピチピチと跳ねーープチンっと音がした。
「あ!」
「あ」
私とにゃん太郎の声が重なった。
必死で抵抗していた魚は糸を切り、水中へと華麗なダイブを決める。
私の手の中にあった釣竿も煙へと代わり、消滅してしまった。
「せっかくの大物だったのに、竿の方が耐えられなかったか……」
「追いかけるにゃ?」
にゃん太郎はまだ見える魚を指す。
こちらを馬鹿にするように水面近くで泳いでいた魚だが、にゃん太郎という名の狩人の存在に気付いたのだろう。スススと岩場に消えていった。
にゃん太郎がその気になれば、隠れたところで簡単に見つけ出してしまうのだろう。
だが今回はにゃん太郎に頼らないでおこうと思う。
「ううん。あいつを釣り上げられる釣り竿を作って、釣りスキルも上げてリベンジする! 釣れたら魚持って写真撮ろうかな」
あの魚は私との釣るか釣られるか勝負に勝ったのだ。深追いすることはない。
その代償として、私の本日の釣果はゼロ。
予備の釣竿は持ってきておらず、近くには釣竿に使えそうな棒もないので諦める他ない。
だがにゃん太郎がたくさん取ってくれた。今日も今日とて魚がこんもりと山になっている。あれだけあれば、神様とにゃん太郎の今日の食事には困らない。
にゃん太郎は私の言葉に目をぱちくりとさせる。
だがすぐにニコリと笑みを作った。
「それはいいアイディアにゃ」
「今日、1匹も釣れなかった分は採取で巻き返そうと思う! すぐそこにも食べられそうな草生えてるし!」
「我が輩も手伝うにゃ」
「ありがとう、にゃん太郎」
先ににゃん太郎が取った魚を確保してから、近くの草を採取する。
根本から採取した草と木の実はゴブリンの布に包んで、バケツ片手に神域に戻る。
小屋に入る前に忘れずにヌシの水場に拾った石を3つとも入れる。
するとピコンと音がした。
「【デイリークエスト:ダンジョンで拾った石をヌシの水場に入れよう】を達成しました」
これで私のデイリークエストは終了。
ヌシは隠れてしまっているのか、姿は見えない。
どれか気に入ってくれるといいのだが……。明日の朝、畑の水やりの時にでも確認してみよう。
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