27.西洋風迷い家?
「眩しい……。にゃん太郎、大丈夫?」
「我が輩は大丈夫にゃ」
真っ白な空間を数歩進むと、徐々に明るさが収まっていく。
ゆっくりと瞬きをして、少しずつ目を鳴らしていく。
ドアの先にあったのは、貴族のお屋敷のような空間だった。
今立っている場所は、ちょうどドアを開けてすぐの玄関先。だというのに、入り口から大量のアイテムが並んでいる。美術品が多い。
どことなく、成金貴族の屋敷感がある。
歯に衣着せぬ言い方をすれば、センスがない。高そうな物をひたすら並べただけで、並んでいるアイテムに統一感がない。色もバラバラだ。
「もしかして西洋風迷い家?」
迷い家とは東北に伝わる伝承の一つだ。
山で迷っている者の前に忽然と現れ、訪れた者に富や幸福をもたらすとされている。その家にある物は家具や調度品、家畜の中から好きな物を持ち帰っていいとされる。また食事が用意されていれば食べても構わないという太っ腹ぷり。
だが正体は不明。
神様の家だったり天狗の家だったり、家そのものが物の怪の一種だとも言われている。
諸説あるが、『礼を失するな』『持ち出すものは一つだけ』という点は共通している。
そう、迷い家において最も大切なのは高価な物を見極めることではない。無礼を働かないことだ。無礼な者には幸福の代わりに災いが降りかかる。
つまり今、私達が取るべき対応は決まっている。
「お邪魔します!」
玄関から動く前に挨拶である。
深く頭を下げると、にゃん太郎は戸惑いつつも私に続いた。
「お邪魔しますにゃ」
『ようこそお越しくださいました』
どこからか声が聞こえる。先ほどのアナウンスと同じ声だ。
声が帰ってくるということは、私の読みは間違っていない。
「にゃん太郎、足を拭かせてもらってもいい?」
「時間なくなっちゃうにゃ?」
「大丈夫だから」
バッグの中からゴブリンの布を取り出す。そしてにゃん太郎の足に付いた汚れを拭く。
無礼を働いてはいけないのは大前提だが、入室直後から全力ダッシュを決めたとしても、たった3分でこの屋敷を全て見て回るのは不可能だ。
入ってきた人物が大人か子供か、足の速さなどで探索範囲も変わる。
初めから問いの答えが決まっているとなれば、辿り着けない可能性がある場所には置かない。
となれば探すべき場所は、自然と玄関付近に限定される。
選ぶ時間はさほど必要ない。じっくり選んだところで、美術品に興味がない私に価値あるものは見極められない。
そもそもこの中に私が欲しい物はない。
家畜――特に鶏がいれば速攻で選んだのに……。鶏卵でも可。
まぁ卵1個だけ持ち帰っても仕方ないのだが。食べるなら3人とも満足いく量を確保したい。やはり鶏は家畜カタログに期待しよう。
「これでよし、っと。じゃあお家を見せてもらおうか。にゃん太郎はここら辺にあるもので、何か持ち帰りたい物はある?」
にゃん太郎の足を拭き終え、立ち上がる。
そんな私をにゃん太郎は怪訝そうな目で見ていた。
「変なロゼが元に戻ってくれればそれでいいにゃ」
突然挨拶をしたり、足を拭かせてほしいと言い出したり。
にゃん太郎が不審に思うのも無理はない。事情を説明したいところだが、迷い家の説明をすることが無礼に当たる可能性がある。
「ごめんね。外に出れば戻るから大丈夫」
「でも、この中で一番大事なのはロゼにゃ」
私の足に前足を置きながら答えるにゃん太郎。
この中で最も価値があるのは『仲間』であると。それもまた立派な答えだ。
「そっか。なら見学だけさせてもらおう。抱き上げていい?」
「にゃっ!」
元気に返事するにゃん太郎を抱き上げ、入り口横の部屋に進む。
「ここは、物置部屋かな。どれも綺麗に手入れされてる」
並んでいるのはシャベルや鍬、箒、バケツに土など。ホームセンターに置かれている物ばかり。
入り口とのギャップが激しいが、こちらの方が身近に感じる。
商品を眺めるように部屋をぐるりと回る。
中でも私が気になったのは、窓際に吊されたカラフルな手袋である。
「私もガーデニング手袋は1つ持っておいた方がいいのかな~」
「それ持ち帰るにゃ?」
「ううん、見てるだけ」
温泉スライムの皮手袋もよかったが、農作業をするならもっと丈夫な手袋がいい。
吊されているのは大人用。今の私には大きすぎる。
ちょうどいいサイズが見つかるといいのだが……。
そんなことを考えていると、目の前が真っ白になった。
『エリアDの消滅を確認しました』
アナウンスが流れる。
タイムリミットを迎えたようだ。
「お邪魔しました~」
目を閉じたまま、挨拶をする。
『気を付けておかえりくださいませ』
やはり挨拶には答えてくれるようだ。
入った時と同様に、光が少しずつ落ち着いていく。
ゆっくりと瞼を開くと、木の扉の前に立っていた。
入り口に強制帰還させられたようだ。
先程棒を突き刺した穴を確認すると、3番目の穴が消えていた。
左右に並んだ他の穴は残っている。
1日1度しか入れないのか、私達が入室の権利を失ったのか。
穴を確認していると、腕の中のにゃん太郎がもぞもぞと動き出した。満面の笑みを浮かべ、私を見上げる。
「楽しかったにゃ!」
「そっか。私も楽しかったよ。案内してくれてありがとう」
ご機嫌なにゃん太郎の頭を撫でる。
形ある物は持ち帰れなかったが、にゃん太郎の楽しい体験になったのならよかった。
それにしても、3分間にしてはやや長かった気がする。物置部屋もしっかり見れたし。
にゃん太郎を下ろしてから、時計を確認する。
すると神域から出て2時間が経過していた。隠し部屋内と外とでは流れる時間が違うのだろうか。
「面白い」「続きが気になる」など思っていただけたら、作品ブクマや下記の☆評価欄を★に変えて応援していただけると執筆の励みになります!




