26.いい感じの棒は穴に挿すべし
「着いたにゃ」
「広いね〜。上の倍くらい?」
「もっとあるにゃ。細いところには小さな罠がいっぱいあるから気をつけるにゃ」
「え」
私が返事するよりも先に隣から野太い声が降ってきた。声の主を確認すると、相手は慌てて口を覆う。
「この前の人……?」
先日詫び魔石をくれた冒険者である。にゃん太郎と揃って警戒の目を向ける。だが他の仲間は不在のようで、周りもなんだなんだと気にしている様子。
相手も居心地が悪いようだ。
頭を雑にボリボリと掻く。
「あー、すまん。このフロアにある罠は一つだけだと思っていたから、つい反応しちまってな。立ち聞きして悪かった。もう行くよ」
「はぁ……」
男は小さく頭を下げてから、細い道に進んでいく。戻ってくる様子も仲間が来る様子もない。周りの冒険者はにゃん太郎を警戒しつつも、次第に興味を失ったように散っていく。
「罠がある場所って分かりづらいの?」
「? 人間達はよく発動させてるにゃ」
「さっきの人が知らなかっただけってことか。私も気をつけないと」
「我が輩と一緒なら何の問題もないにゃ。さぁ水場に行くにゃ」
美味しい魚〜ご飯ご飯〜とご機嫌なにゃん太郎に続く。男が進んだ細道とは真逆に進む。大人の男性だとすれ違うのがやっとのかなり細い道である。そんな道の天井に、チンパンジーほどの大きさの猿が5匹。
ウォールモンキーの群れである。
「顔怖っ!」
第一声がそれだった。
ゲームで見るのとリアルで見るのとでは訳が違う。1匹や2匹ならともかく、群れをなしてると圧がある。天井に張り付いているため、圧迫するようなプレッシャーもある。
ここは明るいフロアだから顔が怖いぐらいの感想だが、夜道であんなのを見たら間違いなく泣く。大泣きする。
私が猿の顔面にたじろいでいると、にゃん太郎が手を一振りした。
「にゃっ」
鳴き声から数秒遅れて、猿の群れは消えていった。清々しいほどの瞬殺である。さすがはにゃん太郎。
白い靄のようなものが消えると、天井からアイテムがボトボトと落ちてくる。
なかなかにシュールな光景だ。
「これは……いい感じの棒だ」
ウォールモンキーのドロップアイテムは、太めの棒だった。
釣り竿に使うにはやや短く、麺棒にするにはやや長い。今のところ使い道が思い浮かばないが、何かに使えるかもしれない。ひとまず5本とも拾ってバッグに突っ込む。
「【デイリークエスト:新しい素材をゲットしよう】を達成しました」
「それは後で穴に挿してみるにゃ」
「穴って何の穴?」
虫系の魔物の巣穴か何かだろうか。
はてと首を捻ると、詳しい説明をしてくれる。
「にゃ。あの穴に棒を挿した人間は、いつも何か持ち帰っているにゃ」
「隠し部屋かな?」
「我が輩は入ったことにゃいけど、ロゼと一緒なら行けるにゃ!」
にゃん太郎のキラキラとした目が『行ってみたい』と強く訴えている。まるでスーパーで食玩を見つけた子どものよう。
「せっかくだから行ってみようか。棒を挿した直後に何か飛んできたり、魔物が飛び出してきたりとかはなかった?」
「ないにゃ」
「そっか。なら安心だね」
にゃん太郎は「にゃっ!」と頷いて、そのままスタスタと足を進める。到着したのは、これまた先客のいない綺麗な水場である。にゃん太郎は穴場を見つける天才かもしれない。感心していると、にゃん太郎はそのまま水場を通り過ぎていく。
「ここで釣らないの?」
「先に穴に行くにゃ!」
にゃん太郎はそう返事をすると、近くの岩にぴょんっと飛び乗る。
1、2、3と高さを変えてジャンプ。
するとゴゴゴと音を立てながら、岩が動いた。岩の下には10段ほどの短い階段。その先には木の扉があった。
にゃん太郎に続いて降りていく。正面に立つと結構大きい。先ほど遭遇した冒険者でも余裕でくぐれるほど。
そんなドアの下の方に、丸く開いた穴が5つ並んでいる。
よく見ると、微妙に穴のサイズが違う。中に細かい模様が彫られている穴もある。
ゲームなら鍵となる5つの玉を用意してはめ込むところだが……。
「さっき拾った棒はどこに挿すか分かる?」
「この穴にゃ」
にゃん太郎が指したのは真ん中の穴。迷いはない。私は採れたてホヤホヤの棒を差し込んだ。意外と深く、カチッと音がした。
『ウォールモンキー ブラウンの反応を確認。エリアDに繋ぎます』
「エリアD? にゃん太郎、これって前に冒険者が入った時のアナウンスと同じ?」
「いつもこれにゃ」
どの穴に鍵となるアイテムを差し込むかによって解放されるエリアが違うらしい。
にゃん太郎がいなければ、私がこのドアを知ることはまずなかっただろう。
魔物の襲撃やトラップの発動がないと分かっていることもあり、のんびりと構えていられる。
「開くまで少しかかりそうだから、記念撮影しとこっか」
バッグからカメラを取り出すと、にゃん太郎の尻尾がピンッと伸びた。
「撮るよ~。さ〜んにぃ〜いち〜ぴぃ〜っすぅ〜」
「にゃ~」
右手でカメラを構えながら左手でピースする私と、固めた両手でひっかきポーズをするにゃん太郎。完全に招き猫である。
「え、めっちゃ可愛い。今度はさっきの岩の上に乗って撮ろうよ。私が石に座るから、にゃん太郎は私の膝の上に来て~」
せっせと自撮りに勤しんでいる間に、ドアの向こうでカチカチカチと歯車が噛み合っていく。場所とポーズを変えて5枚ほど撮り終えると、再びアナウンスが流れた。
『三分以内にエリア内で最も価値のあるものを一つ選びなさい。価値なきものは退室後に消滅します』
「最も価値のあるもの、か」
宝箱がある部屋、というだけではないようだ。
バラエティ番組であるような審美眼テストか、小説に登場するような謎かけか。
開いたドアの向こう側は真っ白い部屋にしか見えない。敷居を跨がなければエリア内が見えない仕組みとなっているのだろう。
カメラを仕舞いながら、アナウンスの意味を考える。
「ロゼ、入るにゃ」
「そうだね」
エリアの外で首を捻っていても答えは出ない。にゃん太郎に促されるまま、ドアの中へと踏み出した。
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