24.記念写真
「おはようございま〜す」
「遅いにゃ!」
「ごめんね。行きにちょっと時間かかっちゃって。あ、今日も串焼き買ってきたよ。串から外すから少し待っててね」
荷物を置き、串焼きの肉を串から外す。
にゃん太郎には串焼きを、それから神様の分と合わせてお水を渡す。
朝食の準備をしていると、私の背中に神様の質問が飛んできた。
「それで、目当ての魔法道具とやらは手に入ったのか?」
「出かけに時間がかかっちゃってまだ買えてないんですよね〜。でも写真と動画が撮れる道具をもらったので、それの性能見てから買いに行くのでも遅くないかなって。性能確認も兼ねて、あとで記念写真撮りましょうよ」
「記念も何もめでたいことなどないだろう」
神様の返事はそっけないものだ。
にゃん太郎は写真がよく分かっていない様子。振り返ると、お肉を食べながらキョトンとしていた。可愛い。
ご飯作りの最中でなければ、カメラを向けてシャッターを切っているところだ。
キョトンとしたにゃん太郎の姿はもちろん、今後はゼリーをモグモグする神様の姿だってばっちり記録に残せてしまう。
だが記念すべき1枚目は、全員写っている写真がいい。
「初開拓記念ってことで、畑の前で撮りましょう。畑といえば、昨日植えた種、もう芽が出てたんですけど、神域っていつもあんな感じなんですか? それとも肥料効果?」
小屋に入る前にチラッと見ただけだが、全体的に小さな芽が出ていた。小学生が夏に向けて育てる朝顔よりも成長が早い。これが食神の力なのだろうか。
鍋の味を確認してから、スープ皿に手を伸ばす。
「肥料の効果も多少あるが、水の影響が強いな。植える種にもよるが、本来であれば芽が出るまで最低でも3日はかかる」
「ヌシの水場の水ってそんな効果があるんですね〜。そういうことなら今後も魔法に頼らず、水汲みした方がいいのかな」
「うむ」
神様は力強く頷く。
昨日の私は神様の指示に従ってひたすら動いていた。特に後半は疲れてあまり頭が回っていなかった。だが苦労した甲斐はあったようだ。
畑が増えてきたら使い分けるのも手だが、食糧が安定するまではヌシエキスに頼らせてもらおう。
「水場の恩恵を得るのはいいが、ヌシの餌を用意するのも忘れるでないぞ」
「ヌシってなに食べるんですか? やっぱり小さい虫とか?」
「水辺に生えた苔を食べる。釣りに行った際に、水草や苔などが付いている石を持ち帰ってきて、水場に入れておけばいい」
「あ、そういうのでいいんですね」
そのくらいなら釣りを始める前にバケツでザバッと掬うだけでいい。虫を確保するより楽そうだ。
「一番いいのは小魚だ」
「共食いじゃないですか!」
「元々は魔物だからな。弱肉強食というやつだ」
「魚界隈も大変なんですね……。ついでだからヌシの成長記録も残しておこうかな」
「我が輩達のも成長記録にゃ? それならやったことあるにゃ」
「成長記録でもあり、思い出を残していくって感じかな。どうせなら体長とかも測っとく? 実は今日、メジャーも持ってきてるんだよね」
完成したスープとゼリーをテーブルに置く。
そしてバッグの中からメジャーを取り出した。裁縫道具に入っていたものなので2mほどしかないが、にゃん太郎を測るなら十分だ。
「また変なものを……。今度は何を企んでいるのだ」
神様は私に怪訝な視線を向ける。
だが企みなんて立派なものはない。
「神域でもお風呂使えるようにしようと思ってるだけですよ。そういう場所ありましたよね? 温泉でもいいですよ」
「温泉の開拓はまだしばらくは無理だが、風呂場ならあるぞ」
「なるほど。温泉は後々開拓させてもらうことにして、お風呂場に大きめの桶とか折り畳める浴槽とか持ち込んでも大丈夫ですか?」
「そのくらいなら構わんぞ」
警戒していた割には、案外あっさりと許してくれたものだ。帰りに魔法道具屋を覗くついでにお風呂用品も確認しておこう。
「お風呂ってなんにゃ?」
「程よく温かいお湯を溜めて、その中でゆっくりあったまることだよ。浴槽を導入したらにゃん太郎も入ろうね。もちろん神様のお湯も用意しますからっ!」
「我は風呂に入らんでもいいが」
「ゼリーみたいに一回体験したら気にいるかもしれないじゃないですか」
「ふむ」
神様は本日のオレンジゼリーを頬張りながら考える。モグモグと口を動かすと、こくりと頷いた。
「ならば一度入ってみることにする」
「お風呂道具揃ったら、神様に一番風呂譲りますね! ひとまず今日のところは写真撮影しましょう」
結局そこに戻ってくる。
朝食を済ませたのち、洗い物をしてからカメラを持つ。
「じゃあ外に行きましょ〜」
「にゃ〜」
「本当に撮るのか?」
ご機嫌なにゃん太郎とは正反対の反応だ。
表情が動かないので分かりづらいが、どこかソワソワしているように思う。おそらく不機嫌ではない。
「神様、写真嫌いなんですか?」
「嫌いというか、今まで神である我を撮ろうとする者はいなかった。我は神だぞ?」
「もしかして写真に映らないとか?」
「さあな」
「なら結果を知るためにも、ひとまず撮ってみましょうよ」
神様の背中をグイグイ押して、畑の前に移動する。
「ここがいいにゃ!」
「トマトエリアだね。ここにしようか。にゃん太郎はちょっと下がって、神様はしゃがんでください」
位置を調整してから、カメラを持つ腕を思い切り伸ばす。スマホでの自撮りに慣れすぎて、いまいち距離感が掴みづらい。
まずはこれで一枚撮ってみよう。
「撮りますよ〜。さ〜んにぃ〜いち〜ぴぃ〜っすぅ〜」
「何だその声は」
「写真撮る時のかけ声ですよ」
カメラを確認し、3人とも写真に収まっているのを確認する。位置はバッチリ。神様もちゃんと映っていた。
私が半目であること以外は問題ない。
「位置はこのままで大丈夫なので、あと2枚撮りますよ〜」
「にゃっ!」
「さ〜んにぃ〜いち〜ぴぃ〜っすぅ〜」
続けてシャッターを押す。
パシャパシャと音を鳴らしてから、再び撮った写真を確認する。今度は半目になっていない。にゃん太郎と神様も問題ない。可愛い。
「はい、オッケーです! 小屋帰る前にこの辺のも記録取っとこうっと」
芽が出てきたばかりの畑を撮影してから、小屋に戻る。
「えっと現像方法は……」
もらったメモを見ながら、紙に画像を現像する。
「我が輩がいるにゃ!」
「綺麗なものだな」
「本当に思ったより綺麗ですね〜」
前世の一眼レフカメラほどではないが、スマホのカメラくらいは質がいい。
てっきり子供の頃に使っていた使い捨てカメラで取った写真よりも荒い画像が出てくると思っていた。
実は結構いいカメラなのだろうか……。
「写真というのも案外悪くないな」
神様は私が半目になってる写真を手に、ボソッと呟く。
感動してくれるのは嬉しいが、なぜよりにもよってその写真なのか。
本当はしれっとこれだけ消しておきたかったのだが、カメラには削除ボタンがなかった。どうやら規定枚数を超えた際に古い物からデータが消えていく形式らしい。
慣れれば写真を見てこれは現像する・これは現像しないと自身で選べるようだが、初めての私にそんな技量はない。操作の詳しい説明もなく、写真は全て現像されてしまったというわけだ。
なんとも悲しい話である。
「神様、見るならこっちにしてくださいよ」
他の写真と入れ替えようと手を伸ばす。
だが身体ごとスッと躱されてしまった。
「これは私を撮った初めての写真だ」
神様は写真を両手で包んで、背中の後ろに隠してしまう。よほど気に入った様子。これでは無理に取り上げるのも可哀想だ。
「……分かりました。その写真は神様にあげます」
「一度捧げれば返さぬぞ」
「いいですよ」
「我が輩はこれがいいにゃ〜」
残りの2枚のうち、片方ににゃん太郎の手が伸びた。
畑の真ん中あたりでにゃん太郎がポーズを決めている写真だ。私の笑顔も自然に映っている。
「ならこれはにゃん太郎にあげるね。私はこれにしようっと」
残された1枚を手に取る。
笑顔もポーズも作っていない、もっとも自然な私達である。アルバムの1ページ目に飾るに相応しい写真だ。
各々が気にいる写真が撮れたことに喜びつつ、他の写真の写りも確認するのだった。
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