20.ゾウさんジョウロ
「気になるなら神様が持っててください」
コインを載せた手をそのまま神様に差し出す。
だが神様は回収してくれない。じっと見たまま悩んでいるようだ。
「特別なものかもしれぬぞ」
「特別なものなら2枚と言わず、何枚かありそうじゃないですか? せめて5枚。私なら5柱の神の神域全てに埋めて、5柱それぞれの信者に行き渡るようにします」
ダンジョン内で発見したならともかく、神域内で発見される想定なら他の神域にも隠されているはずだ。
ただゲームで一切登場しなかったことや、神である食神も知らないのはやはり引っかかる。
念のため、周りも確認したが2枚目のコインは見つからなかった。
帰ったら火神信者の兄にもそれとなく聞いてみよう。
ほぼ未開拓な食神神域とは違い、火神の神域はかなり開拓が進んでいる。ゲームでは火神神域を新たに開拓するとなると、既存の建物などを壊す必要があったほど。
全ての神域に隠されているのなら、火神信者は何かしらの情報を持っている可能性が高い。情報を伏せられている可能性も高いが。
まぁ聞くだけはタダ。
聞かないよりいいだろう。
他にも何枚か隠されてる説を推す私とは反対に、神様は別の可能性を考えているようだ。
「これが本当に神域にあったものなら、な」
「どういう意味ですか?」
「ロゼが取った行動が創造神様に認められ、コインを授けられた可能性も否定はできん」
「髪染めて、畑開拓しただけでコインくれるなら、稼ぎたい放題じゃないですか。食神コインよりハイスピードで集まりますよ。使い道不明なのばかり集まっても邪魔なだけですけどね」
「仮にも創造神様の紋様を刻んだコインに邪魔など、不敬だぞ」
神様は表情を変えず、けれどもムッとした感情を乗せた言葉を紡ぐ。
「でも間違って神様のガチャに投入して、詰まりでもしたら困りますし。神様がいらないなら、どこか間違えないところに入れておかないと……」
使い道が分からないアイテムは場所というのは厄介なもので、使って後悔することもあれば、大事に取っておいて後悔することもある。
ゲームなら速攻で調べるのだが、ここには攻略本も攻略サイトもない。
もっと言えば特別な何かを求める者もいない。
限定数枚のプレミア付きアイテムなんて、持っていても荷が重いだけだ。
レアリティは高いが、頑張れば誰でも手に入るくらいのラインが一番嬉しいのである。
「いらないとは言っておらぬが、我に渡せば供えたことになる。ロゼがそのまま持っておくのがよかろう」
「えー」
神様は私の指を一本一本丁寧に閉じていく。右手のコインはすっぽりと隠れてしまった。
仕方ないのでそのままコインをポケットに突っ込む。
いざとなったら仮面の商人との取り引きに出してみるのも手だが、当面は棚の肥やしか観賞用になりそうだ。
「ほら、まだ水やりが残っておるぞ」
「はーい」
疲れた身体を鼓舞して、ヌシの水場まで移動する。
そしてゲットしたばかりのゾウさんジョウロを使って水を撒いていく。
水の量はひとまず土が湿るくらい。隣で確認している神様からも指示はない。少なすぎたり多すぎたりすれば止めてくれるだろう。次のエリアにも同じく水を撒いていく。
「ところでにゃん太郎がそのコイン見たのって、ここのダンジョン?」
「そうにゃ。階段を4回降りた先ーーゴーストの棲家にあったにゃ。我が輩が案内するにゃ!」
にゃん太郎は大きく伸びをする。
今から案内してくれる気満々だ。ありがたい話だが、今の私に第5階層はハードルが高すぎる。
「えっと、私が行けるようになったら案内してほしいな」
今は無理。
遠回しにそう告げると、にゃん太郎の尻尾がたらりと垂れる。
「すぐ行かないのかにゃ?」
「私はまだまだ弱いから。レベリングした上でゴースト対策もしないとキツそう。ひとまず第5階層まで順番に攻略しつつ、探索して美味しそうな物を見つけつつ、地道にレベルアップしていきたいかな。あと、これ以上動くと明日ベッドから動けなくなりそう」
話しながら、すでに3往復は水を汲んでいる。
しゃがんでは汲んで撒いて、しゃがんで汲んでの動きは地味に負担がかかるのだ。
小屋の近くに水場を、そして水場の近くに畑を作るのがいいと教えてくれた神様の意見は正しかった。
何事も先人の意見には耳を傾けておくものである。
まぁ傾けた結果が、開拓解禁初日から広めの畑を掘ることになったのだが。
「急がず焦らず無理をせず攻略していくのが一番ということだな」
神様はそう締めくくる。
「他のフロアでも何か見つかるかもしれないし、もしコインが回収できなかった時のことも考えて、遠くにある物でも撮影できるようなアイテムも買っておきたいな」
「階段を1回降りた先にも水場はあるにゃ!」
「第2階層でも魚釣りしようね」
「美味しいご飯楽しみにしてるにゃ」
早くもにゃん太郎の目的は、創造神のコインから魚に移ったようだ。
第2階層の水場と第1階層の水場では出現する魔魚も違うのだろうか。
一般的に下のフロアに降りれば降りるほど魔物も強くなっていく。魔魚のお味も比例するといいのだが……。
想像すると、お腹がグゥッと鳴った。
「ちょっと早いけど、夕食にしましょうか」
「賛成にゃ!」
「ゼリー、楽しみにしておるぞ」
道具をまとめ、小屋に戻る。
夕食を作る私の手元では、新たに加わったゾウさんジョウロのチャームが揺れていた。
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