17.髪を染めよう
「洗い物も済んだことだし、髪染めに行ってきますね〜」
首元にタオルを仕込み、今朝買ってきた温泉スライムの皮ポンチョを頭から被る。少し大きいので、余った分をまとめてたこ紐で縛る。
一緒に購入した温泉スライムの皮手袋、自作した髪染め粉、櫛、それから暇つぶし用のゴブリンの布も持って立ち上がる。
このために昨晩紐状にしてきたのだ。座布団くらいは作れるはずだ。
「たくさん持ってどこ行くにゃ?」
「奥の洗面台に。薬っぽい匂いがするかもだから、にゃん太郎は神様と一緒にこっちで遊んでて。何かあったらそこから呼んでくれれば聞こえるから」
「分かったにゃ」
「ゼリーのおかわりは?」
すりおろしりんごのゼリーを速攻で完食した神様が質問する。おねだりに近い。よほど気に入ってくれたようだ。
「帰る前に夜分作りますよ。髪染めも30分から1時間くらいを目安に流すので、すぐ帰ってきます。終わったら開拓の詳しい説明よろしくお願いします」
「さっきのコインも使うにゃ?」
「そうだね。開拓前に手持ちの種確認しときたいし、先にガチャ回そうか」
「またいいの出るといいにゃ」
「ね〜」
話しながら二人と別れ、洗面台に向かう。
両手に温泉スライムの皮手袋をはめ、髪染め粉を水で溶く。水分多めのペースト状にしていく。少しだけ髪に載せ、液ダレがしないかを確認する。
「うん、大丈夫そう」
皮膚に付いても問題がないことはパッチテストで確認済み。前世のセルフ染めより気を使わずにペタペタと髪に塗っていく。
あらかた広げ終わったらクシで溶かす。髪をかきあげ、根本や分け目の部分も忘れずに。
この辺りはハケがあった方が楽だったかもしれない。今回は余った髪染めを盛り付けておく。
我ながら雑すぎる。
色ムラもできそうだが、今回が初回。そもそもうまく染まってくれるかも分からない。色落ち日数の検証も兼ねているので、若干染めにムラがあってもそれはそれでいい。
この場にロゼの兄がいたら顔を顰めそうだが、帰宅後でもなんだかんだと言ってくるのだろう。気にしたら負けだ。そもそも普通の人は回復薬を髪に塗らない。
今、私が染まり具合の次に気にすべきは髪染めを落とした後、どのくらい匂いが残るか。
前世でも美容院や薬液によっては、帰宅後しばらくは独特の匂いが漂っていたものだ。薬臭さが残ってにゃん太郎に距離を置かれないことを願うばかり。
そう考えると、この後に控えているのは『神域開拓』という名のお外作業であるのは幸運だったかもしれない。
屋外なら匂いも分散される……はず!
不安な気持ちを胸に抱えつつ、使った道具を洗い流していく。最後に水洗いした温泉スライムの皮手袋を干してから、近くの椅子に腰掛ける。
用意していたゴブリンの布でせっせと座布団を編んでいく。
「できた!」
黙々と編むこと約40分。
完成した二枚の座布団を掲げ、ポッコリと出っ張った部分がないかを確認する。軽く上下左右に引っ張ってみて、我ながらいい出来だと頷く。
するとキッチンの方からにゃん太郎がトコトコとやってきた。
「何ができたにゃ〜」
「あ、にゃん太郎。こっち来て大丈夫? 薬臭くない?」
「このくらい平気にゃ。それより何ができたにゃ?」
「座布団。神様と私の椅子に敷こうかなって」
「我の分か?」
遅れて神様もひょっこり顔を出す。
「木の椅子に長時間座ってると疲れるので作ってみました!」
二枚を見比べて、綺麗にできた方を神様に渡す。
また変なものを……と言いつつもどこか嬉しそうだ。にゃん太郎の尻尾もゆらゆらと揺れている。
「我が輩のとよく似てるにゃ」
使っている素材が同じなのと、私の編み物レパートリーの少なさゆえなのだが、喜んでもらえてよかった。
「頭洗いながしたらそっち行くので、先戻っててください」
二人を見送ってから蛇口の下に頭を突っ込む。シャワーがないと若干不便だが、首の位置や角度を変えながら髪染め剤を落としていく。
「こんなもんかな〜」
クシを通してみて引っ掛かりがないのを確認。水気も軽く落としてから、タオルで挟むように水気を吸い取っていく。
「色はちょっと移るか」
1時間未満では色移りは避けられないのだろう。タオルに浄化魔法をかけてみたが、やはり変化はなかった。
洗濯用石鹸を使えば落ちそうな気もするが、浄化魔法が当たり前の世界では見つけるのも大変そうだ。
このタオルは今後、髪染め担当に任命する。あとで洗って干しておこう。
服に色移りしないよう、ポンチョもしばらく着たままの方がよさそうだ。改めていい買い物をしたものだと実感する。
だが着色効果が高い分、髪の方も暗めの茶髪くらいになってくれた。厳しめの学校なら校則で引っかかりそうなくらい。
欲を言えばもう少し明るめの茶髪がよかったのだが、ベースは完全な黒。ブリーチなしの髪染め初回でここまで行ったのはいい方なのではないか。重ねる度にまた色味に変化があるかもしれない。
とはいえゲーム内でチラッと映ったモブの中には、このくらいの髪色の子はいた。
今でも十分擬態できるレベル。
かつ、一部マダラで黒髪が見えてもぱっと見分かりづらい特典付き。
今の私にピッタリである。
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