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15.特殊個体

 釣り竿を逆さに持ち替え、手元のしっかりとした部分で改めて確認する。


「あ、動いた。ってことはこのまま引き上げられそう?」


 そのまま大きさも確認する。大体ファミリーパックのアイス箱くらい。バケツにも入りそうだ。


 本当は釣り竿で手繰り寄せられればよかったのだが、斜めにした時に重さがあった。


 中身には期待できそうだが、罠や魔物の可能性も否定できない。この世界にも宝箱魔物ーーミミックが存在する。


 ゲームで登場したのは、偽隠し部屋に置かれた宝箱として。ストーリー中盤ほどで登場した。


 さすがに初心者向けダンジョンの第一階層にミミックなんていないと信じたいが、警戒するに越したことはない。


 手を伸ばして掴みたい気持ちを堪え、どうしたものかと思案する。


「そこに大きな魚がいるにゃ?」


 釣り竿を抱えて悩んでいると、にゃん太郎の声が聞こえる。私が通ってきた石とは反対側の岩に飛び乗り、水の中を覗いている。


「宝箱が見つかったんだけど、罠や魔物の可能性もあるからどうやって引き上げようかと思って。今のところ、第一候補はバケツで掬う作戦かな」

「そんなことしなくても我が輩が掬うにゃ」


 にゃにゃっと空中で箱を掬う動作を見せてくれる。

 大変心強い。だが今回は却下だ。


「手が触れた時にトラップが発動して、にゃん太郎が怪我するかもだからダメ」


 右手の手のひらをつぎ出し、力強くノーと伝える。


「ならここから風魔法を打つにゃ。ロゼも離れてれば危なくないにゃ?」

「それなら安心かも。箱は壊しちゃっていいから。安全第一でお願い」


 箱だけでなく、宝箱の中身も吹っ飛ぶ可能性はある。その時は私達には縁がなかったということで。


 発見自体たまたまで、壊れちゃったら次の宝箱を狙いにいくくらいの気軽さと欲深さを胸に抱いておく。


「ロゼが突いてた辺りでいいにゃ?」

「うん。光の角度によって見えたり見えなかったりするけど、ぶつかった時の感覚はあるから小さめの風魔法を何度か打ってみて」


 このくらいの箱で、と両手を使ってサイズを使える。そしてもう一度釣り竿で正確な場所を伝えてから、陸に戻る。置いたままの荷物を抱え、水場から少し距離を取る。


「もういいかにゃ?」

「いいよ〜。岩から滑り落ちないようにね〜」

「そんなヘマしないにゃ」


 にゃん太郎はぴょっんっと飛び上がり、にゃにゃっと右手を振るう。目の前に生まれた小さな空気玉が水面をめがけて飛んでいった。


 にゃん太郎は位置を微調整しながら、繰り返し何発も空気玉を放つ。


「あ、なんか浮いてきた」

『【臨時クエスト:特殊個体を討伐しよう】をクリアしました』


 ぷかぁ〜っと宝箱が浮いてきたのと、脳内でアナウンスが流れたのはほぼ同時だった。


 宝箱の蓋は開いており、内側にガチャコインが何枚か入っているのが見える。宝箱の正体はミミックだったようだ。


「臨時クエストにしても、隠れた宝箱に擬態した魔物って難易度高すぎない?」


 神様も私達に全て教えられるわけではないにしろ、隠し宝箱か擬態系の魔物のどちらか片方だけにしてほしかった。


 にゃん太郎の魔法を何回か耐えたということは、レベルもそこそこ。ダンジョン数日目の子供に出すようなクエストではない。意地悪すぎる。


 神域に帰ったら、このレベルのクエストはまだ早いと伝えなければ。


 ひとまず下手に手を出さなくてよかった。私もにゃん太郎も怪我一つなく討伐が完了できたことに、ホッと胸を撫で下ろす。


「ロゼ、取りに来るにゃ〜」

「今そっちいくね〜」


 バッグを肩から下げ、一つ目の石に飛び乗る。

 その瞬間、水面に新たな影が見えた。素早い動きでにゃん太郎のいる岩に移動していく。


「にゃん太郎、そっちになんかいった!」

「にゃ!?」


 私の声に驚いたにゃん太郎は、後ろに飛び跳ねる。

 すると先ほどまでにゃん太郎が立っていた岩の上を飛び越えるように、素早い魚がジャンプした。キラキラと光る鱗は他の魔魚とは一線を画している。


「もしかして神様が言ってた特殊個体ってあっち?」


 ポカンと口を開け、魚を見つめる。

 にゃん太郎は着地した足でそのまま地面を蹴る。そして反動をつけて魚に飛びかかった。


「にゃっ!」

 見事な引っかきである。にゃん太郎の渾身の一撃になすすべなく、魚は消滅していった。ドロップアイテムがぼちゃんと大きめの音を立てて落下する。


「なんか落ちたにゃ〜」


 にゃん太郎はのほほんとした声で私を呼ぶ。

 突然現れた魚などいなかったかのよう。これが踏んできた場数の違いというものか。特殊個体を討伐した後なのに、疲れも一切感じさせない。


「今回収に行くからちょっと待ってね〜」

 ひょいひょいっと石の上を移動し、先に宝箱をバケツで掬う。なくさないようにガチャコインは先に回収し、バッグに入れた。水中を覗き、周りにコインが落ちていないかを確認する。


「取りこぼしは……なさそうだね。うん、大丈夫そう」

「今度はこっちにゃ」

「ここからだと遠いから、一旦岸に上がってからそっち回るよ」


 声をかけ、ぐるりと水場を回ってから岩場に飛び乗る。

 再び空のバケツでアイテムを掬い上げたのだが……。



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