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11.初めてのブラッシング

 ここで一休みしたいところだが、休んだらお尻と椅子がくっついてしまいそうだ。


 軽く屈伸してから、ローブとバッグを手に取る。


「じゃあ岩塩取ってきますね」


 採取量はほんの少しでも、叩いた時の音の確認だけは早めに済ませておきたかった。


「気をつけて行ってくるのだぞ」

「まってるにゃ〜」


 二人に見送られながら神域を出る。

 目的の鉱物岩は先ほどの探索中にいくつか見つけてある。近いものから順番に残っているか確認して回る。


 お昼を挟んだこともあり、すでにいくつかは砕かれている。残っていたのは三つ目の岩と七つ目の岩だけだった。


 ブレスレットから鉱物用ハンマーを取り出す。


「あ、意外と軽い」


 重さはスコップと同じか、やや重い程度。一般的な金槌と比べるとだいぶ軽い。サイズも小さめで、子供の手でも握りやすい。


 これで岩が砕けるのだろうか。

 少し不安を抱えつつ、コンコンと軽く岩を叩いてみる。


 するとなんということか、叩いたところが少し浮いた。浮いた部分を持ち上げると、簡単に岩塩が剥がれた。


 確認のため、反対側を叩いても同じ。非常に静かかつ弱い力で簡単に採れていく。


 これならにゃん太郎が同行している時でも使えそうだ。


 大きさの比較用に何度か繰り返しているうちに、バッグが重くなってきた。これだけ採れればしばらくは塩に困ることはない。


 満足いくまで採っても、欠けているのは岩の上部のみ。

 残っている部分を見てもまだまだ普通の岩だと言い切れるレベル。


「一個の岩からどのくらい取れるんだろう……」


 他の岩があった場所を見ながらポツリと呟く。


 さすがに私では持ち帰るだけでも疲れるし、そもそも持ち帰ったところで消費するあてもない。試そうとは思わないが、純粋な興味が湧いた。


 いつか岩一つ分の岩塩を採取する人を見かける機会があるといいのだが……。

 そんなことを思いながらバッグを撫でる。すると近くから声が聞こえてきた。


「あの子だろ、さっき猫の亡霊と一緒にいたの」

「今は一緒じゃないんだな」

「いや、どこかに隠れているのかも。ねぇ煮干しってまだあったっけ?」

「本当に連れてたの?」

「連れてたどころか、普通に話してたんだって」

「見間違いじゃないか?」

「どうやってあの亡霊を……」

「あの子自身に危険性はないのか」

「分かんないよ。うちの信者じゃないもん」

「俺んとこでもないぞ」


 どれもにゃん太郎に関する話題ばかりだ。オマケで私にもやや感心が向けられている。


 岩塩採取にばかり気を取られて、人が集まっていることに全く気付いていなかった。ざっと数えて十数人ほど。


 午前中の冒険者のように直接絡んでくる人はいない。服装や装備品はいかにも駆け出しといった雰囲気で、こちらを遠巻きに見ている。


 常に煮干しを持ち歩かなければならなかった彼らの状況を思うと、こちらが気になるのは仕方のないことかもしれない。


 むしろ子供一人だからと、勇気を出して話しかけてくる者がいないのは、初心者講座の良い影響だとさえ思う。


 私が悪い考えを持った人だったら、声をかけることで攻撃の対象になりかねない。警戒すべき相手が隠れているかもしれないし、午前中の冒険者と手を組んでいる可能性だってある。変に刺激しないのが一番だ。


 警戒させてしまう申し訳なさはあるが、徐々に慣れてくれることを願うばかりだ。


 とはいえ今日のところは、にゃん太郎と一緒に神域でのんびり過ごすくらいがちょうどいいのかもしれない。


 岩塩は十分確保できたし、これ以上観衆が集まる前にさっさと神域に戻ることにしたのだった。


「ただいま帰りました〜」

「りょじぇふぁっへふぁにゃ」


 小屋に入ると、くぐもった声が足元から聞こえてきた。にゃん太郎である。待ちきれずブラシを咥えている。


 荷物を置き、にゃん太郎からブラシを預かる。

 そしてローブを来たままその場でしゃがみ、背中にブラシをかけていく。


「嫌なところがあったら遠慮なく言ってね」

「にぁあ」


 緩んだ声が返ってくる。どうやらブラシを気に入ってくれたようだ。思っていたよりもブラシには毛がついている。


 一旦立ち上がり、ゴブリンの布を床に敷く。

 ブラシについた毛は手で取ってからその上に載せる。そして再びブラシを動かす。


 にゃん太郎はにゃ~と鳴きながら、自主的に体勢を変えてくれる。

 慣れていないと嫌なところに触れてしまい、猫パンチを食らうなんて話も聞いたことがあったが、これなら心配はなさそうだ。


「気持ちよさそうだな」

 神様もしゃがみながら、にゃん太郎の様子を眺める。


 私達の間に、にゃん太郎の抜け毛がこんもりと積もっていく。ブラシを買って正解だった。心なしか、毛の色も明るくなった気がする。


 今後も定期的にブラッシングをしよう。

 ブラシに顔を擦りつけるにゃん太郎を見つめながら、心に誓うのだった。

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