10.豆は豆
「野菜の種が一番多く入っているだけだがな」
「ダブりとプラスに向き合おうとしている時に、テンション下がること言わないでくださいよ……」
「食うに困らないのはいいことであろう?」
神様は心底不思議そうに告げる。
最も排出率が高い種が☆2になった理由は、食神にとって資材・素材よりも価値が高いからか。
前世のゲームだったら強いキャラや期間限定衣装のキャラクターが、商店街のガラガラだったら五万円分商品券や一泊二日の温泉旅行が上位賞に当たる。
上位に位置付けられているものほど排出率は下がり、入手が困難になっていく。
てっきりこの世界でも同じルールが適応されると思い込んでいたが、案外、他の神域でもそんなことはないのかもしれない。
「確かに肉と魚が第一階層で獲得できることを考えると、野菜も安定して手に入る方法があるのは嬉しいですね。お腹は膨れるとはいえ、ずっと草と山菜だけでっていうのも味気ないですし」
帰りに遭遇したオークは例の冒険者が倒したが、周りの冒険者を見ている限り、私ももう少し強くなれば討伐できそうだった。
そうなれば魚同様、食卓に並べられる。
ここに野菜が加われば、食事が豊かになること間違いなし。
そこまで考えて、ふと新たな疑問が頭に浮かんだ。
「ところで、この豆ってなに豆なんですか?」
つい三度目のトマトに気を取られてしまったが、豆の種のざっくりとした紹介が気になった。ウィンドウには詳しい名称も説明もない。
神様に聞けば解決すると思ったが、返ってきたのは意外な言葉だった。
「豆は豆だ」
「いや、一口に豆って言っても、大豆や小豆、ひよこまめにえんどう豆とか色々あるじゃないですか」
「どんな豆ができるかは、育ててみなければ分からん」
「入っている豆の種が排出される度に変わるってことですか?」
豆は豆でも、1回目に出た種は大豆で、2回目は小豆だった〜みたいな。
もしかしたらトマトも1回目、2回目、3回目で実るトマトの大きさや味に変化が出るかもしれない。
そう考えたのだが、神様はこてんと首を捻る。
「何を言っている。豆は様々な色や形のものが同時に実る作物だ」
「それだと特定の味の豆食べたい時に困りません? 実った豆を呼び分ける時も同じ名前だとどれがどれだか分からなくなりそうですし」
「困るも何もそういう作物だ」
日本で暮らした記憶のある私と、この世界の神様とでは豆に対しての考え方に違いがあるようだ。食文化の違いともいう。
「よし、これはランダム豆と呼ぼう」
豆にランダム要素は求めていないが、郷に入っては郷に従え。
そういうものだと受け入れる他ない。
どうせ売るつもりはなく、三人で食べるだけなのだ。気楽に楽しもうではないか。
例えば育ったものを種類ごとに分け、そこから獲った種を育てた場合、実る豆はどんな種類なのかを確かめるとか。
ランダムなのか種類が固定されるのか。同じことを繰り返していけば、できやすい種類とできにくい種類が生まれるのかなどなど。
ノートを持ち込んで、記録もとってみよう。
「豆は豆だがな」
神様は冷ややかな言葉を吐く。
だがゼリーはゼリーだと言い切った彼は、たった一日でフルーツゼリーの虜になったのだ。豆だって食べれば、手のひらをひっくり返すに違いない。
「種類ごとに味も調理方法も全然違うし、名称分けは大事です。神様も食べれば分かります」
「期待しておくことにしよう」
今の神様はまだ豆の可能性を知らないだけ。
山盛りを要求する姿を想像すれば、俄然やる気が湧いてくる。
「それは我が輩も食べられるかにゃ?」
「加熱してあれば問題ない」
「にゃん太郎のも作るから一緒に食べようね」
「にゃ!」
嬉しそうに返事をするにゃん太郎。
ゲットした種は前回同様、クローゼットの引き出しに入れておく。それから干物作りに取り掛かることにした。
といっても小屋には干物用の網や棚はない。漉し器に続き、ザルを活用する。
自然に頼って乾燥させる場合だと乾き具合が偏りそうだが、今回は魔法だより。
重ならないようにだけ気をつけ、風魔法のエキスパート・にゃん太郎さんに声をかける。
「にゃん太郎、ここに風送ってもらえる? お魚が飛ばないように、軽めな感じでお願い」
「分かったにゃ」
にゃん太郎が手を軽く振り下ろすと、そよそよと風が吹く。同時に部屋は魚の香りで満ちていく。
乾いたらひっくり返してまた風を送ってもらい、今度は別の魚をセットして〜と繰り返すこと十数回。
「もう終わりかにゃ?」
「うん、これで終わり。手伝ってくれてありがとう」
まだまだ元気でやる気いっぱいなにゃん太郎とは違い、ザルを支えて魚をセットするだけの私は軽く疲れていた。
軽い風とはいえ、この身体はまだまだ軽い。しゃがんだ状態で踏ん張っているのも地味に疲れるのだ。
乾燥棚、せめて干物網が欲しい。
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