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8.にゃん太郎の価値観

 だから早々に次にシフトする。


「じゃあ魔石の方は……。にゃん太郎、半分こしようよ」

「我が輩はいらにゃい。ロゼが使うといいにゃ」

「魔石をそのまま使わなくても、私が代わりに買い取りしてもらってきて、そのお金で何か買うのでもいいし」

「それもポーションと同じで、売り払うのは無理だと思うぞ」


 前向きに歩いていたつもりが、早速穴に落ちてしまった。人生とは難しいものだ。


「これもですか!? えー、水魔石は飲み水に使うとしても他のどうしよう」

「土魔石なら開拓に使えるぞ」

「ちなみに畑が設置できるまではあとどのくらいですか?」

「ロゼとにゃん太郎があと数日ダンジョンに潜るくらいだ」

「結構すぐですね」

「意欲的な信者が二人に増えたからな」


 そう答える神様の口角はほんの少しだけ上がっている。彼も開拓が解放されるのを心待ちにしているのだろう。


 畑が使えるようになれば、料理に使える素材も増える。今はまだトマトの種しかないが、トマトは偉大である。


 そのまま食べても美味しいし、魚と煮込んだり、今回はゲットできなかった肉と炒めたりしてもいい。旨みとレパートリーの幅が広がっていく。


「なら土魔石は開拓に使わせてもらうとして……。他のは使い方を模索しつつ、売ってもおかしくないくらい強くなるって感じですかね」


 いざとなったら、学園入学後に王都の総合ギルドに持ち込めばいい。

 総合ギルドと買い取り所の違いは、仕事の受注・発注ができる点。ただし依頼料は他のギルドよりも高く、報酬や買い取り価格は低くなる。


 信仰関係なく平等に、となると、仲介する団体に多めにお金が入る仕様になるのは仕方のないことだ。


 それに各ギルドごとに得意不得意があり、困った時に頼るのもまた総合ギルドだったりする。


 例えば土神ギルドで対処しきれないことを総合ギルドに依頼することで、水神ギルドに対処してもらえるなんてことも。そういう意味でも総合ギルドは重要な立ち位置にある。団体の運営が危うくなっては困るのだ。


 総合ギルドでもローブの子供が大きな魔石を持ち込めばやはり盗品を疑われるのだろうが、王立学園の制服を着ていれば話は別。


 入学後のことを考えると気が重いことの方が多いが、避けられないなら学生の立場も有効活用するまで。他にも換金が難しそうなアイテムが手に入ったら貯めておこう。


 持て余す心配はないが、すぐにお金が手に入ると期待していた分、少し落ち込む。


「じゃあ録画機能のある魔法道具を買うのはまだ先か……」

 肩を落とし、ぽつりと呟く。


「何か撮りたいものでもあるのか?」

「他人と揉めた時、撮っていた映像を証拠品として提示するんですよ。うちは信者数も少ないですし、これから先、にゃん太郎を誘拐しようとするよからぬ輩が現れないとも限りませんから。魔石とポーションを売ったら結構まとまった額になるかなって思ったんですけど、地道にお金を貯めるしかないですね」

「あれだけじゃ足りにゃいか?」


 にゃん太郎がボウルに視線を向ける。

 魚を調理する際に一旦避けたが、中には未だ鱗がギッシリと入っている。


「鱗のこと?」

「布も拾ってたにゃ」

「あれは全部にゃん太郎のだよ。ゴブリンの布は2枚使っちゃったけど、あとでちゃんと同じの取ってきて返すから安心して」


 バッグを開け、手つかずのままの中身を見せる。するとにゃん太郎が中に手を伸ばした。


「これ以外、ロゼが好きにするといいにゃ」


 唯一避けたのは、スライムの核。

 それも「これはゼリーにして食べるにゃ〜」と用途を指定しただけ。魚と同様にみんなで食べるものとしてカウントされているようだ。


「でもこれだけあればそこそこの額になると思うよ。そうしたら今朝食べた串焼きとか、他にも美味しい物が買えるようになるんだよ。どのくらいの額になるか不安だったらこれから一緒に買い取り所に行ってもいいし」

「でもロゼは我が輩が何も渡さにゃくても買ってきてくれたにゃ」

「それはたまたま手持ちがあったからで」

「ロゼに渡しておけば美味しいのが食べられるにゃ!」


 ご機嫌なにゃん太郎は「また同じのが食べたいにゃ」とリクエストをする。


 魔石を売る際にチラリと買い取り一覧を見てきたが、ゴブリンの布を一枚売れば串焼きくらい何本か買えてしまう。本当にささやかな願いだ。


「まぁ買ってくるけど……。変なもの買ってくるかもよ?」

「ロゼが買おうとしている物は、我が輩のためにゃ?」

「でもにゃん太郎単体なら揉めるまでもなく逃げれるだろうし、買っておきたいっていうのは私のわがままだから。にゃん太郎が頑張った分を私がもらっちゃうのは違うと思う」


 これはにゃん太郎の分だよ、と線引きをする。だがにゃん太郎は首を捻る。


「魔石はよくて、これはダメにゃのか? なんで我が輩のがダメにゃんだ?」


 我が輩のもやるにゃ! 魚と一緒にゃ! とペシペシと叩かれる。爪は立てずにもふもふハンドで軽く叩かれているため、全く痛みはない。可愛いだけ。


 だがやはりにゃん太郎がゲットしたアイテムはにゃん太郎のもの。

 魚を分けてもらってみんなで食べるのと、ゲットしたものを全てもらってしまうのでは訳が違う。どう伝えたものか悩んでしまう。


 うーんうーんと唸っていると、神様がなんてことないように告げる。


「にゃん太郎がいいと言っているならいいのではないか? それに畑が出来たら耕すのも作物を育てるのも料理するのもロゼになるのだ」

「そりゃあそうですよ」


 干物作りは手伝ってもらおうと思ってはいるものの、それはあくまでもにゃん太郎が風魔法を得意としているから。


 一緒に鍬を持って畑を耕してもらおうだとか、水やりを頼みたいだとかは思っていない。


「作物といえばにゃん太郎よ、初採取到達の報酬にガチャコインをやろう」

「あ、こっちはさっき預かってたコインね」


 魚を捕獲したことで条件をクリアしたのだろう。

 神様が差し出したのは、私の時と同じ2枚のガチャコインだった。そこに預かっていたコイン1枚を加える。


「ロゼにやるにゃ」

「え。いやいやいやいや、さすがにこれはもらえないって。今からガチャの景品確認に行こう? 欲しいのあるかもだし」

「にゃい。どれも食べられにゃいものばかりにゃ」


 即答である。どうやら景品はすでに確認した上で、不要だと判断したらしい。

 現在のガチャの中身は、調理器具や農具・野菜などの種・資材または素材。すぐに食べられるものはない。


「ロゼに渡せば、美味しい野菜が食べられるって言ってたにゃ」

「誰が?」


 聞くまでもないが、一応尋ねる。するとにゃん太郎は無言で神様を指した。


 どうやら昨日、私が帰った後に仲良く二人でお話をしていたようだ。

 神様とにゃん太郎からすれば、ガチャコインも他のドロップアイテムと一緒なのだろう。だがガチャコインの使い道は他にある。


「でもガチャコインを取っておけば、仮面の」

「嫌にゃ!」


 仮面の商人に遭遇しても客として迎え入れられると思う。

 そう言いたかったのだが、食い気味に否定されてしまった。


 にゃん太郎にとって彼はよほど怖い存在のようだ。毛が逆立っている。

 今後、仮面の商人を話題に出すのは避けよう。


 半ば押し付けられる形で3枚のガチャコインを受け取りながら、ひっそりと心に誓うのだった。






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