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7.一番危ない奴

「ふむ。なら我はそれがいい」

「我が輩もそれがいいにゃ」

「魚はにゃん太郎が獲ったものとロゼが釣ったものの両方を使ってくれ。それで供物を二人から捧げられたことになる」

「了解です。じゃあお昼はしゃぶしゃぶとゼリーにしましょうか。にゃん太郎はゼリーの代わりに、オレンジ切ったやつね」

「にゃっ」


 昼食のメニューも決まり、ささっと調理に入る。

 まずは早くも作り慣れてきたゼリーをささっと作る。神様の分は一番大きなボウルを使った。ラーメン丼くらいの量だ。


 冷ましている間に、バケツの中から私が釣った魚を取り出し、それと同じ見た目の魚を選んでいく。


 にゃん太郎が獲った方は大きなものばかりで、4匹もあれば十分だろう。鱗を剥がし、少し薄めにおろしていく。


 ただ、前世で魚を下ろす機会は数えるほどしかなかった。

 わざわざ自分でやらなくとも、スーパーにはカットされたものがいくらでも並んでいたからだ。私は魚より肉派で、生魚があまり得意ではないというのもある。


 数少ない経験も母の手伝いレベル。そんな明らかな経験不足がまな板の上に現れていた。


「なんかボロボロになってる……」

 落ち込んでいると、すかさず後ろから励ましの声が聞こえてくる。


「食べられるなら問題ない」

「ボロボロになった分は我が輩が食べるにゃ!」


 左右から私の手元を覗き込んだ二人は、あまり見た目には拘らないタイプのようだ。


 とはいえこれから魚料理が続きそうなことを考えると、早めに上達したいものである。


 今後の自分の成長に期待しようと決め、今回はささっと湯掻いていく。


 続けて食用菊っぽい何かも茹でて、軽く絞ってから魚と和える。ポン酢やスダチ、柚子あたりがあったら最高なのだが、どれも手元にないため、代わりに軽く塩を振る。


 他の山菜は炒め物にして、にゃん太郎の分のオレンジをカットしたら完成だ。テーブルに並べ、声をかける。


「できましたよ〜」

「いい香りがするにゃ」


 揃って席につき、食事を開始する。

 神様はゼリーを半分ほど食べたところで話を切り出した。


「それで、にゃん太郎目当ての輩というのは何だったのだ」

「我が輩を討伐にきた冒険者達にゃ。でももう我が輩は神獣ににゃった。命を狙われる心配はないにゃ」

「え」


 思わず絶句する。

 けれどにゃん太郎はなんてことなく言葉を続ける。


「さっきのみたいなのは我が輩の敵じゃにゃい。一番危ないのも、我が輩の首輪を見て帰っていったにゃ」

「その一番危ないのってどんな人だったか聞いていい?」


 先ほどの冒険者もそこそこの強さだとは思う。私が弱すぎて断定はできないが、それでもにゃん太郎が『危険』とまでいう相手には興味がある。


 いや、興味がなくとも、今後のためにも聞いておかなければならない。


 見かけたら速攻で神域に逃げ込まねば……。

 覚悟を決め、にゃん太郎の回答を待つ。だが帰ってきたのは意外な言葉だった。


「仮面をつけて、大きなバッグを背負っている。それから変な歌を歌ってるにゃ」

「歌?」


 ふんふんふんとリズムをとりながら歌い始めるにゃん太郎。


『貨幣に色の違いはあれど、ダンジョンコインは平等にゃ〜。種族も信仰も姿も問いにゃせぬ。一枚でもあればどうぞお立ち寄りくださいましにゃ。持たぬ者は指を咥えて、次はどうかお客様ににゃってください。あなたにピッタリのアイテムをご紹介いたしましょうにゃ』


 ところどころで猫の鳴き声が入っているものの、独特の歌詞には聞き覚えがある。正確には何度も繰り返し読んだ、とあるキャラの登場台詞。


「それってもしかして仮面の商人!?」

「ロゼの知り合いにゃ?」

「知り合いというか、私が一方的に知っているだけ。本当に存在したなんて……。それも同じフロアにいたなんて、全然気づかなかった」


 仮面の商人は、ランダムでダンジョン内に出没する謎の商人である。常に仮面を被り、巨大なリュックを背負っている。


 立ち絵を見る限りはかなり目立つビジュアルなのだが、この世界ではダンジョンに馴染む見た目になっているのだろう。


 でなければいかにも怪しい風貌の大男を見落とすはずがない。


 それにしても、まさかお助けキャラがそれほどの強さとは思わなかった。

 彼は常に珍しいアイテムとガチャコインを大量に持ち歩いているため、身を守るための強さを身に着けたのかもしれない。


 にゃん太郎に続き、登場した強キャラに悪役交代の打診をしたくなる。

 大量に持っているアイテムを駆使すれば、ヒロイン達相手だろうと簡単に負けることはないはず。見た目的にも悪役になれる素質は十分にある。


 もちろん、他人に悪役を擦り付けようだなんて思わない。

 ましてやにゃん太郎の心の平穏を壊してまで仮面の商人に接触しようという気もないのだが。


「もういないから、安心して魚が取れるにゃ」

 にゃん太郎は早々に魚を食べ終え、毛繕いをする。完全に安心しきっているようだ。


「今日の冒険者みたいな人たちが来ないとも限らないから、警戒はしないとだけどね。そうそう、これがお詫びにもらったポーションと魔石です」


 私は先ほど受け取った魔石を袋から出し、机の上に並べる。

 にゃん太郎はヒョイっと机に上がり、みんなでお詫びの品を確認する。


 真っ先に神様が目を付けたのは、派手な装飾の瓶だった。


「最上級のポーションではないか」

「アザを治すためにもらったんですけど、どのくらい凄いものなんですか?」

「負傷後すぐに使えば、重傷の怪我でも完治する」

「相当凄いやつじゃないですか!」


 RPGでいうところの、ハイポーションやエリクサーレベルに相当する。


 まさに最上級。初心者ダンジョンにうろついている子供相手にポンッと渡すような代物ではない。


 途端に机の上に鎮座したゴテゴテ瓶が恐ろしく見えてくる。


「少なくとも、そのくらいのアザに使うようなものではないな。昨日作ったあれを塗っておけば治る」


 あれとは髪染めのことだ。本来は回復薬として使うものだと、昨日も言っていた。


 帰宅前に肌に塗り、パッチテストをしようと思っていたからちょうどいい。

 回復具合と着色度合を確かめるためにも、左右の手首に塗って検証してみよう。


「この回復薬、売れば結構な額になりますか? 欲しい魔法道具があるんですけど」

「金額的なことは分からぬが、今のロゼがどこかに持ち込んだところで盗品と疑われるのは分かるぞ」

「ええ〜」


 価値を考えると、小学生がダイヤモンドの指輪を持って質屋に行くようなものか。

 疑う側の気持ちも理解できる。だからといって高額商品を置物化するのは勿体無さすぎる。


「目先の欲しいものより、いざという時のために取っておくのも手だと思うぞ」

「でも知らない人からもらった物を使うの怖くないですか? 消費期限も分からないし。売ったらあっちで鑑定かけて有効活用してくれて、私もお金が手に入ってウィンウィンだと思ったのになぁ」

「諦めろ。安全性に関しては我が保証する。まだ新しいもののようだから、あと数年は使える」


 未練タラタラな私の肩をポンっと叩く神様。

 彼のお墨付きであれば、使用期限や効果は間違いないのだろう。今のところ全く使い道がないだけで。


「まぁ売れないなら取っておくしかないですよね……」

 もったいないが、自分で苦労して手に入れたものでもない。初めからなかったものだと考えるしかない。



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