5.イカつい冒険者
ゴブリンの布を拾っていると、前方から冒険者達がやってきた。昨日の午後に見かけたイカつい集団だ。
昨日も何か探している様子だったが、お目当てのものは見つからなかったのだろう。
こちらに向かってズンズンと進んでくる。
そして私達の数歩前あたりで足を止めた。
「見つけた」
水場を探していたのだろうか。ここには珍しい魚でもいるのかもしれない。
にゃん太郎に声をかける。
「にゃん太郎、他の人来たから端に寄って〜」
「分かったにゃ」
「なっ! 喋っただと!?」
足元から聞こえた声に冒険者の一人が驚く。だが神域を出てからそんなリアクションには慣れっこだ。にゃん太郎と揃って彼らの横を通り過ぎようとする。
「待て」
だがすれ違いざまに腕を掴まれた。
「いきなりなんですか。痛いんですけど」
「どうやってその猫を手懐けた」
探していた相手はにゃん太郎だったようだ。男の仲間はにゃん太郎に向けて、双眼鏡のようなアイテムを向けている。
どうも穏やかではない空気が漂い始める。
人目のないところに来たのは失敗だったかもしれない。心の中で舌打ちをする。
「魔物鑑定スコープも機能しねえぞ。どうなってやがんだ」
「仲間になっただけですよ。ほら、首輪してるでしょ」
そっけなく答える私とは違い、にゃん太郎は自慢げだ。ふふんと鼻を鳴らしながら、首元を見せつけている。
「嘘だろ……。あの亡霊が誰かに懐くなんて」
「いい加減、手を離してもらっていいですか?」
「兄貴にビビらねぇなんて、なんてガキだ」
私だって相手が怖くないわけではない。
ただ前世の幼馴染が大柄だったため、少し耐性があるだけだ。それにここで弱気な姿勢を見せたらにゃん太郎が危ない。
威嚇はせず、けれども毅然とした態度を保つ。
すると兄貴と呼ばれた男も諦めたように手を離す。
「突然すまなかった。一つ聞きたいんだが、その猫はダンジョンの外、いや、神域に連れ込めるのか」
「神域には我が輩の寝床と爪研ぎもあるにゃ」
にゃん太郎は間髪入れずに答える。
男の眉間にはわずかに皺がよった。けれど機嫌を損ねたという風ではない。何かを考えあぐねているようだ。
「よければ神域に入るところを見せてもらってもいいか」
「は?」
何を言われたか分からず、ぽかんと口を開けたまま固まってしまう。
すると男は改めて要求を口にした。
「神域に入るところを見届けたら、俺らはもうその猫から手を引く」
「兄貴!」
「俺達の仕事は、ダンジョンに彷徨う亡霊の討伐だ。飼い猫に用はない」
相手の意図が分からない。何かの罠かもしれない。
どうしたものか。悩んでいると、にゃん太郎がふんっと鼻を鳴らした。
「勝手にするといいにゃ。ロゼ、帰るにゃ」
「あ、うん」
「なら俺達が先に行こう。どうせ行く先は一つだからな」
背中を取られている状態が続くのも怖いので、素直に相手の提案に乗ることにした。
ただしダンジョン内のマップを把握できていない私では、挟み撃ちにされてしまうかもしれない。
いざとなったらにゃん太郎だけでも……。
神域の入り口まで警戒を続けていたが、男達が何かをしてくることはなかった。ただただ私達の前に現れる魔物を倒しながら進んだだけ。
周りの冒険者達から遠巻きに見られており、あまり気持ちのよいものではない。だが何かあった際の証人になってくれるかもと前向きに捉えることにした。
「さぁ入れ」
「言われにゃくてもそうするにゃ」
にゃん太郎は馬鹿にしたように笑うと、スタスタと神域に入っていった。
「嘘だろ、本当に入れるなんて……」
「前に見た時は確かに弾かれていた。つまり、そういうことなんだろ」
「一度拒絶された存在が、ダンジョンに受け入れられるなんてことあり得るのか?」
「脅威になる可能性が残っているなら見逃すべきではねぇと思いますぜ」
冒険者達は仲間同士でしか伝わらない言葉を交わす。
少し揉めていたようだが、ボス格の男がギロリと睨む。すると一斉に口を噤んだ。
それでチームとしての方針は決まったようだ。
男は私に向けて深々と頭を下げた。
「怖がらせて悪かったな。よかったらコレ、使ってくれ」
「ポーション、ですか?」
「手首にアザが出来ちまってるだろ。咄嗟のことで力がセーブできなかった」
指摘されて、自分の手首を確認する。そこにはくっきりハッキリと手の跡が残っていた。しばらく残りそうだ。
ひとまず両手のバケツとボウルを地面に置き、やたら派手な瓶を受け取る。
「それからこれは疑った詫びだ」
続けて、後ろで控えていた角刈りの男が皮袋を差し出す。結構重い。中を確認すると、大きな魔石がゴロゴロと入っていた。属性もバラバラだ。これが本物の詫び石というやつか。
「ポーションだけでいいです」
「そう言ってくれるな。売ればそこそこの金になる」
私が今朝持ち込んだ魔石と比べても随分と大きい。AランクまでいかずともBランクにはなるのではないか。
少なくとも第一階層で取れるような代物ではない。
つまり彼らは普段からもっと高ランクの魔物が出没するようなところに出入りしている可能性が高い。
相手の素性が分からない以上、借りを作りたくはないが、下手に遠慮を続けるのも悪手だ。
「なら遠慮なく」
今も周りに他の冒険者がいることもあり、受け取ることにした。
瓶と革袋を鱗の上にポンと置く。冒険者の一人は眉を顰めていたが、こうしないと持ち帰れないのだから仕方ない。
いざとなったら売ればいい。
神様とにゃん太郎と相談してからにはなるが、手に入ったお金で録画機能のある魔法道具を買いたい。
私単独で動く時に便利なのはもちろん、にゃん太郎は目立つ。今回は案外簡単に引きさがってくれようとしているが、次回もそうとは限らない。
彼ら以外の冒険者がにゃん太郎目当てに絡んでくる可能性も十分にありうる。
共同で一台持っておいて損はないだろう。
「じゃ」
彼らに小さく会釈をしてから、私も神域に踏み出すのだった。
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