4.釣果
あとは魚がかかるのを待つだけだ。
一仕事終えて毛繕いをしていたにゃん太郎に話しかける。
「ねぇ、にゃん太郎。あそこの窪みってさ、何かありそうじゃない」
水場を挟んで向こう側。岩場に少し大きめの窪みがあった。
中には枯れ草のようなものが敷き詰められている。まるで動物が暮らしているかのよう。近くに行けばオレンジの皮や魚の骨が落ちているのではないか。
にゃん太郎が近くにいてくれているおかげで心に余裕がある私の中で、興味がもくもくと広がっていく。
「我が輩が寝てた場所にゃ」
「ああ、だから整えられてるんだ。あそこの草持って帰る? 使ってた寝床の方が安心できるでしょ」
旅行先でいつもと違う枕を使うと落ち着かない、みたいな。
私も新しい枕に買い替えた時は慣れるまで数日かかったものだ。
「寝床ならロゼがさっきくれたアレがあるからいらにゃい」
「フカフカ感とか高さとか好みもあるだろうし、遠慮しなくてもいいんだよ」
「いらにゃい」
「そう?」
「にゃ」
にゃん太郎はそっけなく答える。
爪とぎに夢中になっているように見えたが、私が作ったマットも気に入ってくれていたのだろうか。それともクッションがわりの草は収穫して何日目までのものしか使わないとか、にゃん太郎のマイルールがあるのかもしれない。
まぁ本人がいいというなら私もしつこく聞くことはしない。こんなことで嫌われたら悲しすぎる。
「にゃあ、我が輩も魚獲ってみてもいいかにゃ?」
「もちろん。私の竿から少し離れたところだと嬉しいな」
「わかったにゃ」
元気に返事して、対岸まで移動するにゃん太郎。小石を足場にヒョイヒョイっと移動する姿はまさに猫。軽快なステップが羨ましい。
だがにゃん太郎の凄さはそれだけではない。
スーパーボールを掬うかのごとく、水に手を突っ込んではひょいひょいと魚を陸にあげていく。
掬う際に爪が当たっているのか、はたまた陸に叩きつけられた衝撃か。にゃん太郎の横には倒された魚と鱗の山が出来上がっていく。なかなかにシュールな光景だ。
パッと見では数匹程度だと思っていた魚も、にゃんこアイにかかれば簡単に見つけ出せてしまうのだろう。遠目からでも、魚の山に何種類かの魚が混ざっているのが分かる。
すごいなぁと感心していると、私の釣り竿がググッと引かれた。魚がかかったらしい。
リールはないため、自分のパワーで引き上げるのみ。全身を使って少しずつ近づけていく。
「よおおいいっしょお」
数分の格闘の末、声を張り上げながら釣り上げた魚は思ったよりも小さかった。子供の両手を横に並べたらスッポリと隠せてしまうほど。
消費した体力を考えると割に合わない気がする。
まぁ私の体力が無さすぎると言ってしまえばそれまでなのだが。
針から外した魚をペシっと岩に軽く叩きつける。これだけで討伐完了。目がバツ印になった魚をブリキのバケツに入れる。
続けて第二投、第三投と繰り返す。
引っかかるのは小ぶりな魚ばかり。昼食用と考えるとやや心もとないが、小さくても1匹は1匹。それも釣り上げた魚は全て別の種類だったらしい。
三匹目を釣り上げると同時に、頭の中でピコンと鳴った。
『【デイリークエスト 自作の釣り竿で三種類の魚を釣ろう】を達成しました』
「やった」
小さくガッツポーズをして荷物をまとめる。
これで揃わなければ午後に出直さなければならないところだった。
もっとも昼休憩を挟んだところで、体力が回復するかというと微妙なところなのだが……。
無事、今日もデイリークエストが達成できそうだ。
上機嫌でにゃん太郎の元まで移動する。
「釣れたかにゃ?」
「うん、小さいのが一匹。にゃん太郎の方はすごいね」
「大漁にゃ!」
魚の山に手を乗せ、ドヤ顔のにゃん太郎。
三匹で苦戦していた私とは比べ物にならない。にゃん太郎のご飯問題は、本人の活躍で今後もどうにかなりそうだ。
「すごいね~。持ち帰るためにバケツに入れさせてもらうね」
一言断ってから魚をバケツに、鱗をボウルに入れていく。魚はかなりの量で、ボウルは手で持って帰ることになりそうだ。
「あ、コインもドロップしたんだね」
「魚にくっついてたにゃ」
「くっついてるってパターンもあるんだ。これも一旦私が預かっておくけど、神域に帰ったらちゃんと返すから」
「それより、魚はもっととったほうがいいかにゃ? ロゼ達の分、足りなかったらもっと取るにゃ!」
にゃん太郎はコインより魚らしい。
それも私達のことを思ってたくさん獲ってくれようとしている。小さな魚三匹ですでにヘロヘロの私とは大違いだ。優しさがまぶしすぎる。
「お昼どころか、明日まで大丈夫だよ」
「明日も!?」
「うん。さっき採れた山菜と一緒に煮込んだり、干物作ったりしよっか」
干物を作った経験はないが、漫画で作り方は履修済み。結構簡単に作れるらしい。
お昼を食べている間に食塩水に漬けてから風魔法で軽く乾かした後、小屋の外でザルに載せて干しておけばいいはず。
「それはいいアイデアにゃ!」
にゃん太郎も乗り気である。風を送るのは手伝ってもらおう。
「釣りと釣り竿作りの練習をしたいから、これからも何日かに一度、付き合ってくれると嬉しいな。オレンジも補充したいし」
そう言いながら、近くに生えた木を見上げる。
昨日の木も立派だったが、こちらもたわわに実っている。ハリもあって、美味しいオレンジに違いない。
「あれを取ったら、我が輩もさっきの食べられるかにゃ?」
「ゼリーのこと? でも猫って柑橘類だめじゃなかったっけ? あれ、ダメなのは犬の方だっけ?」
「我が輩は猫じゃなくてケットシーにゃ! 食べられるものも増えたって言われたにゃ」
「へぇ。進化ってそういうところも変わるんだ。でも心配だから、最初にオレンジの実の部分を少し食べて、問題なかったらゼリーにしていこう?」
「ロゼがそう言うならそうするにゃ」
「じゃあオレンジ取ってくるから、荷物見ててくれる?」
「にゃ!」
山菜ふろしきをバケツの横に置き、にゃん太郎に見張りを頼む。といっても周りに人や魔物の姿はないため、警戒する必要もないのだが。
シュルシュルと木に登り、やや小ぶりのオレンジをバッグに詰める。にゃん太郎をあまり待たせないよう、収穫が終わったらすぐに降りる。
「お待たせ。じゃあ帰ろうか」
山菜ふろしきを再びバッグに結んでから、位置を調節する。それからバケツを左手に、ボウルを右手に持つ。
「にゃっ!」
行きと同じく、にゃん太郎に先頭を頼む。
さすがに帰りはアイテムをバッグに入れている余裕はなく、バケツにポンポン入れていく。魚の匂いがつきそうだが、まぁ雑巾にでもすればいい。
持ち帰らないという選択肢は私の中にはなかった。
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