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3.にゃん太郎と初心者のオアシス

「神様、釣った魚入れる用にこのバケツ借りてもいいですか?」


 シンク下の棚からブリキのバケツを取り出す。

 昨日包丁を取り出す際に見つけたのだ。掃除用かとも思ったが、それはまた別に用意してあった。


 一応浄化魔法をかけてから、神様に質問する。


「ならこれも一緒に持っていくといい」


 神様がバケツに入れたのは大きめのボウル。バケツの口と大きさがぴったりで、カポッと綺麗にハマった。


 魔魚は釣り上げた後、キルするとアイテムがドロップする。光の粒子へと変わった後も、釣った直後と同じ状態に戻ることがほとんどだ。


 一方で、鱗だけコロンと落ちることもある。

 鱗は髪染め後に洗面台を掃除するために必要となる材料だ。ぬめっとしているらしいので、バッグに入れずに済むのありがたい。


「ありがとうございます」

「使わなくてもちゃんと持ち帰ってくるように」

「もちろん。借りたものはちゃんと洗ってから返します」


 そう告げてから黒のローブを羽織る。バッグを肩から提げ、右手にバケツを持ったらダンジョンに潜る準備は万端だ。


「にゃん太郎、そろそろ行こ〜」

 にゃん太郎の隣に立ち、声をかける。


 それまでガリガリと爪研ぎに夢中だったにゃん太郎だが、ハッとして手を止める。


「そうだったにゃ」

「魚釣りに行く前に、枝と布、それからお昼に食べられそうな草を何種類か確保してからでもいい?」

「食べられる草も枝も水場の近くにあるにゃ。案にゃいしてやる」

「ほんとに!? 助かるわ〜。じゃあ行ってきます」

「怪我がないよう、気をつけるのだぞ」

「はぁ〜い」

「にゃっ!」


 神様に挨拶をして小屋を出る。


 爪研ぎをしてスッキリしたのか、にゃん太郎はご機嫌だ。尻尾がゆっくりと揺れている。神域を出てからも変わらず。


「にゃっ! にゃっ!」

 目的地に向かう道中、にゃん太郎は現れる魔物達を次々にノックアウトしていく。第一階層の魔物とはいえ、まるで猫じゃらしで遊んでいるかのような軽快さだ。


 すれ違う冒険者達は揃って目を丸くしていた。


「また落ちたにゃっ! ロゼ!」

「今拾うね〜」


 大はしゃぎのにゃん太郎を前に、私の出る隙はない。

 完全にアイテム回収係である。食べ物を確保する前にバッグがかなり膨らんでいる。


 とはいえゴブリンの布はどのくらい釣り竿に使用するかは不明。多いに越したことはないのだろう。自分にそう言い聞かせ、グッグッと押し込んだ。


「この先にゃ!」


 ゴブリンが五匹同時に飛びかかってきてもお構いなし。

 私がちゃんと着いてきているかを確認しつつ、軽く右手を振り下ろすにゃん太郎。ゴゴゴゴゴと小さな竜巻が生まれ、ゴブリンの身体を引き裂いた。


 先ほどまでと違うのは、竜巻がわずかに電気を帯びている点だ。パチパチと小さく電気が弾けている。


 風と雷の合わせ技なんてゲームには登場しなかった。竜巻が通った後の道はやや窪んでおり、風魔法単体でもかなりの威力であると分かる。


 にゃん太郎を前にしたら、悪役令嬢どころかヒロインも攻略者も霞むのではないか。

 乙女ゲームシナリオ終盤の各ステータスを思い出しながら、遠くを見つめる。


「ロゼ、何してるにゃ?」

「ごめん。今行く〜」


 先に進んでいたにゃん太郎から声がかかる。

 若干焦げ臭い布を回収してから駆け足で追いかけた。



「ここにゃ!」

 にゃん太郎はドヤ顔でペシっと地面を叩く。


 案内してくれた採取地には、大量の植物が生えていた。神域で話していた通り、すぐ近くには水場がある。


 チラッと見たがイワナっぽい魚が数匹泳いでいた。オレンジの木まで生えているのは驚きだ。初心者のオアシスと言っても過言ではない。


 ここまでの好条件が揃っていながらも、私達の他に人の姿はない。

 しゃがんで昼食用の野草を物色しているが、誰かが採取したような形跡もなかった。


「えっと昨日の草は……あったあった。油花もある! ラッキー」

「これも食えるにゃ」


 にゃん太郎は菊によく似た黄色い花をペシペシ叩く。他にもこれとこれと〜と教えてくれた。


 アドバイスに従い、ザックザックとスコップを差し込んで採取していく。


「にゃん太郎、枝あったら拾ってくれる?」

「何に使うにゃ?」

「釣り竿作る時に使うんだ」

「分かったにゃ」


 にゃん太郎は採取中に復活したゴブリンを倒しつつ、枝を咥えて持ってきてくれる。働き者の猫さんだ。


 お昼もお腹いっぱいに食べさせてあげたい。


 教えてもらった植物をひと通り取り終えてから、額の汗を拭う。


 一番上の布は採取した植物をまとめるために使わせてもらった。軽く土を払ってから置いたのだが、すでに泥だらけになっていた。帰ったら水で洗ってから乾かそう。


「いいところだねぇ〜」

 植物をまとめた布を風呂敷のように包み、バッグのショルダー紐にくくりつける。


「ここにゃら弱い奴らはまず来ない。静かだから、我が輩もよくねぐらにしていたにゃ」

「私も一人だったら気づかなかっただろうなぁ〜」


 ここに到着するまでににゃん太郎が倒した魔物は15匹。

 スライムが9匹とゴブリンが6匹。他の冒険者が交戦していなければ、ゴブリンとオークがそれぞれ3匹ほど加わっていたことだろう。


 帰りはオーク肉も手に入るかな〜と少し期待している。


 それほどまでに快適かつ余裕な移動だったわけだが、今の私では一人で辿り着くのは不可能。


 1ヶ月ほど地道にレベリングしていけば突破できるのだろうが、横道を軽く進んだところの敵を倒せるなら次の階層に進む。初心者が多い第一階層に残る理由はない。


 だからこそ穴場であり、オアシスである。


 近くの岩に腰掛けて、にゃん太郎が拾ってきてくれた枝とゴブリンの布をギュッと包み込む。じんわりと手のひらが暖かくなり、気づけば手の中に釣り竿が発生していた。


「思ってたよりいい感じ!」

 木の枝は木製の竿に変わり、布の一部は釣り糸に変化している。釣り針もバッチリだ。ここでようやく餌がないことに気付いた。


 そもそも魔魚とは何を食べるのか。通常の魚が餌とするような小さな虫はダンジョン内に生息していない。かといって第一階層に虫系の魔物もいないわけで……。


 少し考えてはみたものの、答えは出てこない。

 ひとまず投げ入れてみることにした。


「そいやっ」


 岩場をめがけてひょいっと釣り竿を振る。

 ゆったりとした水の流れに乗って、魚がいる位置まで糸が移動していく。第一投としてはなかなかいいのではないだろうか。




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