2.紙が焦げた理由
「そういえば神様に聞きたいことがあるんですけど」
そう前置きをして、バッグに括り付けたお守り袋を回収する。そして机の真ん中に置く。
「これは……なんだ?」
「お守り袋です。昨日もらった紙を入れようと思ったら、紙が焦げてて」
お守り袋の中から例の紙を取り出す。軽く指で摘んだだけで、パリッと小さな音がした。今にも崩れてしまいそうだ。
「バッグの中は特に焦げた形跡はないんですけど、これって効果が切れたってことなんですか? それとも何か悪いことがある暗示とか?」
「ふむ……。昨日、この紙を手にした後、何かを強く願わなかったか?」
神様は少し思案してから、私に質問を返す。
質問の仕方から察するに、私の手元にある紙は『込められた力が使用された状態』という認識でいいのだろう。発動のトリガーとなったのは、私の強い願いか。
首を捻りながら、昨日の行動を振り返る。
「うーん、神様の食べられそうな食材が見つかりますようにくらいですかね〜」
「供物を探していただけでは一日で効力が消えたりせぬ。それ以外だ」
「そう言われても、普通に探索してただけで……あ!」
願いとは少し違うかもしれない。
だが一つだけ思い当たるものがあった。
「猫ちゃんが成仏しますように」
猫の亡霊、もとい、にゃん太郎にに煮干しを供えてそう祈った。
墓前に手を合わせるのと同じ。だから願うという感覚はなかった。
「なるほど。やはりにゃん太郎を神域に連れ込んだのはおぬしだったか」
「どういうことですか?」
「ロゼの願いが偶然にゃん太郎の願いと合致した結果、神の力が作用し、本来起こるはずもない事象が発生したということだ。我もまさかあの紙にそれほどの力が籠もっているとは思わなかったが、おぬしは猫が腹を空かせていないか気にしていたからな。その願いと食神たる我の力と相性がよかったのだろう」
「細かいところはよく分かんないんですけど、爪を悪用しようとする人と同じことをしちゃったってことですか?」
詳しい原理はよく分からないが、にゃん太郎が神域に入れたのは私の願いと神様の力が結びついた結果だということは分かった。
「本来あの紙にそこまでの力はない。引き出したのはおぬしの純粋な願いあってこそだ。それに我としても信者が増えるのは喜ばしいことだ。その紙にはもう力は残っておらぬが、灰になった後でどこかに入り込むと厄介だからな。後で埋めておくといい」
「了解です」
「我が輩も魚と肉が食べられて満足にゃ!」
改めて説明されても謎は謎のまま。
けれど前世でも神様の力なんて目に見えない、不思議なものだった。神様とにゃん太郎の迷惑にならないのならそれでいい。
なにより、こんな偶然がそう何度も起きるはずがない。
今回の一件はいろんな偶然が重なって起きたこと。仲間が増えてラッキーと素直に喜ぼう。
「早く次の獲物も取りに行くにゃ!」
「あ、その前に二人に渡したいものがあって」
「渡したいもの?」
朝食作りが先になってしまったが、渡したいものがあったのだ。バッグを漁り、中からいろんなものを取り出す。
「まずにゃん太郎には、ゴブリンの布で作ったマットと、外のお店で買ってきた爪研ぎとブラシ。柱とかにガリガリしないで、これ使ってね」
お手製マットを敷き、すぐ隣に爪とぎを設置する。にゃん太郎は早速爪とぎをガリガリと引っ掻き始めた。
「なかなか悪くないにゃ」
視線は爪研ぎに固定した状態で感想をくれる。爪研ぎにも合う合わないがあると聞いたことがある。何種類か試すことも覚悟していたが、一つ目で気に入ってくれて何よりである。
「トイレも売ってたんだけど、野良時代と生活が大きく変わっちゃうとストレスになるかもだし……。小屋の裏に穴掘った方がいいなら、今から一緒に場所を決めておきたいなって思ってるんだけど、どうかな?」
「それならロゼが使っている手洗い場の横に、にゃん太郎の分も作ったから問題ない」
爪研ぎに夢中なにゃん太郎に変わり、神様が答える。
「でも神域開拓はまだ使えないんじゃ」
「信者が生活するために最低限必要なものは神の権限で追加できる。ロゼにもクローゼットを出してやったのと同じだ。昨日の夜、早速使っておったぞ」
「なら問題なさそうですね」
最難関トイレ問題はあっさりクリアできた。
トイレトレーニングもする必要はなさそうだ。ホッと胸を撫で下ろす。
「ブラシは棚に置かせてもらうとして……。二人の分のお守り袋も作ってきたのでよければどうぞ」
バッグから取り出したお守り袋をスッと机に載せる。
「我らの袋もあるのか? 何やら不思議な模様が描かれているが……」
「前にいた世界の文字です。本来は神様の力を宿らせた木札とかを入れる袋なんですけど、好きなものや大切なものを入れるのに使ってください」
「入れる物はすぐには浮かばぬが、ありがたく受け取らせてもらおう」
神様はそう言って、青い布で作ったお守り袋を回収する。
まだ爪とぎ中のにゃん太郎のお守り袋は、ブラシと並べて棚に置いた。
「ではそろそろ今日のクエストを発表しよう」
ピコンッと音が鳴ってから、続けてクエスト内容が流れてくる。
【デイリークエスト 自作の釣り竿で三種類の魚を釣ろう】
【デイリークエスト 釣った魚を調理しよう】
今日のデイリークエストは、にゃん太郎の食事問題を解決するために用意されたかのようだ。連続して達成できるところもありがたい。だが1つ目がクリアできなければ共倒れするリスクもある。
「釣り竿って作れるんですか? いや、作れたとしても私、まだ水場に近づけませんよ?」
「ロゼ一人なら難しくとも、にゃん太郎が同行するなら問題あるまい」
「にゃん太郎と連携したクエストになってるってことですね」
「うむ。釣り竿は棒状のものと糸さえあれば作れる。糸は布でも代用可能だ。こちらは使う分だけ消費する。水場に向かう途中でその辺に落ちている枝を数本拾い、そのついでにゴブリンを倒して布を1枚回収すれば十分だろう」
釣り竿の作り方は、使う材料を手に持ち、両手で包み込むようにグッと握る。その際、作りたいものをイメージすると、生産スキルが発動するとのこと。何とも便利である。
「ただし生産スキルを使って作った物は、何度か使うと壊れて消滅するから注意するように。作る度に生産スキルが上がり、壊れにくいものを作れるようになる」
「壊れても気にせず、じゃんじゃん使ってじゃんじゃん作るのがいいってことですね」
「そういうことだ。ロゼが欲しがっていた採掘用ハンマーも作れるが、衝撃を加える道具の場合、対象物の固さや振りかぶる速度によっては途中で消滅する。怪我にも繋がるから注意するように」
「生産スキルで作った道具、危なすぎません!?」
勢いよく振って頭からダイブする自分が簡単に想像できた。怖い。怖すぎる。素直にガチャから排出されるのを待とうと心に決める。
だが釣り竿は今日作って使うしかない。
材料を多めに確保して、毎回新しい釣り竿を作った方がいいのだろうか。枝を集めるのが手間ではあるが、安全面の確保こそが最重要だ。
腕を組み、うーむと考え込む。
「安心しろ。あくまでも先ほどの話はハンマーや斧を使った時の話だ。釣り竿の場合、壊れるのは引き上げた時のみ。獲物がかかった時は、外した後に消滅する。初心者にも優しいアイテムだ」
「それなら安心ですね」
生産スキルを上げるためにも、にゃん太郎と神様のご飯のためにも、頑張って釣っていこう。
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