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20.神獣にゃん太郎

【名づけを行ってください】

 私の時は自動で名前や年齢が登録されていたが、動物となると事情が異なるようだ。


「猫ちゃん、お名前は?」


 勝手に名前をつけるより本人に尋ねたほうがいい。軽く腕を揺らし、問いかける。


 幸い、私には鳴き声にしか聞こえずとも神様には伝わる。

 だから遠慮なくお名前でも希望でも伝えてほしい。そんな思いだったのだが、神様はクールに否定する。


「そやつに名前はない」

「じゃあ希望とか」

「おぬしが付けるのだ」

「いきなり言われても……。私、ネーミングセンスないから神様がつけてくださいよ。猫ちゃんもこういう名前がいい〜とか希望や憧れみたいなものない?」

「にゃにゃっ」

「お主に任せるとのことだ」


 猫は神様の言葉を肯定するように、ペシペシと私の手を叩く。


 会ったばかりの人間のセンスをここまで信頼するのはいかがなものだろうか。

 とはいえ、任されるのも悪い気はしない。


 ひとまず頭にパッと浮かんだ名前を口にする。


「にゃん太郎なんてどうかな?」


 我ながら安直な名前だ。可愛いし、呼びやすくもある。

 だがセンスある名前かと聞かれれば、前世の家族が全力で否定する姿が想像できてしまう。


 まぁ断られたら2個目3個目の案を上げつつ、軌道修正していけばいい。ネーミングセンスがない自覚がある分、拒否されてもダメージは少ないのだ。


 変な方向に前向きな私だったが、当の本人は気に入ったようだ。可愛らしい表情で私を見上げた。


「にゃにゃっ!」


 猫ちゃん改めにゃん太郎の返事により、水晶にも名前が登録される。


【個体名:にゃん太郎の登録を確認しました】

【個体名:にゃん太郎はくぇrちゅいおp@xfhcヴおいおから神獣ケットシーに進化しました】


「今、なんか変な音声入りませんでした?」

「気にするな。そやつは問題なく我が信者、いや我が神獣と進化しておる」

「気になりますって」

「信者と違うのかにゃ?」

「にゃん太郎がしゃべった!?」


 この場に新たに加わった声は、私の腕の中から聞こえてくる。文字化けした文章をそのまま読み上げたようなアナウンスといい、ツッコミどころが多すぎる。


 どれから脳内処理していけばいいのやら……。

 混乱している私の腕の中で、にゃん太郎がモゾモゾと動く。


「あ、いつまでも抱っこしててごめんね。登録は終わったからもう降りて大丈夫だよ」


 その場にしゃがみ、にゃん太郎を床に下ろす。にゃん太郎はクルクルとその場を回る。どうやら自分の姿を確認しているようだ。


 けれど気になる点は解消されなかったようで、私を見上げて小首を傾げる。


「にゃにも変わっていないと思うが……にゃんかおかしいか?」


 その声はやはりにゃん太郎の口から発せられていた。

 前世の漫画やアニメで喋る猫のキャラクターを何匹も見てきた。


 町で『喋る猫のキャラクターといえば』と街頭インタビューを行えば、性別年代別ランキングが作れるほどのド定番である。


 だが私の目の前のお猫様は、つい先ほどまでにゃーにゃー鳴いていたのだ。

 神様には言葉が理解できていたようだが、人間には理解できないものであった。


「見た目は何も変わってないけど、言葉が……。あ、もしかして信者間テレパシー的なやつ?」


 仲間同士なら遠く離れていても念話を飛ばせるなんて、これまた漫画やアニメでよくある設定である。だが私の考えを神様がアッサリ否定する。


「神獣に進化した際にスキル『共通言語』を習得したのだろう。信者登録をする前に一定以上のレベルを有していると、登録時に新たなスキルが発現することがあるのだ。にゃん太郎よ、神獣も信者も呼び方が異なるだけだ。その証拠に我との繋がりの証である『信者の証』が出てきたであろう。これはおぬしだけのものだ」

「我が輩だけの……」


 神様が水晶の中からひょいっと取り出したのは、どこからどう見ても猫の首輪だった。私の信者の証とは違う。


 素材も金属ではなく布製だ。複数のチャームを付ける輪はなく、真ん中に1つだけ魚のチャームが通してある。


 信者と神獣で信者の証が異なるようだ。

 私の腕にあるブレスレットでは、にゃん太郎の毛が引っかかってしまう。その辺りを配慮した結果なのだろう。


「ロゼ、これをにゃん太郎の首に付けてやれ」

「あ、はい。にゃん太郎、少しくすぐったいかもしれないけどちょ〜っとだけ我慢してね」

「にゃっ」


 にゃん太郎はその場にお座りをし、首をクイッと上げた。さすが人語を話せる猫。話が早い。


 まずにゃん太郎の首に信者の証を合わせ、大体の長さを確認する。ザックリと調整したら、再びにゃん太郎の首に合わせる。指2本分くらいの隙間ができるように微調整をしてから、バックルを嵌める。


 装着の方法も猫の首輪と全く同じであった。


「きつくない?」

「きつくにゃい」

「よかった。ところで、スキル『共通言語』ってどんなスキルなんですか?」

「保有者の言語はいかなる言語にも変換され、いかなる言語も保有者の耳には保有者の使用言語に変換される」


 つまりにゃん太郎が人間の言葉を話せるようになったわけではなく、スキル『共通言語』のおかげでにゃん太郎の言葉が私にも理解できるようになったということか。


 猫語から人語への変換も便利だが、他国の言葉も自動変換されるのは便利だ。

 前世で英語の聞き取りに散々苦労した身としては、ざっくりとした説明でもありがたみが理解できる。


「それって私にも取得できますか?」

「テイムのスキルレベルを最大まで上げることで習得できるようになる」

「なるほど、諦めろってことですね」


 スキルレベルをカンストできるのは、その道に人生を捧げた人達の中でも一握りだけ。


 共通言語欲しさにテイムスキルを極める気はない。

 そもそも私は何体もの魔物を世話する甲斐性など持ち合わせていない。秒で諦めがついた。


「努力をする前から諦めるのは感心しない。おぬしはまだ身体もステータスも成長過程なのだから、どのような道も残っていて」

「私は神様とにゃん太郎のお世話をしなきゃいけないので、魔物のお世話なんて無理です!」


 私のための言葉だとは理解しつつ、身体の前で大きなバッテンを作る。


 テイム関連のデイリークエストが出されても困るのだ。

 ここは拒否の姿勢を貫く構えである。神様は納得できないと言いたげな様子でこちらをじっと見つめる。


 こういう時はさっさと話を変えてしまうに限る。

 門限まであまり余裕もないこともあり、わざとらしくパチンと手を合わせる。


「お世話といえば、そろそろ夕飯作り始めないと。今回もいろいろ取ってきたので、食べられるか見てください。にゃん太郎もおいで〜」


 ドアを開け、さぁさぁと2人を先程の部屋へと誘導する。そして机の上に今回の戦利品をズラリと並べた。


 メインはやはりオレンジだ。ポンポンと5個横並びに置いていく。


 にゃん太郎はそれらをざっと見て、不満げに言葉を漏らした。


「魚はないのかにゃ?」

「さっき渡したのと同じのならあるよ。今度は軽く焼いてみる?」

「にゃっ!」


 元気に返事をするにゃん太郎。

 ひとまず彼の食事はこれで大丈夫そうだ。


 とはいえ干し魚の手持ちはさほど多くない。

 明日以降、にゃん太郎の食事をどうするか考えておかねば……。



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