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16.ありがたいお小遣い

「髪だが……その、家族は何も言わなかったのか?」

「両親は驚いて、兄はノーコメントでした。大丈夫ですよ。今度はちゃんと事前に色味確認とパッチテストは行うので!」


 神様が聞きたいのはそういうことではない。分かっている。

 だが黒髪を見て表情も態度も変えなかった彼に説明しても、余計な心配をかけるだけ。


 髪染めを止められても困る。

 グッと親指を立て、健康上問題のあることはしないと強調する。


「パッチテストが何かは分からぬが、この2つを使うなら危ないことにはならんだろう。髪を染める時は奥の洗面台を使うといい」

「いや、桶買って自宅でやりますよ。色付いちゃうなら流す場所も選ばないとですし」

「掃除してくれればいい」


 神様曰く、付着してすぐに洗えば落ちるとのこと。

 色が付いてしまった後も、りんりん草のエキスと魔魚の鱗を煮込んで、布に染みこませてからまる1日放置しておくと綺麗に落ちるらしい。


 頑固な汚れにはラップパックが効くのと同じ。

 数年単位の色つきまで落ちるというのだから驚きだ。


「どっちもダンジョンで採れますか?」

「採れるが、いくつか階段を下りなければならんからな。急がなくてもよいぞ。先に髪を染めて、後日しっかり磨いてくれ。代わりにりんりん草を採取する時は実も持ち帰るように」

「美味しいんですか?」

「美味い」

「なら多めに持ち帰らないとですね。それで残った油花とこの葉っぱなんですけど、油花の上の部分って食べられるんですか?」

「炒め物や揚げ物にして食われることが多いな」

「ならこっちの葉っぱと一緒に炒めちゃいますね」


 2種類の草を食べやすい大きさにカットし、油花の実から出た油でじゅじゅっと軽く炒める。


 自分用は試食ほどしか確保していないが、それでも神様の分はさほど多くはない。小皿に少し多めに盛り付けられるくらい。そこにスライムゼリーも付けた。


 さすがに同じゼリーばかりで飽きるだろうと思ったのだが、調理中、神様がスライムの核を差し出すように立っていたのだ。


 言わずもがな、私が先ほど戦利品として披露したスライムの核だ。

 机の上に置いたままにしていた物を持ってきたのだろう。


『これも食える』

 そんな、無言の圧力を感じた。


「できましたよ~」

 一足先に席についていた神様の前に、炒め物とスライムゼリーを並べる。


 それから2人分のカップ。神様のカップには水を入れてあるが、一応水差しも用意した。


 私が自分の食事を用意し終えるまで、神様はフォークを手に待っていてくれた。私が自分のカップに水筒の紅茶を注ぎ終えると、ようやく炒め物に手を伸ばした。


 私も最初は炒め物から。


「うーん、やっぱり塩でもないと味気ないですね」


 決してマズいわけではない。だが素材本来の味というか、葉っぱ炒めて食べただけ感が強い。ネギやキャベツを炒めた時に感じる甘味もない。


 メイン食材の付け合わせにすればまた感想は変わってくるのかもしれないが、調味料は必須だ。せめて塩が欲しい。


「塩なら第1階層でも採れるぞ」

「え、そうなんですか?」

「その辺に転がっている鉱物岩を叩けば採れる」

「鉱物岩? なんか一攫千金が狙えそうな名前ですね」


 言われてみると、フロアの端には「アイテムです!」と主張しているかのような岩がいくつかあった。岩というか大きめの石というか。大きさはりんごサイズから私の膝の高さほどある物まで様々。表面のゴツゴツとした部分に付いた色も何色かあった。


 どんな物か知っていると、途端に見送ってしまったのが惜しく思えてくる。

 昼食後も残っているだろうか……。ソワソワしてしまう。けれど人生はそんなに甘くなかった。


「基本、あれは塩が欲しい時に叩く岩だ。金儲けにはならん。金を稼ぎたければ地道に頑張るのが一番だ」


 神様の見た目からは想像できぬほど、超現実的な言葉が浴びせられる。そこまでガツガツしていたつもりはなかったが、冷静に否定されると少し恥ずかしい。


 それに塩だって今の私にとっては喉から手が出るほど欲しいアイテムだ。

 ダンジョン内でゲットできるのなら、金銭面でも神様のお腹を守る意味でもありがたい。


「なるほど。それってスコップでもいけます?」

「できなくはないが、何度も叩いて採れるかどうかといったところだ。素直に採掘用ハンマーを手に入れた方がいい」

「採掘用ハンマーか……。わざわざ塩だけのために買うかは悩むなぁ」

「ガチャから出るぞ」

「開拓用アイテムって絶対レアリティ高いやつじゃないですか……」


 探索活動をしている信者はおそらく私一人。

 ガチャの中身もほとんど減っているようには見えなかった。満タンの可能性さえある。その中から特定の1つを引き当てるのはなかなかに大変だ。


 ガチャコインはなかなかドロップしないことも加えると、あまりに遠い道のりに思える。


 やはり塩は市場で買うべきか。

 味気のない草炒めを噛み締めていると、神様がフォークを置いた。


 そしてゴソゴソとポケットを漁り始める。

 ポケットから取り出したのは、2枚のガチャコイン。人差し指と中指で押さえたコインを私の前にスライドさせた。


「ひとまずこれで回してくるといい」

「そんな孫へのお小遣い感覚で渡されても」

「初採取達成の報酬だ」

「そんなのあるんですか?」

「うむ。他にも特定の条件を満たすと何らかの報酬がもらえることがあるぞ」

「なんか、すごいふわっとしてますね」


 新規スキルを習得する際の行動と若干被っている。もしやあれも達成報酬の一種なのだろうか。


 ゲーム内ではクエストといえばデイリークエストだったため、少し困惑する。


「いらなかったか?」

 揶揄うようにコインに2本の指を伸ばす神様。そのまま引っ込める気だ。

 私は口元に残った物を飲み込み、慌ててコインを回収する。


「いりますいります! ありがたく受け取らせていただきます」

「素直なのが一番だ」


 心なしか満足気な神様。

 なんだか反応を楽しまれているような気もするが、自分が子供の頃、お年玉をもらう時もこうだった気がする。随分と長いこと忘れていた感覚だ。


 初めて手に入ったガチャコインをポケットに仕舞い込み、残りのご飯も食べてしまう。2人分の洗い物を済ませた後、奥に続くドアノブを握る。


「ああ〜緊張するなぁ」

 昨日の入信試験もステータス確認もほとんど緊張はなかった。

 結果はへっぽこステータスだったが、喜んでも悔しがっても結果は揺るがないと分かっていたから。


 だが今回は完全に運頼み。


 緊張でなかなかドアを開けようとしない私の手に、神様の手が重なった。そして代わりにガチャリとノブを回す。


「あ!」

「ハンマー以外にも揃えるべき物はたくさんある。どれが出てもきっとおぬしの力になるだろう。だからさっさと引いてこい」

「いいこと言われてるはずなのに、なんか投げやり感も感じるんですけど……。まぁ確かに緊張してても仕方ないか。サクッと引いてサクッと次行こ。髪染めも作らなきゃだし、夜ご飯の材料だって確保しないとだし」


 午後もやるべきことは多い。


 まず髪染め作り。

 ダンジョンに潜ったら、先ほどは初心者講座のメンバーがいた場所も見ておきたい。


 チラッと見ただけだが、私が見ていた場所とは生えている植物が少し違った。そこを探せば食べられる植物が見つかるかもしれない。


 他にも油花は追加で欲しい。名前が分からない草も特別美味しいわけではないが、貴重な食料源。多めに確保しておきたい。


 塩もスコップでどれほど採れるのかを確認しておきたい。

 2人で食べるだけなら大量に使うわけでもない。少し取れれば十分なのだ。場合によってはハンマーを早く手に入れる必要もない。


 そう考えると、神様の言う通り、あまり焦る必要はなかった。

 午後の採取リストを頭で組み立てながら、採取ルートを確認する。



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