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17.初めてのガチャとラスト特典

「夜の分まで気を使わなくともよいのだぞ?」

「今はそう思っていても、夜になったら食べたくなるかもしれませんから。一応作っていきます。いらなかったら明日私が食べるので、そのまま置いといてください」


 ラップは見当たらないが、上からボウルを被せておけばいい。ゼリーの表面が多少乾燥しそうだが、まぁ1日くらいどうということはない。


 いっそ乾燥具合を見て、今後琥珀糖を作ってみるのもいいかもしれない。砂糖はないから食感を楽しむだけになるが……。


 色々と構想を膨らませていると、神様がムッとした声を上げた。


「我は捧げられた供物は返さぬ」

「でも明日食べることになるなら、新しいのを食べてほしいです。作って帰るのも、神様お腹空かせてないかな〜って私が心配したくないだけというか……」


 私が知っているのは乙女ゲームで語られたことだけ。

 祭壇の正しい使い方を知らなかったように、神様やお供物に関わる規則はまだまだ知らないことも多い。とはいえ抜け穴もあるはず。


「お供物は絶対食べなきゃいけないってルールがあっても、供えてなければセーフなんですよね? 調理台に置いておいたのを神様が食べるだけとか」

「我は気を使わなくてよいと言っただけだ。供物として捧げられれば明日まで残らん。それに供物以外を我が食べることはない」

「またスライムゼリーがメインでも?」


 私の質問に神様は力強く頷いた。

 神様なりに気を使ってくれただけで、ご飯自体はウェルカムという認識でいいのだろう。


「なら作っていきます」


 話していたら、ガチャへの緊張なんてなくなっていた。

 ガチャの前までスタスタと進む。するとガチャの隣には説明看板が立っていた。


 昨日、ステータス確認後にチラッと覗いた際はなかったものだ。わざわざ用意してくれたのだろう。



 ・投入口にコインを入れてハンドルを回すこと

 ・最大100枚まで同時投入可能

 ・入れる枚数が多ければ多いほどレアリティの高いアイテムが排出されるが、1度回すごとに出てくるアイテムは1個のみ


 箇条書きで書かれた説明の下に、中身の説明が大きく書かれている。


 ★3 調理器具や農具

 ★2 野菜などの種

 ★1 資材または素材

 ラスト特典 家畜カタログ



「家畜カタログってなんだろう……」


 ゲームで登場したガチャと多少中身が異なるようだ。

 資材と素材が別々に書かれているのも気になるが、一番気になるのはラスト特典の『家畜カタログ』だ。


 カタログだけポンッと渡されるのか、リストにある家畜の中から好きな家畜を神域で飼えるようになるのかによってありがたみがかなり変わってくる。あとで神様に聞いてみよう。


 投入口にコインを1枚入れ、子供の手にはやや大きいハンドルをぐるりと回した。


 下の取り出し口には黒いカプセルが出てきた。セロハンテープなどはなく、軽く押しながら左右に開く。


 するとカプセルの中には小さな封筒が、そして私の目の前には文字が書かれたウィンドウが表示される。


【☆2 トマトの種】


 望んだものとは違ったが、初めてのガチャで☆2は幸先がいい。

 2枚目のコインを投入し、ガチャを回す。出てきたカプセルをパカッと開いた。


【☆2 トマトの種】


 まさかのダブり。遠回しにトマトが食べたいから育てろと言われているのだろうか。


 私もトマトは好きだ。プチトマト育成歴は地味に長い。社会人歴とほぼイコールだ。


 そう考えると、初めてのガチャアイテムとしてこれほどふさわしいものはないように思えてくる。


 ただしトマトの種を手にしただけでは、神域でトマトを育てることはできない。先に神域開拓で【畑】を設置する必要があるのだ。


 神域開拓を行うためには相応の神レベルが必要になってくる。大きな建造物を配置したり、小さくても数が多かったりすると、必要な神レベルは上がっていく。


 火神と水神の神域に大きな屋敷や神殿が設置されているのは、自分達が信仰する神の格が高いことを示す意味合いもあるのだとか。自然を大事にする信者が多い風神の神域にも、ツリーハウスのような建造物がいくつも配置されているのはそのためである。



「神様〜」

 種を片手に神様の元に戻る。


「いいのは出たか?」

「トマトの種が当たったんですけど、畑ってもう作れます?」

「まだ無理だ。レベル3になると、1つ設置できるようになるぞ」

「1つだけですか?」


 つい不満の声が漏れてしまう。他の神達のレベルを知っていると、レベル3はまだまだ駆け出しなのは分かる。信者が増えればレベルも上がるため、普通ならレベル3なんてサクッとクリアできることも。


 ただし信者が増える期待はできない上、私以外の信者の活躍が見込めないとなると、畑の設置までも時間がかかってしまいそうだ。


「1つだけと言っても、一度に3種類まで育てられるぞ。それに我が神域は他の神域よりも作物の成長が早い」

「他って言っても畑設置できるのって、ここと土神だけですよね?」


 土神の神域には畑が設置されていない。

 土神信者は農家が多いため、わざわざ神域の中でも作物を育てようとは思わなかったのだろう。


 マルシェに並ぶ品々も全て彼らが神域の外で作ったもの。

 そこと比べられても、ありがたみが分からない。


「畑はそうだが、花壇ならどの神域でも配置できる。といっても育てられる作物の種類は限定される上、土壌を育てることはできぬがな」

「へぇ。花壇って花以外も植えられるんですね」


 ゲーム内で神域に【花壇】を設置すると、すでに花が咲いた花壇がポンッと出てきた。花の種類や色は変更できたが、植えられているのは必ず花であった。だからてっきり花限定だと思い込んでいたのだ。


 花壇なら畑よりも必要レベルは低いはず。

 最初はプランター菜園感覚で育てていくのもアリだ。むしろ一人ならその方が楽でいい。種から育てるなら外で買っても安く済むだろうし……。


「トマトを育てられるのは畑だけだ。念のために言っておくが、ダンジョンの外から種や苗を持ち込んでも神域内で育てることはできぬ」


 私の心を読んだかのように、ズバッと一刀両断された。顔に出ていたのだろうか。両手で自分の頬をこねる。


「変な顔をしても条件は変わらぬぞ。地道に頑張るがいい」

「了解です。畑が設置できるようになったら教えてください。ところでもう一つ聞きたいことがあるんですけど、ガチャのラスト特典に書かれていた『家畜カタログ』ってなんですか?」

「家畜カタログは家畜カタログだ。排出される際、説明書が添えられているからそれをよく読むように」


 畑と花壇の違いは教えてくれたのに、こちらは現状教えてくれるつもりはないようだ。


 ガチャを空っぽにした時の楽しみを、この場で話してしまってはつまらないからかもしれない。ならば私もしつこく尋ねることはせず、今後のお楽しみとして取っておくことにしよう。



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