97 聖女の魔力と竜の卵 2
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「アイシラが消えた場所は、ここか」
ただ打ち捨てられただけの廃墟に見える。けれど、私たちにはわかる。残された竜の気配。そして、聖女の魔力の優しい痕跡。
「キュウウウッ!」
「……え?」
突然聞こえてきた、竜の鳴き声。それも聞き慣れた。それは、アレス殿下の背中から。
「クロ?」
「ああ、ついて来てしまったようだね」
「え……、どうやって」
アレス殿下と、私に気がつかれずに、ついてくるなんて、さすがは竜とでも言えばいいのだろうか。
そんな私の疑問なんて、気にもしていないクロは、キュゥキュゥと悲しげに鳴きながら、建物の中に飛び込んでしまう。
「あっ」
「……俺たちも行こう」
もう少し、周囲を警戒してからという計画も、もはや崩れてしまった。
私たちは、時々崩れた壁、散らばる破片に注意しながら、進んでいく。
「……クロ?」
剥き出しの魔法陣が、そこにはあった。
アイシラの魔力の痕跡は、ここで途絶えている。
おそらく、発動するまでは、巧妙に隠されていたのだろう。
「ふぅ。ここか……。ねえ、ルル」
「はい、アレス殿下」
「魔法陣の先で、俺が目を覚ますまで、怪我をしたりしないと、約束してくれる?」
「え? それはどういうことですか」
「約束してくれるなら、アイシラを助けられるだろう。でも、俺にとっては、ルルの安全が最優先だから」
どちらかと言うと、私が食いついたのは、そこではない。アレス殿下が、目を覚ますまで、と言う部分だ。
おそらく、アレス殿下は、魔法陣を起動しようとしている。アレス殿下がそう言うからには、発動した後の、ただの床に描かれた図案でしかない魔法陣を稼働させることは出来るのだろう。
「あ、アレス殿下は」
「ルル、選んで。ごめん、俺は、冷たい人間だ。ルル以外は、どうなっても構わない」
見えない秤が、アレス殿下の負担と、大切な友人を左右に乗せてゆらゆら揺れる。
「……嘘をついても、転移先で俺が意識を失ったら、分かってしまうことだから。でも、困ったことにルルが悩んでくれて嬉しい」
困った、と言いながら、微笑むアレス殿下。その顔には、すでに覚悟が滲み出ているみたいだ。
「アレス殿下に、何かがあったら私はっ」
「……ごめん、選ばせようなんて、狡いな。つい、ルルが大事にしているもの全てに、嫉妬してしまう自分が嫌だ」
アレス殿下は、答えを聞かないまま、私の手を強く引いて、魔法陣の中心に歩み出た。私の肩に乗ったクロ。手を引かれる私。
狡いのは、答えられない私。
「そんな顔しないで。ルルの大事なもの全てひっくるめて、守ろうと決めているのに、少しだけ揺らいだ俺が悪い。愛しているよ、ルル」
止めようとした瞬間、美しい魔力の渦に巻き込まれ、それは、作動してしまったのだった。
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