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【電子書籍化】悪役令嬢(!?)の鑑なんてごめんです! だから殿下、ついて来ちゃダメです。  作者: 氷雨そら
破滅なんてゆるしません。だから殿下、一緒に抗ってください。

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90/105

90 帰る場所になって欲しいから。



 その場を、なんとも言えない沈黙が支配した。

 巨大蜘蛛に捕食されつつあるレイチェル様。そうにしか見えない。


「闇の精霊様。レイチェルを解いて頂けますか?」


「良いぞ。俺の活躍を褒め称えても良いんだぞ?」


 まるで、ボールをとってきた時の、大型犬みたいに自慢げな表情。そして、獲物はレイチェル様だ。


「ああ、さすが闇の精霊様ですね? 感謝してもしきれない……」


「裏切り者っ。願いを叶えてくれるって、仰いましたのにっ!」


 黒い蜘蛛の糸でがんじがらめ、そして涙目のまま、床に転がるレイチェル様が、フェイに向かって抗議する。


 レイチェル様の目の前に、伏せるとフェイは「俺は心からの願いしか、叶えない」と囁いた。


 そして、縛を解かれたレイチェル様から、フェイが静かに離れていく。代わりに、リベラ殿下がレイチェル様のそばに跪いた。


 王都の屋敷がなくなってしまったレイチェル様は、私のドレスを着ている。いつもの胸元が大きく開いたドレスとは、対照的に今日のドレスは、首元までレースで覆われていた。


 サイズが合わないのは、胸だけのようだ。

 私は、その事実から目を逸らす。


「レイチェル、今日のドレスは、いつもと趣が違うね?」


 レイチェル様を抱き起こしたリベラ殿下が、その首元へと手を伸ばす。


「リベラ殿下……っ、離してくださいませ」


「嫌だ」


 ビッと音がして、レイチェル様の首元のレースが破られた。

 その途端、眩しいほどの白磁の肌と、あまりに対照的な黒い傷跡が曝け出される。


「……レイチェル」


 羞恥のせいか、首元まで赤く染まっていくその素肌に、黙ったままリベラ殿下が指先をそっと滑らせた。


「……臣下として、当然のことをしたまでですわ。それに、シュルツ侯爵家は、王家に逆らった訳ですから、私はもう……貴方様とは」


「そうだね。……シュルツ侯爵家令嬢とは、婚約を破棄する」


 ――――婚約破棄?


 私は、あまりのことに、口の中の水分が全部なくなってしまったように感じた。


「…………受け入れますわ」


 静寂で耳が痛い。


 クラクラと酸素が足りなくなったような思考で、どうしてと頭の中で繰り返す。


「……魔術師ギルドは、完全な実力主義だ。シュルツ侯爵家の力などなくても、俺は誰よりも早く、魔術の深淵に辿り着く」


「その通りだと、思います」


 そのまま、リベラ殿下は、レイチェル様を抱き上げた。レイチェル様が、学園長と同じ、その翠色の瞳を見開く。途端に、潤んでいた瞳から、涙がこぼれ落ちた。


「リベラ殿下?! 離してください」


「レイチェル、これから起こる災厄を防ぐため、危ない橋を渡る覚悟は、出来ている。俺はおそらく、何度も同じような目に遭うだろう」


「そんな……」


 嫌々とするように、ポロポロ涙を零しながら、レイチェル様が首を振る。その涙が、まるで宝物を拾うように、そっと拭われた。


「その時、俺の隣にいて欲しいのは、侯爵令嬢なんかじゃない。……君のいる世界を守りたい。俺の帰る場所になって、レイチェル」


「………………しっ、仕方がないですわねっ! 必ず帰ってくると約束して下さるなら、なってあげても良いですわっ」


 レイチェル様もいつもの調子に戻ったようだし、これ以上、ここにいる必要はなさそうだ。


 むしろ、いてはいけない空気だろう。


「早く戻れよ。アレスなら理解してくれる。……たぶん、恐らく。俺を巻き込むなよ?」


 私たちは、顔を見合わせ、その場を離れた。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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