09 殿下、ムリがあると思います。
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入学式の後は、各自のクラスに移動する。私に手を差し出してくる殿下。しかしそれは、エスコートというよりは仲の良い幼馴染が手を繋ぐ感覚に近かった。
友達になるの、嫌なんじゃなかったんですか?
少し膨れっ面になりかける私を気にしていないとでもいうように、殿下が笑いかけてくる。
まあ、期間限定ではあっても、共に強大な敵を打ち倒す仲間ですからね。ああ、友達じゃないってそういう意味なのかしら? ライバルってやつね? きっと。
「同じクラスで嬉しいよ」
私たちが同じクラスになる為に、父が巻き込まれて、大変なことになったんですよ?
殿下が冒険者クラスに所属することが決定してからも、上級貴族や王族と父は相当やり合ったらしい。あのやつれ具合も、殿下まで冒険者クラスに入ることを希望したからなのだと納得するしかなかった。
それでも、小説の中の完璧すぎて笑うこともない子どもだったという殿下の描写と正反対に、キラキラと水面に反射する光みたいに笑うのを見るのは幸せだ。
あなたが、そうやって笑うのを見るだけで、どうしてこんなにも、幸せに思うのだろう。
……涙がこぼれ落ちそうなほどに。
持て余しそうなほどに、胸の中で膨らんでいく、謎の感情に、「推しだから」と言う名前をつけた。
「……一緒に頑張りましょうね?」
「そうだね。ルルに負けないように精進する」
そう言って、やっぱりキラキラ笑うアレス殿下を見て、本気で泣きそうになった私は、思わず目を逸らす。
そして、いよいよ新しいクラスに到着した私たち。なぜか、手を繋いだままなんて、殿下も不安なのだろうか?
「ルルーシアです。どうぞよろしくお願いします!」
ざわめいていた教室が、静まりかえる。やっぱり、王子とその婚約者に緊張があるのだろう。
仲良くなれるといいな?
「アレスだ。ここでは気軽にアレスと呼んで欲しい」
さらに教室が静まりかえる。流石に無理があります殿下。
そう思ったのに、赤い髪にグレーの瞳をした少年が殿下と私に歩み寄ってくる。
「俺はカトルだ。アレスにルルーシア。よろしくな!」
そう言って、手を差し伸べてくる少年。私は彼のことを実は知っている。彼の名前はカトル。姓はない。しかし、未来のA級冒険者で、最もS級に近いと言われる人間だ。
そして小説でも、もちろん活躍する。
流石に未来のVIPは違う。冒険者の所属するギルドは、一つの国家のようなものだ。各国に支部を置き、大国でさえその権限を脅かすことは出来ない。
その中でも数人しかいないA級と今は空席のS級冒険者は別格の権力を持つ。
――――今、何かが引っかかった気がした?
それが何かはわからないままに、嬉しそうなアレス殿下とカトルの固い握手と、芽生えた友情らしきものを私はしばし堪能した。
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