08 殿下の新入生あいさつ。
入学式の会場は、貴族も平民も分け隔てなく席が設けられている。さすがに、第一王子とその婚約者である私の席は、別で設けられていたけれど。
そして、冒険者クラスには平民や軍部を進路に希望する下級貴族が多く、特待クラスにはごく一部の国に指定された能力の保持者と上級貴族が多い。
特待クラスの首席は、シュルツ侯爵家のレイチェル様のようだ。
……巻き髪に、赤いドレスなんて、まるでかつてのルルーシアみたいだわ?
その中央に挟まれるように座る私とアレス殿下が少し異質にも感じる。
会場のあちらこちらから、「どうして殿下は冒険者クラスを選ばれたんだ?」とか、「平民から優秀な才能を登用するという方針らしい」などの声が聞こえてくる。たぶんそこまで計算しての行動ではないと思うけれど。
……ちがうよね?
完璧なアレス殿下の行動から考えると、そこまでの計算がないとも言いきれない。でもそうなると、貴族至上主義と真っ向から対立することになる。
……え? 断罪ルートに第一王子まで巻き込んだりしてないよね? 大丈夫だよね?
一抹の不安がよぎってしまい、チラリと、アレス殿下の顔に目を向ける。
あれ? 真剣な表情で、正面を向いているけれど、まさか緊張しているのかしら?
そんなことを考えているうちに、式は進み、新入生代表の挨拶になった。
ある意味完璧で、ある意味退屈なアレス殿下の挨拶……。しかしなぜか淀みない言葉が最後の最後で突如詰まった。
いつも完璧なアレス殿下にしては珍しい。
しかし、アレス殿下から焦りは感じられない。少しだけ俯いたあと、顔を上げた殿下は良い笑顔で私の方を見た。
――――気がした。
そして、一呼吸大きく息を吸った殿下が、挨拶を再開する。
「……僕らは、たとえ強力な敵が現れても、熱い友情と努力で強力な敵を打ち倒すような、仲間になりましょう!」
一瞬、水を打ったかのように会場が静まり返る。そして割れるような拍手は、冒険者クラスの席から起こった。その拍手は会場全体に広がり、笑顔のままの殿下が、私の隣に戻ってくる。
「殿下……」
「――――教育係たちには止められたんだけど、やっぱりどうしても言いたくて」
その時の殿下の悪戯に成功したような笑顔は、私の胸に突き刺さった。
「熱い友情ですね!」
笑顔でそう返した私に対して、殿下は「うーん。ルルと目指したいのは、それじゃないんだけどね」とやはり良い笑顔で応えた。
仲良くなってきたと思ったのに友達はお断りされてしまったらしい。
笑顔が固まってしまった自覚があるけれど、私はあきらめないと心に決めた。
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