84 もう一つの竜の卵 5
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鬱蒼とした大木と蔦の葉に隠されるみたいに、その扉は存在していた。
「誰か開けてしまったら、どうするんですか?」
「……私を誰だと持っている、ルルーシア・フリーディル。私は、悠久の時を生きるハイエルフだ。なあ、闇の精霊様?」
「その通り。俺ほどではないが、高位の存在だ」
「証人が……いまいちですシーク先生」
ある予感が、私の不安を引きずり出す。
創世神話の闇の精霊様が、ふんっと鼻を鳴らす。
どう見ても、可愛らしい大きなモフモフにしか、見えない。
確かに、白銀の竜と戦った時、虚空みたいな黒い魔法は、飲み込まれたら絶対出てこられない予感がしたけれど。
……それよりも、何よりも、扉が開けられてしまうフラグですか? どうか、開けられませんように。
アレス殿下が、片手で私を支えたまま、器用に扉を開くのをぼんやりと見る。
そういえば、いつもアレス殿下と私の距離が近すぎると、間に入ってくる父が、妙に静かだ。
……どうして今回は、邪魔をしてこないの?
扉が閉まる。見慣れた王立学園の、シーク先生の部屋。
そして、その時はやってきた。
「アレス……。ここまで、目を瞑ったんだ。責任持って、ルルーシアを守れよ?」
「言われるまでもなく」
その瞬間、地面が大きく揺れる。
ギシギシと揺れ動く空気の振動が、世界中を飲み込んでしまうような、悲痛な叫びに聞こえる。
まるで、助けを呼ぶような。
全てを根絶やしにしてしまいたいと、怒り狂うような。
「キュウウウゥゥッ!」
その声に、応えるみたいに、フェイの背中でクロが鳴いた。
それが収まっても、私の体はまだ揺れが続いているみたいに、ガタガタと震えていた。私とアレス殿下を繋ぐ魔法の鎖が、まるで頼りない絹糸みたいに、頼りなく途切れかけた気がしたから。
どうして私は、まだ時間があると思っていたのだろう。災厄は、私が十八になる年に起こるのだから、それまでは安全なのだと。
そう、災厄が起こる前、王国の各地で、地震が起こり、魔獣たちの活動が活発になっていった。
ようやく、アレス殿下が、私のことを降ろしてくれる。そのまま、ペタリと私は床に座り込んだ。無意識に、留めようとした魔法の鎖。思ったより、魔力を消費していたことに気がつく。
「…………ルル、大丈夫?」
「平気です。アレス殿下は、予想していたのですか?」
「……前の人生でも、今回も、調べ続けていたからね。どうして、ルルーシアが狙われたのか。犯人の予想は、ついていたから、今回は泳がせていた部分もあるけれど……」
「っ……だって、今の揺れは、明らかに……」
魔力の波動を帯びていた。
自然が引き起こしたのではない、その揺れは。
「……明らかに、竜の魔力を帯びていました」
「……まずは、リベラを迎えに行こう」
「アレス殿下。また、無茶をする気ですか」
「リベラは、大事な弟だからね」
そう言われてしまえば、止めることなんてもう、できない。ただ、私はこの先に何が起ころうと、そばにいることだけを、誓ってアレス殿下の腕を引き寄せた。
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