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【電子書籍化】悪役令嬢(!?)の鑑なんてごめんです! だから殿下、ついて来ちゃダメです。  作者: 氷雨そら
破滅なんてゆるしません。だから殿下、一緒に抗ってください。

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82 もう一つの竜の卵 3



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



「さて、そろそろか」


 私を抱き上げたままの、アレス殿下が呟く。

 抱きしめる力が、私を守るように強くなる。


「アレス殿下……?」


「ひっ、何これ?!」


 斜め後ろから、レティの怯えるような声が聞こえる。


 その瞬間、世界中の空気が、水が、火が、土が揺らいだ。物質的な揺れではないから、魔力の強いものにしかわからないだろう、その揺れが、世界を飲み込んでいく。


「うそっ、精霊たちが、いなくなった?!」


 生きる者の気配がない、神聖な森の中、唯一溢れていた精霊の気配が消えていく。


 そして、私とアレス殿下をつなぐ、魔法の鎖が、ガチャガチャと壊れてしまいそうなほど、音を立てて揺れる。


 こんなの、ひとたまりもない。

 抱きしめるアレス殿下が、私のことを守ってくれているから無事なだけだ。


 精霊に関する全ての魔法が、その力に応じて揺らぐ。光と闇の鎖は、見たことがないほど強い魔法だ。


 だからこそ、その揺らぎは、あまりに大きくて。


「ルルも、ちゃんと俺たちの鎖を維持して? なくなったら、何が起こるか保証できない」


「っ…………はい」


 まさか、私のことを抱き上げてきたのは、この状態を予測して?


 甘い幻想に動揺していたこと、そしてあまりの危機管理のなさに嫌気がさすけれど、今は。


「無茶をするな……。早めに終わらせて迎えに行かないといけないようだ」


「あの、この現象を起こしているのは、まさか」


「ルルの予想は、合っているだろう。この世界に、光と闇以外の属性を全て持っている人間なんて、一人しかいないから」


 多くの属性を持つ、エルフに比べて、人族は魔力を持っていることすら稀だ。


 その中で、今世、唯一四属性を全て持つのは、メインヒーローであるあの人しかいない。


 しばらく続いた振動が消えると、何事もなかったかのように精霊たちの気配が戻ってくる。


「あの……。フェイは無事?」


 ようやく顔を上げて、フェイの方を向けば、「は? 当たり前だ。属性も違うし、高位精霊を馬鹿にしてるのか?」と、意外にも余裕があった。


 周りにいた精霊たちは、根こそぎ力を奪われていたのに。


「ま、ルルーシアやアレスに、同じことされたらヤバいかもしれないが。……いや、失言だ。そんなに睨むなアレス」


 リベラ殿下が、何かしたのは間違いない。

 それは、もちろんレイチェル様を助けるための行動だろう。


 そして私は、この現象を知っている。


「カトルが起こした魔力の暴走に似ていた」


「まあ、制御できているかの有無だけで、似たような現象だろう。なあ、アレス」


「……そうだな」


 否定しないってことは、リベラ殿下の無事が気になる。


「アレス殿下……」


「俺たちは、俺たちのできることをしよう」


「それは分かりましたが、そろそろ降ろして」


 アレス殿下が、私を守るために抱き上げるなんて、周りの空気を読まない行動に出ていたことは分かった。


 だからもう、降ろしてくれても良いと思う。


「え……どうして?」


 再び、あざといくらいに、アレス殿下が小首を傾げた。いかにも、私がおかしなことを言っているかのように。


「ほら! 着いたわよ」


 結局、最後までアレス殿下が、私のことを下ろしてくれることはないまま、目的地に着いた。

 


最後までご覧いただきありがとうございました。


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