72 恋と友情と、思惑。
「あちらへ行こうか」
アレス殿下が、私に手を差し伸べる。
初めて会った子どもの頃、エスコートというよりも、手を繋いで教室に入った日が懐かしかった。
あの頃から、アレス殿下は、当たり前のようにエスコートしてくる七歳児でも、あったけれど。
「リベラ殿下とレイチェル様!」
「……王太子殿下、そして未来の王太子妃ルルーシア様。この度は、ご機嫌麗しく」
「お久しぶりです。王国の希望、王太子殿下、そして未来の王太子妃ルルーシア様」
第二王位継承者とその婚約者が、私にまで、二人が臣下の礼をしてきたことで、会場の緊張が高まる。
「あの。……お会いできて光栄です。リベラ殿下」
「ええ」
にっこりと笑うと、アレス殿下にやはり似ていると思う。ホールにざわめきが起こる。
「……しかし、おそらく、義姉上が聞きたい内容は、この場所にそぐわないと思います」
どうして、王位継承権を放棄してしまったのか、聞きたかったけれど、リベラ殿下の言う通りだ。
それにしても、まだ何も話していないのに、この兄弟はどうなっているのだろうか。
「それより、レイチェルが、話をしたそうだ。あまり邪魔をすると……っいて」
微笑んだままのレイチェル様は、教室内でも基本的に隙がない。だから、夜会でも普段と変わらないままだ。そう言うところ、好きだ。
でも、既にリベラ殿下は、レイチェル様の手のひらの上という、感想しか出て来ない。
「ルルーシア様……。実は、私もお話ししたいことがあるのです」
扇子で口元を隠して話し出した、レイチェル様。
「レイチェル様?」
「たぶん、ルルーシア様が知りたいことと関係ありますわ……」
レイチェル様が、声のトーンを落とした。
たぶんそれも、ここで話すような話ではないのだろう。
「……それなら、久しぶりにあの部屋でお待ちしています」
あの部屋といえば、あの部屋だ。
おそらく王国中で、一番機密が漏洩しにくいあの部屋。
今回の一連の出来事の、ご報告も兼ねて、それからお約束していた、珍しい素材も持って、押しかけよう。
「っ……ルルーシア様! 宜しいのですか?」
「私たちは、友人ですもの。当然ですわ」
そう声をかけた瞬間、レイチェル様の表情が僅かに曇ったのを、私は見逃すことはなかった。
……友人だと、思っていたのだけれど?
でも、レイチェル様は、私が危険と思えば、必死に駆けつけてくれた。
信じているし、それを世間では、友情というのだと思う。
「嬉しいですわ……」
レイチェル様は、笑った。どこか、寂しそうに、悲しげに。
そんなレイチェル様の様子は気になったけれど、そのあとは、アレス殿下と貴族たちからの挨拶を受けて過ごした。
政治的な思惑が交差しているのを感じながら、私は悪役令嬢ルルーシアを思い出して頑張った。
遠目に見た、レイチェル様とリベラ殿下は、かつての私たちのような笑顔で、それでも二人一緒に過ごしていた。
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