68 悪役令嬢の再来 1
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竜の子どもは、元気に育っている。
そして、今日の私は、ドレスアップして夜会に参加予定だ。
……王太子妃になるつもりがなかったから、夜会の参加は久しぶりだ。
コルセットを締めるのも、久しぶりで、侍女のローリエにギュウギュウ締め付けられて、泣きそうになった。
「お美しいです! いつもの冒険者姿も凛々しく素敵ですが、ドレス姿は格別です!」
褒めすぎる侍女を微笑ましく見つめ返す。
今まで、伯爵令嬢の専属侍女なのに、冒険のための道具の管理などしてもらって、王宮に行く時くらいしか、それらしい仕事はさせてあげられなかった。
考えれば、考えるほど、伯爵令嬢付きの侍女のお仕事ではなかった。申し訳なさすぎる。
「それにしても、見事なドレスですね」
「そうね、お父様……いくら使ったのかしら」
今回のドレスは贅の限りが尽くされている。
アレス殿下が、ドレスを贈りたいと言ってきたのに、「あと少ししか買ってあげられないのに、俺の夢を奪うな!」と、父が頑なに譲らなかったのだ。
キラキラ光るビーズは、全部宝石で出来ているし、所々魔石も混ざっている。魔石って、ビーズに使って良いものなのだろうか?
ドレスに使われているのは、王国の北端で織られた希少な生地だ。S級冒険者として、以前フェンリル退治に行った時、お礼として貰ったらしい。
ブラウンの落ち着いた色合いだけれど、歩くたびに生地が艶やかに、ビーズがキラキラ煌めく。
「でも重い……これでは戦えないわ」
扇子をぱらりと広げて呟く。
「おいおい、夜会だからな。戦い方を間違えるなよ?」
なぜか心配そうに、呟くフェイ。
「ご心配なく。貴族令嬢の夜会での戦い方を、見せて差し上げます」
「心配だ。何かズレている気がする……。俺としては、おそらく社交については、アレスに任せた方が良いと思う」
そんなことないと思う。悪役令嬢ルルーシアの記憶には、全ての貴族の名前と顔、出身地など完璧に網羅されている。
立ち居振る舞いも完璧なはず。
思わず、腰に手をやって、剣を掴もうとしてしまう以外は。そう、ふんわりしたドレスの中に忍ばせる短剣を用意しよう。そうしよう。
「……やっぱり、何かが間違っている気がしてならない」
ため息を吐きながら、フェイが私から離れていく。
でも、夜会が戦場というのは、事実だわ。
……悪役令嬢ルルーシアを、追い詰めて断罪した相手も、きっと夜会にいるに違いない。
「ルルーシア……。美しいな。取り敢えず、王太子殿下の色合いでコーディネートされるのを阻止できて満足だ」
「え? 流石に、アレス殿下もそんな恥ずかしいこと」
振り返ると、正装に身を包んだ父がいた。
ふと、悪役令嬢ルルーシアの記憶が蘇る。そういえば、贈られてくる宝石は、全てサファイアだった。
よっぽど、サファイアがお好きなのね。って、思っていたのだけれど、まさかね?
え? 瞳の色の宝石だから、贈ってきていたの? え、アレス様、そんな素振りひとつも見せなかったじゃないですか。
混乱する私をよそに、父が続ける。
「それから、夜会に行く前に伝えることがある。……リリーベルは、言っていた。シュルツ侯爵は、好きじゃないと」
「……レイチェル様のお父様ですか?」
王立学園長は、シュルツ侯爵の兄だ。
レイチェル様には、良くして頂いている。
この間、学園で会った時にも、リベラ殿下が王位を継がなくても、そばにいることを誓ったと言っていた。
その言葉に嘘がないことは、私には分かる。
「あの、好きじゃないというのは?」
「リリーベルは、人の善悪が分かる不思議な力を持っていた。……好きじゃないというのは、そういうことだ」
「…………悪い人、ということですか」
「いや、俺たちにとっては、悪い人ということだろう」
確かにそうなのだろう。母の仇だった竜でさえ、私たちにとって、敵であるというだけだったから。
「ルルちゃん、俺はハッキリ言って、貴族社会は好きじゃない。S級冒険者でいられなくなった今、ただの成り上がりだと思う人間がほとんどだろう」
「お父様……私は、誰よりもお父様を尊敬しています」
「嬉しいよ。だが、そのことを決して表に出すな。俺は何を言われたとしても、気にしない。ルルーシアもそうしろ」
……うーん。お父様が悪く言われても、表に出さないなんて、出来るだろうか?
「表情にほんの少しすら出さずに、微笑んだまま裏からやり返すくらいでなければ、アレスの隣には、立てないだろうからな」
「……承知いたしました。お父様」
私は、扇子で口元を隠して、悪役令嬢ルルーシアとしての笑顔を見せた。
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