69 悪役令嬢の再来 2
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今夜の夜会は、ざわめいていた。
それぞれの思惑により……。
今回、十数年ぶりに討伐された竜。
英雄とも目される、第一王子アレス。
そして、社交界にはほとんど顔を出すことがなかった、S級冒険者の一人娘。フリーディル伯爵令嬢。
「今回の討伐にも、S級冒険者ルドルフ殿の力添えがあったらしい。引退とは惜しいな」
そんな声が聞こえる一方。
「フリーディル伯爵代行に、取り入った成り上がり冒険者の娘」
父を貶めるそんな声も聞こえてくる。
……耳が良くなったみたいだわ?
父の腕に片手を添えたまま、扇子で隠した口元を、片方だけ上げて歪める。
竜の魔力を得たからだろうか。それとも、フェイを呼び出したまま、その力を借りて闇の魔力をコントロール出来るようになったからだろうか。
それとも、母から受け継いだ力なのか。
母が、あの人好きじゃない。と言っていた言葉の意味がわかる。
悪い人も確かにいるけれど、私に敵意を向けている人が、悪い人とも限らない。私を憎む人を、好きになれないだけ。
特に今、目の前にいるこの人は……食えない。
「フリーディル伯爵令嬢ルルーシア様。いつも、レイチェルが仲良くして頂いて光栄です」
「シュルツ侯爵様。ご無沙汰しております。お声をかけていただき、こちらこそ光栄ですわ。レイチェル様には、本当に良くして頂いております」
何故か、私のことを上から下まで、品定めするように見つめてきたシュルツ侯爵。それは、本当にさりげなくて、冒険者として命を懸けてきた経験がなければ、気がつかなかったかもしれない。
――――好きじゃないかもしれない、この人。
「本当に……。フリーディル伯爵代行が、目の前にいるようです」
「……え?」
そういえば、先ほどから父をいないものとして扱ってないか、この人。好きじゃない。
一歩前に出そうになった途端、父にグイッと引き寄せられた。
その瞳が、一瞬遠い過去を懐かしむように揺らいだ気がした。その直後には、冷酷だと噂される氷みたいな表情に戻ったけれど。
「ああ、失礼いたしました。フリーディル伯爵、輝かしい活躍、耳に入っております。冒険者の活躍は、王国の誉です」
……二重音声で、冒険者風情がって聞こえてきた?!
「シュルツ侯爵、王国の力となることは、喜ばしく、当然のことですから。私もシュルツ侯爵のますますのご活躍を願っております」
……お前こそ王国に貢献しろよって、やられっぱなしではないのですね、父?!
それにしても、どちらかと言うと、直球勝負なのね。何となく、シュルツ侯爵は、悪い人ではない気がした。ただ、好きじゃないだけで。
そんなことを思いながら、会場のざわめきが、急に静まり返ったことに気がつく。
ざわめきは、端から順に消えていく。
その方向を振り返って、私は思わず息を呑んだ。
「アレス様……」
こういった場所で、こんな風に入場してきたアレス殿下を見るのは、今回は、初めてだ。だからなのか、王族としての少し冷たく見える笑顔のままのアレス殿下が、第一王子アレスと重なる。
冷たい笑顔、アレス様は、その笑顔を崩さないまま、私の前に進み出ると、婚約者の義務とばかりに、いつも一曲だけ私と踊ってくれた。
今回も、やはりそうなのだろう。
諦めにも似た感情を、思いのほか持て余しているうちに、アレス殿下が、何故か足早に近づいてくる。
私は、気を取り直し、王族を前にした時の深い礼で、出迎える。
その瞬間、会場がさらに静まり返った。
「ルルーシア、今宵も美しい。まるで、深き太古の森にいたという、光の精霊のようだ」
そのまま、私の手の甲に口づけを落としたアレス殿下が、「俺の色に染められなかったのは残念だけれど」と言って、満面の笑みで微笑んだ。
「…………アレス殿下こそ、まるで黄昏の空から太古の森に降り立ったという、闇の精霊のようですわ」
色合い的には、私たちは真逆だろう。それでも、この言葉に会場が騒めく。そう、私たちが、光と闇の精霊を召喚したという噂を、認めたとみなされただろうから。
――――何とか答えきったけれど、動揺してしまったわ。アレス殿下は、こんなところで、そんな風に笑うなんて、何を考えているの。
けれど、目の前にいる人は、確かに第一王子アレスではなく、私の大好きなアレス殿下なのだと、思い知らされるのだった。
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