66 ご令嬢を俺に下さい。
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なんとなく、そういう雰囲気というものがある。見つめ合ったまま、私の頬がどんどん赤くなる中、バァンっと扉が開いた。
「まだ結婚前だ!」
「お父様?」
よくわからないことを言いながら、乱入して来た父。扉が壊れそうなほどの勢いは、多分力の制御が出来ていないのだろう。
「……ルルちゃん! 王太子妃なんて、大変だよ? 一緒に逃げよう」
「お父様……そういえば、冒険者引退ですね。これからは、フリーディル家の執務、頑張れますね?」
「えっ、ええ〜。……あの、王立騎士団の最高顧問として声がかかって……」
「お父様は無理するからダメですよ。見てるだけなんて、出来るはずないでしょう?」
後ろで、侍女のローリエも頷いてますよ?
私は、父のそばに近寄ると、父の上着とシャツを勢いよく胸元まで捲る。そこには、深々とした傷跡が、まだ生々しく残っていた。
「お父様、結局、私の運命に巻き込んでしまいましたね」
父が冒険者を続けられなくなるのは、いつも私のせいだ。
「……俺の運命は、確かにルルーシアの父という名前に違いない。なぜならそれは、俺にとって最高の幸せだから」
悪役令嬢の父なんて、巻き込まれも甚だしいのに。
「さて、王太子殿下とお呼びしましょうか?」
そんな父を前に、急に跪く、アレス殿下。
何かを察したらしい父が、一歩後退る。
「…………ルドルフ・フリーディル伯爵。どうか、ご令嬢のルルーシア様を、俺に下さい」
「うわぁ、まじめに言ってくるか、この場面で。…………くそ、少しでも泣かせたら、この国を破壊するからな?」
やめて下さい父! ただでさえ、小説のラスボス疑惑がかかっているんですよ?
「――――ルルーシアを、幸せにして下さい。約束です。あと、うちの娘は、置いていくと逆に自分を犠牲にしようとしたり、危険に身を投じるタイプなので、取扱注意です。目を離さないように」
「肝に銘じます」
まるで、物語の一コマみたいな場面を、口元を押さえたまま、呆然と見つめる。最後のやり取りさえなければ、完璧だったのに。
娘さんを僕に下さいって、いつか言ってもらうことを密かに夢見てたなんて、アレス殿下は知らないはず。
ずるいです。好きな気持ちって、上限がないものなんですか?
……ところで、さっきからバタバタという羽音と、ダダダダッと走る音が聞こえるのだけれど。
「あの、フェイが召喚されたままなのだけれど?」
そう言った側から、私の足に擦り寄るふわふわとした感触。下に目を向ければ、セラフまでそこにいる。
「え? 魔力っ」
ところが魔力は、いつまで経っても吸い取られていく様子がない。
「ルルーシアが、強くなったら一緒にいられると言っただろう? ルルーシアとアレスが強ければ強いほど、俺たちの力も強くなる。もう、闇と光の魔法が、制御できないなんてこともない」
「っ……フェイ!!」
その、太くてふわりと温かい首に、思いっきり抱きつく。アレス殿下の腕輪とお揃いの首輪と、ジャラリと首元から10センチほど、短く下がる鎖だけは消えていないのが、少し気になるけれど?
「飼い犬じゃないぞ?!」
そう言いながらも、ハッハッと短い呼吸をしたフェイは、再び走り出す。追いかけている先には、楽しそうに羽をバタバタと飛び回る、小さな竜がいた。
「どちらが子どもなのか、分からないわ」
ため息混じりのセラフの言葉。
神話時代からのセラフの苦労が偲ばれる。
それでも、そんなところも含めて、好きなのだろう。セラフは、フェイのこと。そんな気がした。
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