63 フラグなんて折って、結婚してください!
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戦いは続いた。
命のやり取りをしているとは、分かっているのに、紫の炎も、白い閃光も、鈍色の剣の軌跡も、全てが美しい。
まるで、神話の世界が、再現されたみたいだ。
そして、竜は紫の炎に包まれながら地に臥した。
「闇の乙女が十八歳になる年に、災厄の日は、訪れる。その日まで、お前達が生きていられる可能性は低い」
お前達って、災厄の日までにいなくなる人間、増えてませんか?
巻き込んでしまったらしい、父とリベラ殿下、そしてフェイの姿をチラリと見る。
なぜか、その言葉に動揺する様子がない二人と一匹は、命が惜しくないのだろうか?
美しい白い花が舞い散る中、静寂は、厳かにも聞こえる父の言葉に破られる。
「……リリーベルを、なぜ殺した」
「お前が、俺を殺すのも同じ理由だろう?」
それ以上、言葉を発することもなく、父が剣を振るったのが最後だった。
「……ああ。守りたいだけだ」
父が膝をつく。おびただしい赤色で、その服が染まっている。対して、私は深手を一つも負っていなかった。
結局、私は守られるばかりだ。
「お父様……っ、今すぐ手当を」
それなのに、父は緩々と首を振った。
「終わりじゃない。もう一匹は、こちらに来たようだ。だが、可能性が低いってことは、可能性があるってことだ。ようやく竜の予言を書き換えた……」
「っ……来るぞ! ルルーシア」
フェイの声音に、焦りが加わる。
父が、轟音とともに降りかかった風の刃を切り裂かなければ、私たちは一撃で切り刻まれていただろう。
「お父様っ!?」
「どう考えても、白銀の竜よりも強いな……。ルルちゃん、あとから行くから先に逃げろ」
「ダメですよ!」
――――特にその台詞がダメです!
「大丈夫、義姉上。ここは俺に任せて先に行って下さい」
「もっとダメですって!」
どうして私の大事な人たちは、フラグになる台詞を好むのだろう。
竜を倒したことで、確かに強くなったことを感じるのに、目の前の黒い色をした竜とは、格の違いを感じてしまう。
お父様抜きで、勝てるはずがない。
「今なら、お前だけで済む。闇の魔法を持つ乙女よ」
「……聞くな、ルルーシア」
私だけで? 思わず縋って、大切な人たちを助けてほしいと、願いたくなる。
でも、きっとそんなことをすれば、あの人は今度だって、どんな手を使っても、私を取り戻そうとするだろう。
ジャラリと、魔法の鎖が音を立てた気がした。
「好きだよ、ルル」
その声が、その笑顔が、浮かんで消えて。
「だから、ここは俺に任せて?」
その声は、私の後ろから響く。
「アレス……俺を使え」
その瞬間、私の魔力は全て失われ、私を守ろうと目の前に立っていたフェイの代わりに、私の手には黒い剣が。
私から、その剣を受け取ると、「そういえば、腕輪の代わりに報酬をお渡ししてませんでしたね?」とアレス殿下が、父に回復魔法をかける。
「っ……魔力を無駄遣いするな。ルルーシアがいるために、光の精霊も出せないのだろう?」
光る腕輪が、再びアレス殿下の左手首に煌めいている。セレスの姿はない。
「……負けると思われますか?」
「ちっ、負けそうもないのが悔しいな」
一瞬だけ、アレス殿下のサファイアの瞳の中に、私の姿が映る。
「一度でいいから、ちゃんと守らせて? そうでなければ、俺は前に進めない」
いつも守っていてくれたくせに。
それでも、それがあなたの願いなら、守られてあげます。
一度だけですよ?
「分かりました。守って下さい。そして、全部終わったら…………結婚してください!」
返事はなかった。代わりに、走り出しながら、ほんの一瞬振り返ったアレス殿下は、太陽みたいな笑顔で頷いた。
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