06 殿下は天才児です。
✳︎ ✳︎ ✳︎
不思議なことに、二人とも冒険者クラスに入ることが決まってから、アレス殿下は週に一回フリーディル伯爵家を訪れるようになった。
「ルル! 今日は新作の焼き菓子を持ってきたんだ。一緒に食べよう?」
アレス殿下が、無邪気に私に笑いかける。そしていつのまにか、ルルと愛称呼びになっている殿下。
か……可愛すぎっ。
年は同じでも、私の方が大人! そう自分に言い聞かせなければ、思わず好きになってしまいそうだ。
でも、いけない! 恋になんか落ちたら、断罪ルートまっしぐらなんだから!
今は、春の麗らかな光の中、小さな花が咲き誇る庭園で婚約者のティータイムというやつをしている。直前まで、なぜかアレス殿下まで一緒に父にしごかれていたけれど。
「あの……こんなに来ていて大丈夫なのですか?」
「むしろ、今まで来てなかった事を反省しているんだけど?」
……やっぱり、父の指導は為になるものね。厳しいけど。おかげで私も、普通の剣が多少は扱えるようになってきた。
「もうすぐ、入学式ですね? アレス殿下、もう新入生代表の挨拶は決まりましたか?」
「うん。まあ、僕が自分で決めることはほとんどないからね。……まわりが決めたのを読むだけだよ」
「えっ! そんなの、つまらないです! 今から一緒に考えましょう」
「えっ?」
第一王子だからって、人が書いた文章を読むだけなんてあまりに退屈だ。せっかく選ばれたのだから、個性を出さないと!
「えーと、絶対に友情と努力は外せないですよね!」
「えっと、うーん。そうかも?」
「それから、協力して強大な敵を打ち倒すのも!」
「え? いや、入学式なのに?」
だって、私たちが入るのは冒険者クラスだ。もちろん、強大な敵と戦うのが本懐だろう。それなら、最初から宣言してしまえばいい。夢は叶うのだと!
「あと、それから」
「……そうだね。考えてみるよ」
最初はどう反応していいのかわからないとでも言いたそうに私のことを見ていたアレス殿下だったけれど、だんだん乗り気になってきたらしい。前向きな言葉が聞けて何よりだ。
「出来上がったら、ルルが一番に見てね?」
「もちろん!」
後日出来上がってきたアレス殿下の新入生あいさつは、非の打ちどころのない完璧なものだった。
大人顔負けの文章の中に友情と努力もしっかり盛り込まれていた。
残念ながら、強大な敵を打ち倒すということには触れられてなかったけれど。
「すごい! 完璧です! 天才児ですか?!」
私が素直に称賛すると、「天才……児?」と不思議そうな顔をした後に、ひまわりみたいな顔でアレス殿下は笑った。
今日も私は、その可愛らしさを堪能したのだった。
最後までご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。




