05 それでも精霊ですか?
✳︎ ✳︎ ✳︎
「よ、帰って来たか」
屋敷に帰ると、フェイがお腹を出してだらしない恰好で寝ころんでいた。もちろんそのまま私は吸い寄せられて魅惑のモフモフを堪能する。尻尾をぶんぶん振っているから、嫌がってはいないらしい。
それにしても、殿下の思惑が良くわからない。とはいっても、まだ七歳。殿下だって我儘を言いたいことがあるのかもしれない。
それでも、小説の中のアレス・ロレンディア第一王子は完璧な人だったから違和感は残る。
そもそも、殿下は悪役令嬢ルルーシアを断罪までしたくせにヒロインと最終的には結ばれないと言ういわゆる当て馬王子なのだ。
どうしてなのだろう、なぜかヒロインのことを本気で好きではなかったようにも見受けられた。
どちらにしても、私の波乱万丈な冒険者クラス在籍については決まったも同然だろう。その時、父が私の部屋を訪れた。
「ルルちゃん……。訓練するよ?」
父の様子がおかしい。いつも、ぼんやり穏やかに微笑んでいるだけの父から妙な威圧感を感じるのは気のせいだろうか……。いや、この寒気は気のせいのはずがない。
「あの、お父様?」
「冒険者クラスに入るからには、命がけの場面もある。弱い人間は生き残れない世界だから。だから今日から毎日訓練をつける。訓練についてこれないなら冒険者はあきらめなさい」
「――――お父様」
「本当は、暖かくて安全な場所で、幸せだけを感じて生きていってほしかったけど……。いつか理由を話してくれるかな?」
父がいつもの穏やかな笑顔を見せてくれた。今すぐだって話してしまいたい衝動に駆られる。でも、私が転生して元のルルーシアの記憶がぼやけてしまっていることを伝えたら、父は私のことをどういう目で見るだろうか。
考えているうちに、笑顔のままの父が訓練を開始してしまったから、私の境遇を伝えることはできなかった。私は、心にとげが刺さったような気持ちで訓練を開始する。まあ、訓練開始直後にそんな気持ち、吹っ飛びましたけどね!
「さ? まずは試験の時に使っていたという黒い剣を自由に出せるようになろうか? ああ、フェイの力だよね? フェイもルルーシアが出来るようになるまで付き合うんだよ」
「は? なんで俺まで」
「……今のフェイなら、まだ俺でもなんとかできる。まだ、契約者が弱くて小さいからね? 契約者に従順でない精霊はいらない。――――さ、本気を見せてください?」
父は出会った時の意趣返しだとでもいうように、フェイに笑いかける。
とりあえずその日は、魔力制御訓練から始まって、黒い剣を自在に出せるようになるまで、日が完全に落ちるまで訓練が続いた。魔力が空になりかけても、訓練は終わらなかった。
いつも私に甘かった父はどこに行ってしまったのだろう。
そう思ったけれど、時々父がやっぱりいつものように大切なものを見るように穏やかに笑うから、私は最後まで地獄の訓練を乗り切ることができた。
その日の夕食には、私の大好きなプリンが添えられていた。なぜか、隣で椅子に座ったフェイまで「絶品!」と喜んで食していた。
最後までご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。




