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【電子書籍化】悪役令嬢(!?)の鑑なんてごめんです! だから殿下、ついて来ちゃダメです。  作者: 氷雨そら
破滅なんてゆるしません。だから殿下、一緒に抗ってください。

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56 ある冒険者と悪役令嬢の母 2



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 行動は、早いに限る。


 レイド殿から、打診を受けた翌日、俺はフリーディル伯爵家を訪れた。


 ――――約束もなく押しかけた。これで、追い返されたなら、断る口実にもなる。


 そんな算段をしていたことは、否めない。

 案の定、門番に「約束がないのに、当主様に会えるはずがない」と追い返された。


「ま、そうだろうな。さて、帰るか」


 一応、レイド殿から頼まれ、動いたのだから文句を言われることはないだろう。しかし、引き返そうとしたその時、その声に、なぜか時間が止まってしまうような錯覚を受ける。


「ルドルフ様!」


「…………え?」


「お待ち下さい! A級冒険者のルドルフ様でいらっしゃいますよね? 門番の対応は全て、私の責任です。けれど、お許しいただけるなら、話だけでも聞いて頂けませんか?」


 飾り気のない淡い水色のドレスを身にまとった女性。その人は、想像よりもずっと若くて、とても伯爵家を一人で切り盛りしているようには見えなかった。


 それでも、俺の前で見せた、あまりにも優雅な礼は、確かにその品格を表していた。


 まさか、本人が追いかけてくるなんて思ってもいなかった俺は、しばし呆然とその美しい女神を見つめる。


「お願いいたします。領民が苦しんでいるのに、私には、ルドルフ様にお願いをするくらいしか……」


「分かった。依頼を受ける」


「えっ?」


 キョトンと、こちらを見つめる闇夜のような紫の瞳が美しい。依頼を受けるのは、邪な感情などではないと言い訳したくても、その瞳から目を離すことなんてできない。


「サラマンダーは、俺が全て倒す。それでいいのだろう?」


「えっ? まだ、条件もなにも……」


「では、サラマンダーの素材は、全て俺の物に。ちょうど、素材が必要だったから、それで十分だ」


 リリーベル・フリーディル伯爵代行の頬が赤く染まる。恥をかかせてしまっただろうか。


 まあ、たまには損得なしに人助けするのもいいだろう。


 その時は、まさかサラマンダーどころか、もっと大物と出会ってしまうなんて、想像すらしなかった。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



「えっ、このまま討伐に行く?! ダメですよ、そんなの」


「別に構わないだろう? 早い方が良いに決まっている」


「領地の恩人にお礼すらしない、恩知らずになりたくありません!」


 早速、討伐に出掛けようとした俺を引き止めた、フリーディル伯爵代行に、半ば強引に客間に押し込まれる。


 貴族でないとしても、初対面の男と二人きりで客間に篭るなんて……。


「あの、こちらを受け取ってくださいませんか」


 差し出されたのは、装飾はほとんどないが、最高の鍛治師が作ったとすぐに分かる剣だった。


「うーん、これを持って逃げるかも知れません。……貴女に、襲い掛かるかも」


「ルドルフ様は、そんなことしませんよ」


 少し脅かした方が、今後のためだろうか? なんて、いらぬ心配までしてしまった。


 純粋すぎるその返答に、なぜか苛々して、思わず言葉が荒くなる。


「……あのな、男と二人きりというのは、問題あるんじゃないか?」


「ふふ、ルドルフ様は、大丈夫ですよ。私、人の善悪が分かるので」


 どこ吹く風とでも言うように、そんな事を当たり前のように言うと、彼女は微笑んだ。


「はぁ?」


「信じなくても良いですが、子どもの頃からそうなんです。この力で、何とか伯爵家を守っているので……。つまり、ルドルフ様は、信頼できるお方です」


 最初の出会いから、彼女は良い意味でも、悪い意味でも俺の予想を裏切り続けた。


 そう、最後の瞬間まで。


「あまり、贅沢な食事ではないのですが、温かいうちに食べてください。いらっしゃると、前もって分かっていたら、もう少し豪勢にしたのですが」


 どちらかと言うと、素朴で貴族の食事にしては、あまりに質素だった。


「美味い……です」


「そう、良かったです。作った甲斐が、ありました」


「え? 手料理?!」


「はい。お恥ずかしながら、料理人まで雇う余裕が無いんですよね」


「そうですか……」


 ニコニコと側でフリーディル伯爵代行が微笑んでいるだけで、その日の食事は、今まで食べたどんな食事より美味しく感じた。


 二人だけの食事の間、ずっとこの時間が続けば良いのにと、思わず願ってしまう。


 まさか、次の日、あんなことに巻き込まれるなんて知らないままに、甘いものが苦手にも関わらず、デザートまで俺はしっかり完食した。


 次の日、サラマンダーを倒した直後、どうしてそんなにもサラマンダーがこの地に大量発生したのか、理解することになる。


 冒険者の基本ともいえる、その事実を考えもしなかったことは、今も反省しかない。今思えば、順調すぎるランクアップのせいで、傲慢になっていたのだろう。


 それでも、それがなければ、今の俺も、ルルーシアもいないのは事実なのだった。

 

最後までご覧いただきありがとうございました。


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