55 ある冒険者と悪役令嬢の母 1
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フリーディル伯爵家では、すでに父が臨戦状態だった。
「ルルーシア、フェイと一緒に留守番という選択肢はないのか?」
「たぶん、この状況では、お父様と一緒にいるのが最善ではないでしょうか」
竜は、父がS級冒険者に昇格した時に倒した、一匹を除いてあと三匹いるらしい。
その一匹をアレス殿下達が、残りを父が相手にしたとすると、残り一匹の行動が読めないし……。
「ま、そうか。……でも、行く前に竜の残した予言と、ルルーシアの母について話をしようか」
「お父様……」
悪役令嬢ルルーシアの生い立ちについて、小説では簡単にしか語られていない。
父がS級冒険者だったことも伏せられていたし、父一人に育てられたことだけは語られていても、その理由については触れられることがなかった。
まあ、悪役令嬢ルルーシアと第一王子アレスは、とても人気があったから、私がいなくなったあと、外伝などで語られたのかもしれないけれど……。
「ルルーシアにとって、恐らく辛い話になるが、構わないか?」
「知らないことの方が、辛いです」
たぶん、父が頑なに母のことを語らなかった理由は、母の死因に私が関係しているからだと、察している。
でも、私を産んだ時や、産後の肥立ちが悪くてという話ではなく、不慮の死だったと聞いているから。
「竜と、私の運命が、関係しているんですよね?」
「……ああ」
「話して、下さい」
「ああ、今のルルーシアになら、リリーベルも知ってほしいと思っているだろう」
父が目を伏せれば、時々金色に輝く茶色みを帯びた瞳に、長いまつ毛で影がさす。
それは、私の知らなかった、悪役令嬢の母の物語だった。
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当時、A級冒険者として過ごしていた俺が、リリーベルと出会ったのは、討伐依頼の依頼主と、冒険者としてだった。
すでにフリーディル伯爵家の当主代行として過ごしていたリリーベルが、領民達を苦しめるサラマンダー討伐の依頼を出したのがきっかけだ。
「久しぶりだな。ルドルフ」
「レイド・シュルツ殿ではないですか。ご無沙汰しておりました」
「ははっ。そんなかしこまった言い方、出来るようになったのか」
「……まあ、A級冒険者になれば、面倒でも貴族との付き合いというものがありますから」
「二人きりの時は、そんな話し方はやめてくれ。以前のように、レイドと呼んでほしい。ルドルフは、数少ない信頼のおける友だ」
平民出身の俺は、冒険者としての階段を順調に駆け上がっていた。そして、運命の依頼は、ある依頼以降親交があった、シュルツ侯爵家の次男、レイド殿からもたらされた。
「え? 伯爵家代行の令嬢からの依頼? 構いませんが……」
「お前が、貴族をよく思っていないのは知っている。だが、リリーベル・フリーディル伯爵代行は、俺と同じ類の人間だ。恐らく、お前の嫌がるような貴族連中とは違う」
「そう、ですか……。まあ、サラマンダーであれば、その皮の鎧を持っていますし、討伐可能です。条件によっては、受けても構いません」
「サラマンダーの大量発生により、フリーディル伯爵家には財政的な余裕がない。だが、彼女の父上には世話になった恩がある。会ってみてくれないか」
特に資金面で困っているわけでもなく、レイド殿にそこまで頼まれれば、会わない理由もなかった。
サラマンダーの素材を売れば稼ぎにもなるから、それで良いか。それくらいの気軽な気持ちで、俺はリリーベル・フリーディル伯爵代行に会ってみることを決めたのだった。
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