52 二人の王子と嵐の予感
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シーク先生の部屋は、訪れる度に蔵書が増えて、研究室らしさを増している。
――――でも、なぜか叱られる時にしか呼ばれていない。
その事実に、がっくりと肩を落とすしかない私と、どこか物憂げなアレス殿下。
「アレス殿下? どうしたんですか。何か心配事でも」
「ん、ルルーシアに出会ったあの日から、心配ばかりしている」
えっ、どちらのルルーシアですか?
まさか、前のルルーシアは少なくとも、無茶なこともしなかったし、令嬢の鑑と呼ばれたことも。
「あの……」
フワリと髪の毛が、そよぐ春風のように撫でられる。先ほどの台詞と、優しげに撫でられた感触が、あまりにかけ離れているから、混乱してしまう。
「そこが、ルルの素敵なところだから」
……そういうところだと思うんです。
上目遣いに睨めつけてしまったのに、「ルルは、可愛いね」となぜか笑いかけられる。
多分、アレス殿下の好みは、変わっている。それだけは確かだ。
そんな時間は、思ったより早くすぎてしまったのかもしれない。急に目の前の扉が開いて、シーク先生が顔を出す。
「……一緒にいられる幸せを噛み締めるのは良いが、待っている側のことも考えような?」
「……はい」
なぜ、私の方を見てそれを言うのだろう。これに関しては、アレス殿下の方が、重罪だと思うのに。
まあ、確かに呼び出されたのは、私ですけど。
不満のあまり、思わず頬が膨らんでしまったのだろう。シーク先生が、苦笑している。
「さ、中に入れ。大事な話だ」
「…………え? レイチェル様と」
シーク先生の部屋にいたのは、レイチェル様とリベラ・ロレンディア殿下だった。
するりと、膝を折り曲げて王族に対する礼をしている体は、まるで自分のものではないみたいだ。
悪役令嬢ルルーシアとしての記憶を取り戻したせいなのか、以前よりも滑らかに、考えるよりも先に体が動く。
「素晴らしい……。レイチェルから、貴族令嬢の鑑のような優雅さと伺っていましたが、想像以上に美しいです。義姉上……。どうか頭をあげて下さい。是非、私のことはリベラとお呼びください」
レイチェル様と一緒にいた第二王子殿下が、まるで感嘆したかのように息を吐いた。
「お会い出来て光栄です。フリーディル伯爵家の長女、ルルーシアです。……それでは、リベラ殿下とお呼びしてもよろしいでしょうか? 私のことは、ルルーシアと」
「いえ、後ろからの視線に射殺されそうなので、義姉上と呼ばせていただきます」
リベラ殿下が、不思議なことを言って、私の肩越しに視線を移す。
不思議に思って、振り返るけれど、アレス殿下は、いつものように微笑んで小首を傾げただけだった。
「……兄上、レイチェルから話を聞いて、どうしても確認しなくてはならないと、シークテイルダイアンタス殿に無理を言って、この機会を設けて頂きました」
「話なら、王宮でいくらでもできるだろう」
「いいえ。兄上は、義姉上に会わせてくれないではないですか。今回のことは、義姉上も大きく関係するのです。話を聞いていただいた方が良いと判断しました。まさか、兄上まで同席されるとは、思いませんでしたが」
夢の中では、私に対して敵意を露わにしていたはずのリベラ殿下。そして、小説の中では、寡黙な性格だったはずなのに。
「まあ、全員座ると良い」
シーク先生に、勧められるままに、リベラ殿下とアレス殿下が座ったのを確認して、私もソファーへと座る。
思い当たることが沢山ありすぎる。
アレス殿下は、いつもの笑顔のようで、どこか隙のない雰囲気。
一方、リベラ殿下は、紫色の瞳を細めているけど、笑っているわけでもない。
二人の王子が醸し出す雰囲気は、いつも通り過ごす仲の良い兄弟のように、または今にも戦いが始まりそうに見える。
空気を読むことを、強く誓った私。テーブルの下でそっとアレス殿下が、私の手を握りしめてきたから、ご安心くださいの気持ちを込めて、その手を握り返しておいた。
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