49 物語の強制力 1
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ずいぶん長くお休みをしてしまった私は、王立学園にようやく登校することを叶えた。
本当は、高等部に進級した今、もう学園に通う必要はないのかもしれない。
そんなことを思っていることが出来たのも、正門を通り過ぎて、教室に入るまでの短い時間だけだった。
「そういえば、小説では、カトルは自分の魔力が暴走を起こして周囲を巻き込んだ後から」
――――学園を去った?
まさか、小説の流れ通りカトルは、すでに学園を去っているのでは。
思えば、カトルには、いつも助けられていた。
精神的にも、困難な討伐依頼でも……。
双剣を操るカトルは、アレス殿下と比べても、剣術では引けを取らない腕を持っている。
冒険者クラスに、在籍し続ける理由もないのだ。
震える手で、教室の扉を開けようとすると、急に扉が開いて、私は体勢を崩す。
そこには、してやったりという笑顔で、そのグレーの瞳を細めた未来のS級冒険者がいた。
早朝に登校したはずなのに、なぜか勢揃いしているクラスメイト。なぜかレイチェル様とアイシラまで、制服姿でニコニコしている。
「え? ……あの、どうして皆様お揃いで」
まさか、先日の騒ぎの件で、いよいよ断罪……。
一瞬よぎった予想は、カトルが思いっきり飛び込んできて、私のことを抱きしめたせいで、途絶えた。
うわ! すごい魔力量!
抱きしめられたまま、振り解くこともできずに、呆然としているうちに、カトルが矢継ぎ早に語り始めた。
「俺が起こしたあの事件の翌日には、フリーディル伯爵家を訪れたんだ。あの後すぐ、ルルーシアが、寝込んでしまったと聞いたから」
「え? 来ていたの?」
そんなこと誰も教えてくれなかった。
「そこで、ルドルフ殿に魔力制御の訓練を三日三晩……」
「えっ?! うちの父が、ご迷惑をおかけしました」
将来有望な若者を育て上げることに、楽しさを見出してしまったらしい最近の父は、フリーディル伯爵家のことを、私に押しつけて冒険者ギルドや、王立騎士団の育成に忙しく飛び回っている。
その裏に、未曾有の大災害への備えという思惑があるのかもしれないが、イキイキと父が楽しそうにしているのは何よりだ。
あの世界で、私のために全てを捨ててしまった父のことを思い出すだけで胸が締め付けられるから。
「それにしても、三日三晩はやり過ぎです……」
「いや、ルドルフ殿に付き合って欲しいと無理に頼んだのは、俺の方だ。ルドルフ殿にも、ルルーシアにも感謝しかない」
「えっ、今回の件に関しては、何一つしていない……」
「いや、あらかじめ、校庭に防護魔法を張るように手配してくれてたの、ルルーシアらしいな?」
……たしかに、シーク先生にお願いして、火魔法に特化した防護魔法を、学園の随所に張ってもらったのは私だ。
だって、起こる可能性が高いのだから、もちろん対策するのが当然だ。
「なっ、何のことか分かりませんわ!」
「……ルルーシアの、秘密だもんな」
「っ……ふぇ?!」
耳元で囁かれた台詞に、背筋が凍る。
カトルは、全てが適当で、おおらかに見えるのに、時々見せる直感は、本質を見抜いていることが多い。
「うおっ?!」
その時、カトルの首元に、冷たく光る剣が当てられた。気配がほとんどないから、私も、カトルすら反応できなかった。
「そろそろ、俺の婚約者から離れてもらえるか? 三秒以内に離れなけれなければ、首と体が離れる」
――――あわわ。アレス殿下の瞳の色が、夜明け前の光がない青色に変わっている?!
パッという解放感の直後に、私は今度はアレス殿下に抱きしめられた。
「ほかの男に、体を許すなんて、悪い婚約者だと思わない?」
「ゆっ! 許してないですよねっ?!」
周囲の誤解を招くような言い方、やめましょう? 殿下?!
「こんなことが続くなら、半径1メートル内に、異性が近づけないようにしようかな」
不穏です! 第一王子アレスも、まさかそんなこと考えていたとか、ないですよね?!
今になって、冷静にアレス様の行動を顧みる。
……あ、あり得る。だと?
「ルル、どっちが良い?」
「はっ! 異性に抱きつかれるのを、全力で阻止します」
つい、冒険者としての敬礼をしてしまう。ここは、決して逆らってはいけない場面だと、本能が警鐘を鳴らしている。
「約束だよ」
微笑んだアレス殿下は、普段通りに見えたけれど、第一王子アレスの姿が、瞼の裏にチラついてどうにもならなかった。
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