40 神話と精霊との関係。
「…………うん、ゴホン」
二人きりみたいに感じていた時間は、咳払いの音で終わりを迎える。
「そろそろいいか?」
その声に、ぎくりと体をこわばらせる。
顔を上げれば、目元を赤くしたアレス殿下が、私のことを見つめている。
その左斜め後ろには、呆れたようなシーク先生が。
全部見られていたことに気がついた途端に、私の体は、まるで燃え盛る焚き火のように熱くなる。
「ああ、お待たせいたしました」
何事もなかったかのように、さらりと答えるアレス殿下は、大物だ。さっきまで、私の言葉に照れていた可愛い人とは別人みたいだ。
王太子教育の賜物? いや、確信犯なのでは? だって私はいつも、翻弄され通しなのだから。
「お待たせしました……」
「本題に入らせていただくと、つまりルルーシアの精霊に心当たりがあるということでよろしいですか? シークテイルダイアンタス様」
アレス殿下は、シーク先生の正体を知っていたらしい。きっと、王族だけが知っていることが、たくさんあるのだろう。私は、一人納得する。
「……知っている。知っているのだが、私から話すことはできない」
「それは、どういうことですか」
チラリとこちらを見たシーク先生の瞳は、やはりどこか、私を気の毒だとでも言いたそうに見える。
「精霊が望まないことを、することは出来ない。高位精霊の機嫌を損ねれば、周囲一帯で魔法が使えなくなるだろう」
それは大事だ。
この場合の精霊は、もちろん……。
これは、直接聞くしかない。
私は、黒い剣を握りしめる。
もっと強くなれば、私の元に再び現れるって、フェイは言っていたのだから。
「その理由であれば、無理に聞き出すことは出来ないですね」
そう返答したアレス殿下の表情は、王子様スマイル。これは、絶対諦めてなんかいないパターンだ。
「さ、行こうか」
「え、ええ……」
「本日は、助けていただきありがとうございました。このお礼は、また日を改めて。本日は、状況も状況ですので、帰らせていただきます」
「教師として当然のことをしたまでだ。礼など必要ない。気をつけて帰るように」
グッと手を掴まれて、そのまま引き寄せられる。その手が、いつもより冷たいから、不調が分かってしまう。
私達は、足早に学校の正門をくぐり抜ける。
正門の前には、すでにアレス殿下の馬車が停まっていた。
「アレス殿下、早く帰って休んだほうが良いです」
「休むよ。休むから、一緒に来て」
「え? 休むなら、1人のほうが」
首を傾げた私に、アレス殿下が眉根を寄せて笑った。
「いや、一緒じゃないとダメなんだ。今ならおそらくは……。そうだな、ルドルフ殿もいた方がいいだろう」
そう言ったアレス殿下は、私のことを自分の馬車へと押し込むように乗り込ませた。
「フリーディル伯爵家まで」
どこか固い声音で御者に告げたアレス殿下。私は黙って手を握られたままでいるしかなかった。
最後までご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。




