表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【電子書籍化】悪役令嬢(!?)の鑑なんてごめんです! だから殿下、ついて来ちゃダメです。  作者: 氷雨そら
破滅なんてゆるしません。だから殿下、一緒に抗ってください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/105

36 光と闇の鎖 1



 この腕の中は、熱すぎて溶けてしまいそう。


 記憶の奥底にある、最後の瞬間に、霞んでいく視界の中で、悪役令嬢ルルーシアのことを見つめていたあなたは、なんて言った?


 そして、さっき思い出したフェイの言葉。


 愛する者からの魔法の鎖?

 冥府の門をくぐれない?


 間違いなく、私が記憶を取り戻して、悪役令嬢ルルーシアとして生きている理由だろう。まさか、アレス殿下の魔法が、始まりだったとでもいうのだろうか。


 ――――今なら思い出せる。


 フェイの声を聞いたのは、アレス殿下と何故か冒険者クラスに入るための実技試験で戦うことになったあの時が初めてじゃない。


 そう、私がこの世界に来る直前、確かにその声を聞いた。確かにその時も、私は「運命に抗う力が欲しい」と答えたに違いない。


「……まぁ、相変わらずお二人は熱々ですわね」


 ぼんやりと、抱きしめられながら、溢れては消えていく記憶の波に流されていたけれど、不意に聞こえてきた、友人の声で我に帰る。


「レイチェル様……」


 亜麻色の豪奢な縦巻きロールを揺らして、シュルツ侯爵家の三女、レイチェル様が扇子で、優雅にその口元を隠した。


 レイチェル様たちが通う、特待クラスには、今はもう通っていない。

 冒険者クラスも、すべての授業に参加するのは難しい。


 最近の私は、冒険に、遺憾ながら王太子妃候補としての教育にと、忙しく過ごしている。


 特待クラスに、アレス殿下とともに通うはずだった悪役令嬢ルルーシアが、いなくなった穴埋めなのか、外見だけは、すっかり悪役令嬢らしく、それとは対照的に誰よりも心優しい淑女に成長したレイチェル様。


 取り巻きに囲まれているはずなのに、私のことを心配して、一人で走ってきたであろう、レイチェル様。


 いつも、完璧に整えられているお髪が、やや乱れていることからそれがわかる。


 少しだけ息を弾ませたままのレイチェル様が、眉を顰めて、抱きしめたまま離してくれないアレス殿下と私をため息混じりに眺める。


「はぁ、光と炎が立ち上った場所に、ルルーシア様がいると聞いて慌てて駆けつけましたのに。心配して損しましたわ。全くもう。……どうしてこんなにも暑いのかしら」


 そう言ったかと思えば、手元の扇子で自分の顔を仰ぎ始めたレイチェル様。


 この状況は、流石に居た堪れない。


 いつものアレス殿下なら、こんなふうに注目されてしまったら、すぐに離してくれるのに。


「……あの、アレス殿下。そろそろ離し……」


 先に抱きついたのが、私だった手前、しかも抱きしめて欲しいみたいなことを言ってしまった手前、言いにくいのですが。


「怪我してる。また、俺は守れなかった……のか?」


 そっと冷たい指先が、首元に触れるとツキリと痛みが走る。


 気がつかなかった。先程の衝撃で、何かの破片でも掠ったのだろうか。

 触れてみると手に血がついた。でも、こんなの、ほんのかすり傷だ。


「かすり傷ですよ?」


「っ……ルルーシア。君がこんな目に遭うことはなかったのに」


「……アレス、殿下?」


 それなのに、アレス殿下は、息もできないほど、腕の力を強めてくる。アレス殿下が伸ばした手が、私の腰に下げられた剣を掴む。


 それと同時にフェイに込めていた、私の魔力が吸い取られていく。


 ……私の魔力とアレス殿下の魔力が、混ざっていく? え? 光と闇の魔力が共にあるなんて。


 思い知らされる。ずっと、ずっと、気がつかなかっただけで、私とアレス殿下の魔力は、とても深い場所で、誰にも知られることなく繋がったままだった。


 そう、きっと私たちが、もう一度やり直すことになった、あの日から。


 呆然と見つめた私を見つめるのは、いつもの柔らかなアレス殿下の笑顔ではない。


 泥の沼の底で、全てを諦め、それでも何かに妄執しているみたいな仄暗い笑顔。


「ルルーシア……。必ず君を取り戻すから」


「え?」


 唐突に紡がれた言葉は、先程までのアレス殿下の声音と違って、やはり暗い影が込められたみたいだ。


 気がつけば、アレス殿下と私の周囲を、ジャラジャラと音を立てながら、光と闇の鎖が取り囲んでいた。


 そう、私は見たことがある。

 あの時も、あなたは悪役令嬢ルルーシアに同じ言葉を……。


「アレス……殿下?」


「ここまでしても、君のことを守れなかった。ルルーシア……。俺は君のことを忘れてしまっても、何度繰り返しても、必ず君のことを好きになるから」


 愛する者からの魔法の鎖。

 あの時の言葉。あの時の約束。

 あの日から、私とアレス殿下を繋ぐ、美しい鎖。


 頭の中を色々な記憶が混ざり合いながらかき回す。


 その目は、いつもの優しいアレス殿下のものではない。狂気の炎と、絶望の闇を湛えていた。


 あなたをこんな風にしてしまったのは、私。


「全てを壊しても君を守ってみせるから。だから、今度こそ、俺のことを好きになって? ルルーシア」


 目の前にいるのは、小説の中の第一王子。アレス・ロレンディア……。


 私は、なんて答えればいいのだろうか。あの時答えることが叶わなかった、その言葉に。

 全てを犠牲にして、私のことを守ってきたあなたに。


 だって、目の前にいる人は、少しだけ小説よりも幼くて、私の前では輝く太陽みたいに大好きな笑顔を見せるアレス殿下ではない。


 それでも、悪役令嬢ルルーシアは、そして私は、言われるまでもなくずっとずっと、アレス殿下のことを……。


「私は……」


 私がその言葉の続きを伝えようとした瞬間、シーク先生に私たちは無理に引き離される。エルフ特有の耳を隠したそのクリームみたいな淡い金の髪が揺れる。


 私から離れた瞬間、我に返ったように、アレス殿下は青い海のような瞳を見開いた。それと同時に、危ういバランスで噛み合っていた光と闇の魔力で作られた鎖は、一度だけジャラリと音を立てて消えた。


「あ……」


 見開いたアレス殿下の瞳には、先程の狂気は見えない。


「ルル? ……俺はいったい。あ、怪我してる」


 いつもの、アレス殿下。そのまま、震える手で癒しの魔法をかけようとしたアレス殿下の手を、シーク先生が掴む。


「……これ以上の魔法の行使は危険だ」


 ――――アレス殿下の魔法。魔法の、鎖。


 シーク先生の、その言葉に、おそらく最後の瞬間に第一王子アレスが、悪役令嬢ルルーシアにかけた魔法の存在が、ジグソーパズルのピースがはまったように、私の中で確かなものになる。


「でも、ルルが」


「少し眠るように」


 シーク先生が、その言葉を発した途端、目の前にいたアレス殿下の体が大きく揺れて、シーク先生に抱え上げられる。


 ……アレス殿下、どう見ても魔力切れですね。

 そういえば、ヒロインもこの場面で魔力切れを起こして、シーク先生に抱き抱えられるのでした。


 私は、目の前の事実からそっと目を逸らす。


 カトルの魔力を抑えて、実現しないはずの闇と光の魔法を行使したアレス殿下。


 様子がおかしかったのは、魔力が切れてしまったせいなのだろうか。それとも、あの魔法の影響なのだろうか。


『君のことを忘れてしまっても』


 アレス殿下に、忘れられたら立ち直れない気がする。これからの人生と同じくらい、アレス殿下と過ごした日々は、私にとって価値があるから。


『もう、忘れないで』


 もう一度好きになってくれるのだとしても。


 きっと、あなたの言葉に、そんな答えしか、出てこない。


 再び記憶の渦に巻き込まれかけた私の目の前で、シーク先生がパチンッと手を鳴らす。その瞬間、私は水の中から引き上げられたみたいに、現実へと戻る。


「はあ。事情聴取する。アレスを休ませるから、学園長室に行っていなさい。ルルーシア・フリーディル」


 ……なぜ私だけ?!


 そう思ったけれど、アイシラはカトルを連れて、すでにこの場を離れてしまったようだ。いつもこんな時に頼りにしているアレス殿下は、倒れてしまった。


「はい。シーク先生……」


 私は、諦めて肩を落とすのだった。


最後までご覧いただきありがとうございました。


『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] アレス殿下のサファイアの瞳に狂気と闇が!小説の第一王子の願いが愛(かな)しいです〜 今度こそ2人で歩む未来を掴んでほしいです*\(^o^)/* お久しぶりのレイチェルさんに和みました^_^…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ