35 あの日と重なってしまったから。
光魔法がもたらした眩い光の粒は、まだキラキラと降り注いでいる。私は、真のヒロインを見ているのだろうか。
カトルは、アレス殿下の肩を借りて、私たちの元に近づいてくる。
アレス殿下の金の髪が、光を浴びて輝き、青い瞳はどこまでも澄み渡る最高級のサファイアみたい。
だって、この場面、この役割はヒロインのものですアレス殿下! ヒロインクオリティを奪ってます、殿下!
前々から思ってましたけど、ヒロインの活躍場面とか、攻略対象者たちと愛を育むための場面とか、奪い過ぎではないですか?
……でも、今は、そんなことはどうでも良い。
「ルル?」
「っ……。アレス殿下ぁ……。怪我してないですか? 無事でよかったぁ」
思わず私は、アレス殿下に縋りついた。
支えている腕の力が抜けてしまったのか、カトルが地面に落ちたけど、素早くアイシラがお姫様抱っこして連れて行ったから、お任せするとしよう。
うん? お姫様抱っこ? 小説では、力を使い果たしたアイシラを俯いたままのカトルが、お姫様抱っこして現れるんじゃなかったかな?
――――ま、いいか。
「ルル?! へ? あの……」
アレス殿下の腕が宙を彷徨う。
「……ちゃんと、無事ですか?」
重なってしまった。小説の中のアレス殿下の最後。
小説には描かれていなかったけれど、あの時、私はアレス殿下の側にいた。
だから、小説中最強とまで謳われた、第一王子アレス・ロレンディアは、光魔法を使うことができず、あまりにもあっけない最後を迎えたのだ。
もしかしたら、断罪の直前に、アレス殿下は、悪役令嬢ルルーシアを連れて、どこかに逃げようとしていたのかもしれない。
ルルーシアに、ある日を境にアレス殿下が冷たくなったのは、その機会を狙っていたからだったのかもしれない。
温かい鼓動が、私にアレス殿下の不器用な優しさを伝えてくる。
だって、あなたに俺様属性は似合わないですから。
「ちゃんと無事なことが分かるようにしてください」
その瞬間、息ができなくなるほど強く抱きしめられる。苦しいのに、心地よいのが不思議に思える、腕の中。
アレス殿下は、その腕輪のおかげで、私が側にいても、簡単に倒されたりしない。
だって、光魔法の使い手の第一王子アレスは、小説の中で誰よりも強い存在なのだもの。
それに、小説の中では、おそらくアレス殿下とヒロインに闇の魔力を奪われて、普通の令嬢として暮らしていたルルーシア。
今の私は、一緒に戦う力があるから。
『愛する者からの魔法の鎖に縛られて、冥府の門をくぐれない存在よ。……運命に抗う力が欲しいか?』
無意識に黒い剣に触れれば、不意に、フェイの声が鼓膜を揺らしていないのに、何故かはっきりと聞こえた。
それは、今、聞こえてきたものではなく、間違いなく以前どこかで聞いた台詞だ。
小説の中に、そんな場面出てくることはない。
ザワザワとする心と、愛しすぎて苦しくて、このまま全てが燃え尽きてしまいそうな腕の中、私はこの運命の閉ざされていた謎が、また一つ紐解かれたのを確かに感じた。
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