34 炎の冒険者が覚醒するようです。
その後も、アイシラのどじっこ属性はいかんなく発揮された。
小説の中では、そこまでドジという描写はなかったように思うのに。
何かが変わってしまっているのだろうかと思うくらい、いろいろなことを引き起こす。
それでも、冒険者クラスには女子生徒が私とアイシラしかいないこともあり、不思議なことに私たちは仲良く過ごすことが出来ていた。
もし、フェイの力が無ければ、近づくことすら苦痛だっただろうけれど。
小説の中の悪役令嬢ルルーシアは、魔力がそれほど多くなかった。そのため、特待クラスで一緒に過ごすことはできても、やはりアイシラに違和感や嫌悪感を感じたのかもしれない。
そして、私たちが高等部に進んでから一カ月が過ぎようとしていた。
小説の中では、もうすぐ事件が起こるのだ。
「カトル……どこか具合悪いところ無いの?」
「最近どうしたんだルルーシア。俺は元気だぞ?」
冒険者として活躍しながら、王立学園にも通っているカトルは、私たちと同じA級冒険者になっている。小説では、この時点ではB級だったはずなのに、全てが小説の展開からは離れていく。
「――――魔力が暴れているとか」
「……いや、相変わらず使うことができないけど」
もうすぐ、カトルが火の魔力に覚醒するはず。
そのとき、校庭の真ん中で大爆発が起こるのだ。
幸いけが人はいない。小説の中では、アイシラの力で事件は収束するけれど……。
ちらりと、アイシラを見る。
カトルとアイシラの出会いは、小説の中と同じだった……。
子猫を助けようと木に登っていたアイシラが、足を滑らせて木から落ちた時に、ちょうど下を通っていたカトルに抱き留められるのだ。
「アイシラがいれば大丈夫なのかもしれないけど」
でも、まだアイシラが光魔法に強く目覚めた様子はない。
小説であれば、光魔法の力を見出されて学園に入学してからすぐに、なぜか光魔法に覚醒するはずなのに。
私の闇魔法が吸い取れなくなったことで、聖女としての覚醒が遅れているのではないかというのが、私の仮説だ。
そして、その日の放課後に、その事件は起こるのだった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「アレス殿下! カトル!」
私たちは、放課後剣術の訓練をしていた。
今は、アレス殿下とカトルが訓練場の真ん中で手合わせをしている。
アイシラも混ざっている。アイシラは剣は使えない。
その代り、杖を持って戦うと、普段の動きが嘘のように相手を近づけさせることなく戦う凄腕の魔法使いに変身する。
そもそも、この世界のアイシラは特待クラスに選ばれるのではなく、冒険者クラスの試験を実力で通過したツワモノなのだ。
その時、異常な魔力の渦がアレス殿下とカトルを巻き込んで炎の竜巻のように急速にその威力で周囲を巻き込み始める。
「っ……アレス殿下」
「ルルーシア、私の後ろに下がって!」
私とアイシラの周囲に光の防護膜が作られる。
たしかに、この中にいれば私たち二人は安全かもしれない。
そして、魔力をフェイの化身である黒い剣の中に封印してしまった私は、こんな時には無防備だ。
「でも、アイシラが、カトルを助けないと」
「なに言っているんですか! どう考えても、私が今できるのはルルーシアを守ることです! それに、あの場にはアレス殿下がいらっしゃるんです。心配ないですよ」
――――あれ?
何かがおかしいのだけれど。
この時に、助けられたことで、カトルがアイシラに忠誠を誓うはずなのだけれど?
このままでは、私がアイシラに忠誠を誓うことに?
その時、光が溢れる。
あっという間に、炎の竜巻を飲み込んで、光の柱が天高く立ち上がる。
私は、小説と違う展開に呆然としながら、まぶしくて神話の中のように荘厳なその光景を見つめていた。
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